第68話 超練!!

「いざ!出発である!!」


オーズさんの勇ましい掛け声が合図となって、校外実習のオーズ先生による超・超特別訓練――――――略して”超練”の始まりとなった。

事前に何をするのか?何処へ行くのか?を知らされていなかった為、出来るだけ荷物は最小限に止めて動きやすさを重視した。


「オーズ先生!何処へ向かうのですか?」


オーズさんが歩き始めた処で、一人の男子生徒が挙手して質問を飛ばす。

質問した彼を含めて、俺の周囲に居る同級生たちはみんな不安そうな表情をしていて、それが誰一人望んで此処に来た訳じゃねーことを語っていた。


どうやらマリー、モア、イザベラたちは希望する実習へと向かえたようだ。

ちょっと残念にも思うけど希望が叶ったって事なら文句言うのは筋違いだな。



「質問は受け付けぬ!貴様たちは吾輩について来るだけで良いのである!!」


オーズさんの横暴とも言える態度に、同級生たちは不満気な顔を隠そうともしなかった。

俺はもう慣れたし何か理由があっての事なんだろうと察したけど、そんなの他の連中には解らないだろう。

同級生たちは渋々オーズさんの後ろに続いて歩き始めた。

荷物は皆バラバラで、徒歩での移動だと知っていれば荷物も軽くしただろうに、女子生徒たちの中に一際大きな荷物に潰されそうなのが居た。


「ふひぃ…………ふひぃ…………」


黄緑色の髪をサイドでポニーテールにし、緩くウェーブさせたその女子は小麦色の肌、大きな緑の瞳、目の周囲にはキラキラとラメが光る――――――ギャルのようだった。

まだ町から出ても居ないのに、フルマラソン中の素人のような限界な顔を晒した女子生徒はもう既に泣いていて、鼻水迄垂らしていた。

そんな彼女に一人の男子生徒が近付いて行き、声を掛けていた。


くすんだ赤いツンツンしてそうな短髪、瞳の色も赤、俺と同じくらいの身長のそいつは誰より早くその女子生徒に声を掛けていた。

中々できる事じゃない、俺も感化されて近付いて行った。


「大丈夫かよ?」

「もぅ…………マジで無理ぃ…………」


まだ始まったばかりとは思えない程の限界っぷりに俺も心配になって、少しペースを落として彼女に寄り添う。


「荷物が多いけど何が入ってるんだ?」


「わっかんないよぉ……………。けどばっちゃがアレも持ってけ、コレも持ってけって――――――したらいつの間にかこんななってて、折角婆ちゃが用意してくれたの出すわけにもいかなくてぇ……………」


耐寒訓練に行った連中でも持ってなかった大きなリュックがパンパンになっているのは、どうやら孫を心配した彼女の婆ちゃんによるものらしい。


見た目に似合わずというのは失礼かもしれないけど、婆ちゃん娘なのか。

荷物の整理を自分でするのは当然にしても、心配してくれている気持ちを無下にできなくてそのまま出て来たって事か。

コイツ…………馬鹿だけど良い奴だな。


俺は彼女の背後にそっと移動すると、彼女の背負うリュックを持ち上げてやった。

それを見た最初に声を掛けていた男子生徒も一緒になってリュックを持ち上げると、


「お?おぉ?何か荷物が軽くなった?ウチに秘められし謎パワーが開眼した?」


「俺たちが持ってるんだよ!」


男子生徒がツッコミを入れる。

俺は内心そっちよりも謎パワーの方が気になってしまった。


「とりあえず何処かで休憩になるまでこのまま行って、そこで荷物の整理をしよう。このままじゃ荷物のせいでキミが真っ先に脱落するだろ?」


「けど婆ちゃが……………」

「キミのお婆さんの事は知らないけど、そのせいで実習で脱落したとなればキミのお婆さんは気に病んだり、悲しむんじゃないか?」


俺はそれっぽい事を言って荷物を減らさせる事にした。


「…………そうだよね、ありがと。ウチは三組のベルタ、二人は誰さん?」


ベルタは袖で涙と鼻水を拭って自己紹介した。

立ち直りが早いのは元々の前向きな性格が所以なのかもしれない。


「俺は一組のロウファ」


「俺は五組のルシードだ。よろしく」


「ロウっちは知らないけどルシドっちは無敗の有名人じゃん♪よろ~♪堅苦しいの苦手だから気楽に話してくれてオケだから♪」


さっきまでの限界顔が嘘のように上機嫌になり、足取り軽く歩き始めるベルタ。

無敗の有名人て………まあ別に良いけどよ。

俺とロウファは顔を見合わせ頷き合うと、そっとリュックを支えていた手を放した。


「うひゃぁ!ロウっち、ルシドっち、手ぇ、離さないでよぉ…………」


途端に力む様な声が出るベルタにお互い苦笑いしつつも、


「まずは何か俺たちに言う事はないのか?」


ロウファはドスの利いた声を発してベルタを脅していた。


「荷物を持ってくれてありがとうございます。休憩までの間持っていてもらえるととても嬉しいです。だからホント早くリュックを支えて下さいお願いします」


ベルタはその余裕の無さからか、さっきまでの軽い感じの話し方では無くて、懇願する様に早口で捲し立てた。

俺はまたそっとリュックを持ち上げて支えてやると、ベルタは「ふぃ~」と息を吐いたあと――――――、


「ホントありがとね?荷物の中に食べ物あったら三人で食べよーよ♪」




それから俺たちは町を出て、街道を進んで行く。

途中何度も魔物に襲われたが、同級生たちの活躍で全て撃退されていた。

それも評価の一部になるらしく、オーズさんたちは手を出さずにいた。


隊列――――――なんて上等なものではないけれど、先頭をオーズさんが進み、最後尾にはリズ先生が控えていた。

因みに俺たち三人のすぐ後ろにリズ先生が居る。


何時間ほど歩き続けただろうか、時計を持ってないからわからないが相当な距離を歩いて来ていた。

既に日は天辺から少し傾き、みんなも疲労の色が濃い。

ここまで小休憩さえなしで歩き通しだったからロウファとベルタも疲れが出て来ていた。



「この先――――――………どうやら俺たちは樹海に入るようだぜ?」


この道に覚えがあるらしいロウファが告げた。

今俺たちの居るフィーネルブルーメ領、その隣にあるカルタエルゴ領との間を隔てる様に存在するバサルト樹海だったっけか?校外実習で地理の勉強が役に立つとは思わなかった。


「遥々樹海まで来て、一体何をさせるつもりなんだろうな?」

「さあな?そこまではわからないが、嫌な予感しかしない」

「サバイバル訓練と似たようなものじゃん。ウチ虫苦手なのにー」


三者三様の感想と共に、俺たちは樹海に入る手前の平原で休憩出来る事になった。


「だぁーもう。疲れたーっ」


疲れていると言いながらも元気いっぱいな声を上げるベルタ、リュックを地面に投げ出すとその場に大の字に寝転がった。

俺たちは此処に至るまで制服のままだったからベルタも当然スカートで、寝転んだ拍子にスカートが捲れ上がって水色のパンツが丸見えになっているのだが、そんな事にも構っていられないらしい。


「ベルタ、疲れてるだろうけど今のうちに荷物の整理をしよう?」

「ウチはもう動きたくないから…………ルシドっちが適当に漁っといてー?」


「さすがに女子の荷物を、はいそうですかと漁るほど勇者じゃねーよ」


俺の返事にベルタはのそのそと上体を起こし、捲れたスカートに気が付いて慌てて直した。


「見えてた……………よね?」


恥ずかしそうに訊いて来たベルタに俺もロウファも言葉を濁す。


「まぁ疲れてこんな場所で寝転んだウチが悪いし、二人は気にしなくて良いよ?逆に汗かいてべっちょりだったから気分悪くしちゃってない?」


「いや。良いもの見せてもらった……………」

「ロウファ、幾らベルタが気にしなくて良いって言ったからって、その感想も何か間違ってる気がするぞ?」




そして俺たちは漸くベルタの荷物整理に取り掛かったわけだが――――――。


「ほとんどが菓子て………………」


ロウファの呟き通り、中身のほとんどがお菓子だった。

それも”お友だちと一緒に食べなさい”という手紙付き、ベルタの婆ちゃんは遠足か何かと勘違いしたのかもしれねーな。


「婆ちゃ……………」


婆ちゃんからの手紙を読み返し、涙ぐんで大切そうに胸に抱くベルタ。

その後ベルタはリュックに入っていたお菓子のほとんどを同級生たちに配り歩いていた。

うん、やっぱいい奴だわ。

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