第77話 懐かしさ

俺たちが働きアリを狙い撃ちしてる事に向こうもようやく気付いたらしい。

働きアリと共に、常に兵隊アリが護衛のように帯同する様になった。

アリのくせに知恵が回るとかホント厄介だな…………。


それでも向こうに相当な被害を与えられたはずだった。

そのままの勢いに乗って巣も攻略できるものと思ってたんだ……………。




拠点に戦慄が走った。

バ・アントの変異種である個体が確認されたらしい、見つけたのは先行班の連中で、いつもの様に働きアリを駆除している最中にそいつは突然乱入してきたらしい。

リズ先生の説明にあった通りに身体の色はこの暗い樹海の中でも鮮やかに映る緑と赤だったそうだ。


そいつらは稀少個体とはいえ、バ・アントの戦闘力を考えれば尋常ではない強さだったらしい。

何とか逃げの一手に回る事で逃げ遂せた先行班は、拠点に逃げ込むなりへたり込み今尚震え続けている。


「あいつら楽しんでる気さえした…………俺たちを態と逃がしたんだ…………」


逃げ帰った連中の中の一人が、顔に恐怖を刻みながら呟いた。

それはつまり、連中に俺たちの拠点が知られちまったって事だ。

その日の夜――――――つっても一日中暗い樹海では時間の感覚なんて鈍るんだが、そこに当然のようにその二体の稀少個体が姿を現した。

幸い結界を突破できる程の力は無いらしいが、このまま俺たちを拠点内に押し込めるつもりらしい。


俺は櫓の上からその状況を確認する。

隣にはオーズさんが居て、リズ先生は無事に逃げてきた連中のケアに奔走している。


「ルシードよ、この状況をどうする?敵は此方に最大戦力を投入してきたようであるぞ?」


俺は改めて稀少個体二匹を観察する。

二足歩行する気持ち悪いアリ、二匹とも報告通りの色味で樹海の薄暗さで鮮明には見えないが、奴らの外殻独特のツヤは見て取れた。

他のバ・アントの姿は見えない、余程自信があるのか、それとも単純に手が足りないのか……………。

先行班の奴らの報告を疑うわけじゃねーけど、まずは一度戦ってみたいってのが正直な気持ちだった。


「…………一度、あの二匹と戦ってみたいです」


「指揮する者としては罰点であるが、その意気は花丸である。では一度戦って奴らの強さを痛感して来ると良いのである」

「ありがとうございます!」


俺は一礼して、戦いの準備を整えて拠点唯一の扉へと向かう。



「一人でアイツらとやり合うつもりかよ?」


拠点扉の前には、此処迄戦って来た後続班戦友たちが全員既に装備を整えて不敵に笑っていた。

その真ん中でロウファが一際不敵に笑っていた。


「こんな楽しそうな事独り占めはずりーだろ?俺たちも混ぜろよ?」


「強敵相手なら盾役は必須、でしょ?」


ヨードがすました顔で当然のように同行を申し出る。


「ホントにルシドっちってばもぅ…………まぁそれでこそルシドっちだけどね?」


にしし……とベルタが笑いかけてくれる。


「お前ら………これは俺の我儘だから付き合う必要なんて――――――」

「うっせぇ!俺だって強くなりてぇから言ってるだけだ!!けど俺一人だけじゃ確実になぶり殺しにされるからお前と一緒に戦うんだよ!悪ぃか!?」


「ロウファ君…………そんな堂々と言う事じゃないよ…………」


隣でヨードが呆れているが、俺は言いようのない気分だった。

強いて言葉にするなら…………懐かしさ、死んじまう前の俺が居たチームの仲間たちと一緒にバカやる前の様な高揚感だ。


「危なくなったら絶対に逃げろよ?あんまり余裕がないかもしれねーから」

「ったりめーだバカ!テメーのケツはテメーで拭くっての!」

「僕は出来れば撤退するとき援護が欲しいなぁ……………」

「援護と回復はウチらに任せてオケだから♪じゃんじゃんやっちゃって!」


回復、援護の魔法が得意な生徒は結界内から俺たちの援護を行ってくれるようだ。

前衛向きの連中は俺たちと共に扉の前に並び立つ、緊張感が肌で伝わって来て自然と力が入る。


「ルシード、テメェなんか言えよ…………このままじゃ委縮してロクに力を発揮できない奴らがほとんどだぜ?」

「そういうのはやりたい奴がやれば良いだろ?」

「流石にそれはダメだろうなぁ、やっぱりルシード君じゃなきゃ」

「そうそう♪ウチらのリーダーはルシドっちなんだからさ?気合入れてくんないと」


前世じゃこういうのは大吾がやってたから何か変な気分だ。


俺は後ろを振り返り、一緒にあの二匹と戦ってくれる仲間たちを見回して、


「テメェら無理だけはすんなよ!?命を張るのは此処じゃあねぇ!!今回はアイツらの強さがわかりゃあそれで良いんだ!けどなぁ――――――!」


「――――――倒せるんなら此処で!俺たちの手で!アリ共の最大戦力を倒しちまおうぜ!!」


俺はそう吼えると拳を振り上げた。

大吾が大きな喧嘩の前によくやっていた事だ、悪いが参考にさせてもらった。

それに応える様にしてみんなが咆哮を上げる。

普段大人しそうな女子たちまで拳を振り上げて、声を出していた。


くぅーっ!この感じ!懐かしいなぁチクショウ!!


不覚にも泣きそうになっちまったのを何とか堪える。

拠点の扉が開き、その前には稀少個体の二匹が御丁寧に奇声を上げて待ってやがった。

けど今の俺たちはそんな声にも委縮する奴は居ない。

俺は大きく息を吸って、


「っしゃあ!!出るぞッ!!」


全速力で駆け出した。

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