第73話 襲撃

俺たちは拠点に戻り、調理を開始した――――――って言っても軍学校に通ってるのは貴族も多い、料理をするのも初めてってやつがほとんどだった。


食材こそ傷む恐れがあるから現地調達となったが、調理設備等はそれなりの物が整えられていた。

おぉ?スゲェな、カレールーがある。

転生者だか転移者だか知らねぇが、こういったものならドンドン開発していってくれ、俺の生活が潤う。


料理が出来なくてもカレーならいけるだろ?って事でカレーを作る事にした。

ルーを見てたら懐かしくなって俺も食いたくなってきたんだよな。


「ルシードお前料理まで出来んのかよ…………………?」


カレーを作れるくらいで果たして料理出来るって言って良いのか?

こんなの材料切って鍋で焼いて、水入れて煮込んでルー入れるだけだろ?

スパイスから作らなくちゃいけないんだったら難易度は上がるかもしれねーけど、固形ルーがあるんだから簡単だろ?

そう思ってたんだが、周囲の連中は目を輝かせてカレー作りを手伝いながら見ている。


あー………そういう視線で見てくれるのは嬉しいんだけど、スゲーのはこの世界でカレールー作った奴だからなぁ。

他人の功績をさも自分のもののように言うつもりは無ぇから、適当に濁しておいた。






その時突然、拠点の結界が大きく揺らいだ。

同時に拠点内部にどこからかアラームの様なブザー音が鳴り響き、俺は櫓の上まで駆け上がって周囲の状況を確認する。


「あれは………………」


拠点の入り口から遠くの暗がりに目を凝らして見ると、そこには中型の魔物――――――けど俺たちが狩った奴よりも二回りほど大きなイノシシの魔物が群れを成して向かって来ていた。

どうやらこのブザー音は魔物が拠点に近付いて来たことを知らせる音らしい、その魔物の見据える先には薬の探索に出ていた先行班が追い立てられていた。


「何があったんだ!?」


櫓の下からロウファが叫ぶ、


「魔物だ!中型、だけど大きい!先行班が追われてるから拠点の門を開けてくれ!結界があるから入っては来れないはずだ!」

「わかった!」


そのままロウファは先行して門を開きに行き、俺も櫓から降りて後を追う。

その間にベルタとヨード、後続班が次々と門に集合していく。

拠点に残っていたリズ先生も門の前に駆け寄って来て、俺は状況を報告した。


オーズさんも同行してるから最悪の心配は要らないだろうけど、今のオーズさんはあくまでも試験官みたいなものだ。

魔物に追われる先行班の連中の対処をギリギリまで見てるつもりだろう、それこそ俺にとっては懐かしくもある早朝森ダッシュの時みたいにだ。



門を開放し、逃げ込む先行班の先頭を突っ走って拠点に逃げ込んで来たのはティムだった。

野郎……………リーダー名乗ってる奴が真っ先に逃げ込んできてどうすんだよ。

俺の苛立ちも当然気付く筈が無く、逃げ込んだ時に盛大に転んだことで膝を擦りむいたらしく、


「何やってるんだ!?僕はケガ人だぞ!?早く治療しろよ!?」


なんて――――――喚いていたんで、


「うっせぇ黙ってろ!!そんなとこにへたり込んで居たら邪魔だって気付かないのか優等生のくせに?それとも優等生様はその程度の怪我で痛くて動けないのか?」


リズ先生の邪魔になると思った俺は、ティムに対して挑発する様に嘲笑う様に言ってやった。


「ふん!この程度の怪我などどうってことないさ!キミたち後続班が適切な対処ができるかどうか試しただけだ!」


「そうかよ、だったら状況をきっちり理解してくれよ?今はお前一人の我儘に構ってられるような事態じゃない。理解できたか?」


別行動となる前に言われた事の仕返しで、更に煽ると面白いくらい顔を赤くして憤慨しながら大きな足音を立てて去って行った。

アイツはこんな時に本当に何考えてやがるんだ?


その後も続々と先行班が拠点に戻るが、肝心のオーズさんの姿がまだ見えない。

魔物を食い止めるために立ち塞がっているのか?

そんな事を考えていた時、拠点に駆け込んできた女子生徒がリズ先生に言ったことでそんな疑問は解決された。


「オーズ先生は深手を負った子に同行しています、私もギリギリまでその子の治療をしていたんですけど、拠点に行って応援を呼んで来て欲しいと頼まれました」


俺とリズ先生は顔を見合わせて、


「ルシードくんお願いできますか?」

「勿論!」


リズ先生はこの場で生徒たちの治療をしないと、今は圧倒的に手が足りていない。

離れられない事が悔しそうにリズ先生は唇を噛む。


「俺も行く」

「ぼ、僕も手伝うよ。此処に居ても役に立てそうにないし」

「ウチも――――――」

「いや、ベルタは此処で治癒力を高める効果がある舞踊魔法を踊ってくれないか?」


同行してくれようとしたベルタに、俺はそう告げた。

少しの間葛藤していたベルタは、


「うん。オケだよ♪此処に居る皆ウチの踊りで元気にしたげる」


納得してくれたようで、明るい声を出してくれた。




装備を整えて向かう前に俺はロウファ、ヨードと応援の目的を確認しておく。


「俺たちの目的はオーズさんが守ってる負傷者を代わりに拠点まで無事に連れ帰る事だ」


「オーズ先生と一緒に魔物を討伐しないのか?」


「それこそ僕たち三人じゃ、ある程度までは戦えるだろうけどあのサイズの魔物たちに囲まれたら厳しいんじゃないかな?オーズ先生に任せた方が無難だよ」

「悔しいけどそれもそうか…………よし!いっちょやるか!」


自分の拳を掌に打ち付けて、ロウファは気合を入れた。

俺とヨードもオーズさんのところに向けて走り出した。

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