第71話 教えて、オーズ先生

その後何度か休憩を挟み、その間に樹海に住む魔物たちにも何度か襲撃された。

けれど全員が警戒を怠ることなく進んでいた為、大きなケガを負うような事態にはならなかった。


そうして進む俺たちの前に丸太を立てて作られた壁が見えて来た。


「皆、後少しよ!あれが実習で過ごしてもらう拠点よ」


先導するリズ先生の声も弾む、その拠点を早く見ようと列の後方も駆け寄ってくる。

それは高さ3メートルほどの壁だった。

樹海のど真ん中に立つそれは離れた位置から眺めて見ても端が見えない。

どれくらいの広さがあるのか想像もつかないまま、リズ先生は拠点の入り口の前まで移動した。


そこも木製の大きな扉で出来ていて、”門”と呼ぶのが適切な感じだ。

その門の上には櫓が組まれていて、リズ先生はそこに呼びかける。


「後続班が到着しました!開門をお願いします!」


その声に反応する様に門がゆっくりと開かれ、俺たちは中へと足を踏み入れる。


……………マジか。


拠点の内部はかなり広かった。

普段勉強している教室――――――あれの5倍くらいの広さがある。

拠点内部にも幾つかの木造の小屋が建てられていて、拠点のど真ん中には井戸まで設置されていた。


「すげえ……………」


ロウファも無意識にだろう、驚きが呟きとして漏れていた。



そんな俺たちを迎える様に、オーズさんが腕を組み仁王立ちで出迎える。

怒ってるわけじゃねーけど…………何か苛立ってねーか?

オーズさんの纏う雰囲気から、俺はそんな風に思った。

そしてその苛立ちは俺たちにではなく、オーズさんの隣で副官面してるティムに向けられている気がした。

本人は全く気付いていないようだ、能天気に俺たちに向けて勝ち誇るような笑みを向けてきている。


別行動を提案した俺と引率のリズ先生が一応後続班の代表として、オーズさんに報告に向かう。


「オーズ先生、リズベット以下後続班52名現着しました」


リズ先生が軍人宜しく敬礼して到着の報告をすると、オーズさんはそのまま「うむ」と頷いた。

やっぱ機嫌悪いな…………リズ先生の癒しオーラでも浄化出来てねーとは。


「途中何度か魔物と交戦しこれらを撃退、軽傷者が何名か出ましたが既に生徒間で治療済みです」


俺はリズ先生の後に続くように、報告をした。

軽傷者――――――の辺りで、オーズさんの雰囲気が剣呑なものになる。


「ルシード。貴様は生徒間だけで治療しただけで、そのまま此方に来たのであるか?」

「いいえ。治癒後に念のためリズ先生に確認してもらい、問題無いと判断した上で此方に来ました」


良く分からねーけど、俺の返答を聞いたオーズさんからさっきまで立ち込めていた剣呑さが霧散した。


「リズベット先生、疲れているであろう処すまぬであるが、此方も魔物の襲撃によって負傷した生徒が居るのである。念のためそちらも診てはもらえぬだろうか?負傷した生徒たちはあの小屋に居るはずである」


「あ、はい。わかりました」


リズ先生はオーズさんの指し示した小屋へと駆けて行った。


「御苦労であった、後続班の皆はまずはゆっくりと身体を休めるのである」

「オーズ先生!!待ってください!!」


オーズさんの指示に俺が踵を返そうとした時、さっきまで黙って居たティムが声を荒げた。

それにほんの一瞬だけ、オーズさんは顔を顰めてティムに発言を促した。


「どうしたのであるか?」


オーズさんに発言を許されたティムは、


「後続班の連中は今まで休憩を取りながら此処迄来ているのですから、当然体力は余っているでしょう?休憩なんて不要です!すぐにでも働いてもらわないと!!」


……………何言ってんだコイツ?

そのふざけた声は俺の後ろで待機していた後続班にも聞こえたらしく、ロウファとベルタが駆け寄って来た。


「ふざけんな!!何が僕たちの為に――――――だ!!先に着いてたテメェらの方が充分休息出来てるはずだろ!?」


「何を言うかと思えば…………僕たちは既に必要最低限の労働を終えているんだ。後続班のキミたちが残りの仕事をするのは当然だろう?そうでなければ公平じゃない」


公平、ねぇ…………?


「生徒会長さんよ?その必要最低限の仕事って、具体的に何をしたんだ?」


どうせ大したことしてねーんだろ?

後で来る俺たちにほとんどやらせりゃ良いって思ってたんだろ?

思う事は皆一つで、後続班全員からの視線にたじろぐティムだったが、


「そ、装備の点検と補修、拠点に張ってある結界を維持している魔晶石の点検、それに!宿舎の清掃をしてたんだ!!」


魔晶石ってのはこの世界に満ちてる魔力が結晶化したものらしい、継続的に魔力を消費する装置などにはこれが主なエネルギー源として利用されている。

要は魔力版バッテリーだな。


「オーズ先生しつもーん。此処にある装備ってすぐに点検と補修が必要なくらいボロっちぃ物なんですか?」


ベルタが元気よく手を挙げて、オーズさんに質問する。


「いいや、此処へと持ってくる以前に吾輩とリズベット先生とで全て確認している新品の装備である」


「重ねてしつもーん。宿舎って来てすぐに清掃が必要なくらいボロっちぃ建物なんですか?」


「自動洗浄、自動清掃の効果を拠点全ての施設に施してあるので、必要無い筈である」


「最後にしつもーん。拠点の結界維持してる魔晶石って以下略?」


「純度の高い最高品質の物で、状態は常に吾輩の監視下にあるのである。略した部分にあるであろう質問に答えると、点検など不要である」


ベルタの「あっれれ~?」な名探偵ばりのわざとらしい質問に、後続班からも笑い声が聞こえてくる。


「おっかしいよねぇ?会長さんたちがやった事って必要最低限どころか、本来必要無い仕事ばっかりなんじゃない?」


ベルタにそう問い詰められて言葉に窮するティム、


「そうだよなー。それなのに自分たちは仕事したとか言って、他人に仕事を丸投げにするのは生徒会長様のすることじゃねーよなー?」


そこへすかさずロウファが悪い顔をして、ティムの肩を組んで追い打ちをかける。

すげぇな、打ち合わせしてたんじゃねえか?ってくらいの連携だった。

後ろの後続班の皆からも「そーだそーだ!!」と声が上がっている。


形勢逆転――――――というか、初めから最後までこっちの圧勝だった。


よくもまぁイキって言えたもんだよなぁ?

オーズさんが苛立ってたのはこれが原因か?

…………違うな、まだなんかあるって顔してるし。


「オーズ先生、因みにすることは何が残っているんでしょうか?」


俺はもうティムを無視して話を進める事にした。

ロウファとベルタに封殺されてんだぜ?これ以上は時間の無駄だ。


「食料の調達と食事の用意、後は薬の原料となる素材の回収であるな」


……………樹海に出ないといけないヤツばっかじゃねぇか。

さては魔物の襲撃に遭ってビビって樹海に出たくねぇんだな?

まったく、そんな小賢しい事考えずに素直にそう言えば良いじゃねーか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る