第72話 後続班の要/仲間なら支え合って当然っしょ?

ティムのふざけた指示を完全にシカトして、俺たちは食料調達と食事の準備に取り掛かる事にした。

薬の素材の回収を選ばなかったのは、アイツらが作った食事が信用できない――――なんて意見が聞こえて来たからだ。


言いたくなる気持ちは良く分かるし、俺だって何も警戒せずに食えるか?って訊かれたら無理だって答えるわ。

それくらいにはティム及び先行班の態度は悪かった。

おそらくティムの野郎が俺たちを丸め込めると大見得を切っていたんだろう、オーズさんに召集されて薬の素材回収を告げられると、先行班のほとんどの奴が一斉にティムの方を睨みつけていたからな。


今も樹海へと共に調達に出た俺たちの耳に、


「なんで俺たちがこんな事」だとか、「やらなくて良かったんじゃないの?」と言った不満の声が聞こえてくる。

逆に俺はそうした声が聞こえてくるたびに、ロウファやベルタ、ヨードと顔を見合わせて笑い合った。




「――――――にしても、会長さんにも困ったもんだね。あれだけ不満をぶつけられても、薬の材料の調達をすればその分評価が上がるんだから良いじゃないかなんて言ってたよ?うざったいくらい逞しいよね」


食材調達の最中、ヨードが呆れた声を出してティムの事を言っていた。


「……………アイツ、さては全然反省してねーな」

「ウチ、アイツがまた何かやらかす方に夕飯一品賭ける♪」


「ベルタ、それだと賭けが不成立になるだろ?」


誰もやらかさないで大人しくしてるティムを想像できなかった。

きっと遠からず俺たちの期待に応え必ず何かやらかすだろう、その被害が先行班だけで済むのか俺たちにまで被害が及ぶのかは知らねーけど。



俺が副長してた頃のチームにもそういうのは偶にいた。

表向きは「皆の為に~」なんて言いながらも、自分の目的の為にしか動いて居なくて、詰めの甘さからボロが出る。

それを責められると「仕方なかったんだ」と逆ギレするか、「自分にはどうしようもなかったんだ」と不貞腐れるかで一切反省しない。


仕事したがる無能ほど厄介なものは無い。


やる気が空回りしてるだけ――――――なんて可愛げのあるものじゃない。

自分で仕事を創り出し、それをマッチポンプで解決して周囲には「頑張ってたでしょう?」と評価されることを求めてきやがる。

巻き込まれることになる周囲にとって、はた迷惑となんら変わりないって事に気付けっつーの。


ティムは久しぶりに出会うそんな奴のような臭いがする。

俺はそう決めつけに近い納得をすると、ティムとは出来るだけ関わらないようにしようと心に決めた。

そうしないとアイツがやらかした時、確実に巻き込まれるからな。



オーズさんは先行班と共に、リズ先生はケガをしてまだ復調出来ない生徒の為に留守番をしてくれていた。

俺たちは当初の目的通り、食材の調達を行う事にした。

先生の引率が無くて大丈夫なのか?と思うが、先行班を野放しにするのは危険だって事はオーズさんも重々承知していることだろうから何も言わないでおく。


普通に信頼されてるって思う事にするか。


その最中に後続班の俺たちの連携練度を上げておこうって事になった。

拠点に向かうまでの最中にも魔物を相手にそれなりに動けていた俺たちだったが、得意な事苦手な事、前衛向きか後衛向きかなど、話すことは幾らでもあった。


そして実際に食料となる魔物を狩る際に、色々と試してみたんだが……………。

みんな結構動きが良い、それだけじゃなくて自分の役割ってものがきっちりと理解出来てる。

……………それもそうか、それが出来なきゃ先行班みたいな結果になるって目の当たりにしたんだから必死にもなるか、誰だって魔物に襲われたくはないもんな。


ロウファは斥候として高い能力を持っているだけじゃなく、ある程度の戦闘能力も備えているので自由度が高い。


ヨードはそのガタイの良さを生かした盾持ち、さっきイノシシみたいな魔物の突進にも耐え抜いた頼れる壁だ。


ベルタは踊りによって周囲に様々な強化魔法を付与することが出来る。

その恩恵は最早後続班の全員が理解していた。


ある程度の魔物を討伐する頃には、ロウファ、ヨード、ベルタはそれぞれ後続班の要になっていた。






【ベルタ視点】


「おつかれー♪」


ウチはルシドっちの肩を叩いて声をかけた。


「あぁ、ベルタもおつかれさま」


ウチの事もちゃんと労ってくれるルシドっちはホントに凄い。

ウチの踊りによる付与魔法――――――舞踊魔法なんて呼ばれてるものは、物珍しくはあるけれど仕事としては凄く地味でウチはそれが納得出来なかった。


やっぱり戦闘の花形は前衛の人たちで、ウチみたいなサポートは日影の存在。

どれだけ見た目を派手にしたって、効果が上がるわけじゃない。

それでもルシドっちはそんなウチの事もちゃんと労ってくれる。

此処へ来るときも荷物をロウっちと一緒になって持ってくれたし、ホントルシドっちは優しくて良い人過ぎるよ……………。


「どうかしたのか?」


嬉しさを堪えきれずにニヤニヤしちゃってたらルシドっちが心配そうにウチの事を見ていた。


「うぇ!?あぁ、うん。ルシドっちはウチの仕事に気付いてくれるんだなぁって思って」


「そんなの当たり前だろ?俺だけじゃなくて後続班の全員が理解してる事だよ」


考える間もなく、すぐにそう言ってくれたルシドっちはきっと本当にそう思ってくれてる。



休憩中にルシドっちは他の子たちに声を掛けて行ってる。

そんな光景を見てロウっちが、


「アイツはマジでバケモノか何かだな……………」


ぽつりと呟いた。


「ロウファ君、言い方――――――」

「いやだってそうだろ?アイツ戦闘中も人一倍動いてるんだぜ?揺動、攪乱、援護、回復、防御、攻撃、俺たちへの指示出しまで全部こなしてるのに、平然と他の奴のことまで気にかけてるんだ、どんだけ体力あるんだよ?」


窘めたヨドっちも、ロウっちの言い分に頷くしか出来なかったみたい。

まぁウチもだけどね?


「魔物と会敵しても毎回僕たちのような盾持ちを前面に押し出すだけじゃなくて、魔法で牽制して勢いを殺してくれたりするからね……………僕としても戦いやすいし前に出やすいよ」


ヨドっちは場合によっては一番前で魔物の攻撃を受けなきゃだから、一番疲れる場所でもある。

それでもウチらと会話できるくらいに消耗していないのは、ルシドっちのおかげだろうね。


「………………けどずっとそのままっていうのは悔しいよね?」


ウチは何となくそんな事を口走っていた。

二人が意味わかんないって顔して――――――えーっと、


「だってさ?それってルシドっち一人に頼りっきりって事じゃん?今の内に絶対ルシドっちの負担も減らさなきゃだと思う。守られて当たり前なんかじゃなくて、ウチらは仲間なんだから支え合って当前っしょ?」


ウチなりに言葉を尽くして言ったつもりだったけど、二人はまだぽかーんとしていた。あぁもう!!これ以上上手い言葉が見つかんないよぉ………。


「ベルタ、お前たまに良い事言うな?」

「うん。見かけによらないよね」


「ぬなっ!?二人とも酷くない!?ウチだって色々真面目に考えてるし!!」


丁度その時ルシドっちが戻って来て不思議そうな顔をしたけど、ウチらは笑って誤魔化した。

だって恥ずいんだもん。

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