第69話 いざ、バサルト樹海へ!!

予想外に配布されたお菓子によって士気が持ち直した超練参加生徒一同、今まで休憩無しだった分、此処で長めの休憩をするらしい。

同級生たちにまたちらほらと笑顔が見られ始めて、校外実習が辛いだけの思い出にならずに済んでよかった――――――なんて、そんな風に思った。


俺はまだ体力的には余裕があった為、二人とは別で樹海近くまで歩いて来ていた。

樹海の樹一本一本が太く、今居る全員で手を繋いでも囲みきれない程立派な大木が、それこそ高層マンションのように天に向かって伸びていた。

それが乱立している状態の樹海は陽の光が遮られ、俺が今いる所からじゃ奥まで見通せない位に暗い。

時々忘れそうになるファンタジー要素がこういうところで現れてるわ。


「ルシード」


声を掛けられて振り返ると、ロウファが仏頂面で立っていた。


「あまり樹海には近付かない方が良いぜ?近頃はヤベー魔物の巣窟だって聞いてる」


「あぁそれは大丈夫だ。これ以上近付かない限りは襲って来ねーよ」


姿は見えねえけど濃密な殺気が飛んできてるのは知っていた。

きっと俺があと数歩近付けば襲い掛かって来るつもりなんだろう、どうもさっきから狙われてるような感じがする。

俺はそのままロウファと共に戻る事にした。

俺一人で対処できりゃ良いけど、ロウファを巻き添えにするつもりはねーし。




超練参加者たちの輪に戻ると、しばらくしてオーズさんが集合をかけた。

俺たちは駆け足でオーズさんの前に等間隔で集まって、両手を後ろに休めの姿勢になる。

全員のその様子を確認したオーズさんは一度「うむ」と頷いた後で話始めた。


「これよりッ!!吾輩監修による校外実習、超・超特別訓練――――――略して”超練”の内容を説明するのであるッ!!」


全員が傾聴する中、オーズさんは声を張り上げる。


「バサルト樹海には今現在厄介な魔物が棲み付いているのである!その名はバ・アント、アリの魔物で単独では大したことないが群れを成せばその脅威度は跳ね上がる魔物である!

繁殖能力がずば抜けて高く、群れのトップであり、唯一子を産むことが出来る女王を殺してもその群れの末端が生き残っていればすぐにその者が次の女王としての能力を備えてしまうのである!」


なんだそれ?徹底的に殺し尽くさないとすぐにまた湧き出してくるって事か?


「貴様らにはこのバ・アントの討伐、及び巣の徹底駆除をしてもらいたい!此処で食い止めなければ近くにある村や集落は全滅を免れないのである!まずは吾輩が用意した場所まで移動する。そこは実習中は安全地帯として結界を張ってある!そこを拠点に貴様らにはバ・アントの巣を割り出し、駆逐するのが今回の実習内容である!!」


ただ数を減らすだけじゃ時間稼ぎにしかならないって魔物を相手に、俺たちがどこまでやれるのかはわからない。

けど放っておけば村や集落に被害が出るってんならやるしかねーか。




オーズさんの説明の後、俺たちは制服から訓練着に着替えて樹海へと足を踏み入れた。

外から見た印象と同じで、中は暗くてひんやりとした空気が不気味に感じる。

濃厚な樹々の香りと若干のかび臭さが混ざり合っていて、足下はぬかるんでいて思う様に動けず疲労度が増す。

灯りを点けるかどうか悩ましいところだ、此処に獲物が居ますよと教える様なものだけど、視界が確保できるメリットは大きい。

結局、暗さに目を慣らして進むことにした道のりは、オーズさんが先導してくれているとはいえ想像以上に疲弊させた。


「ロウファ、右の警戒頼めるか?俺は左を担当する」

「あぁ了解だ。全方位警戒しなくて良いのは正直助かるぜ」

「ウチも何かしよっか?」


「そうだな……………またどれくらい歩くのかわからないから、疲れたら交代してもらえるか?」

「オケだよ。ロウっちもルシドっちも疲れる前に遠慮なく言って?疲れて集中切らしてからじゃ遅すぎだかんね?」


これには俺とたぶんロウファも驚いていた。

ベルタの言い分は正しい、先が見えない状況下では疲れを感じる前に交代するのが理想的だからだ。


「…………意外だな。そういう気遣いが出来る奴とは思ってなかった」

「にゃんだとぅ!?ウチこれでも座学は真ん中位の成績キープしてるし!」

「真ん中くらいなんだ…………」


そうして俺たちはベルタに良い意味で緊張を適度に緩和してもらいながら、周囲を警戒して進む。

そんな俺たちを前を歩く同級生たちは鼻で笑っているようだが、最後尾にはリズ先生が居るとは言え、此処はもう魔物のテリトリーの中だ。


”先生が引率しているし大丈夫”だなんて思わない方が良いんだけどな。


そりゃあ何かあれば先生たちが助けてくれるだろう、けどこんな状況下ではすぐには動けない。襲われた生徒を助ける間に別の生徒が危険に晒されるかもしれないからな。

そして助けを待つその間に腕を失うか、足を失うか。それとも運悪く命を失うという事態にも成り兼ねない。


警戒しておけば少なくとも先生たちが動揺する同級生たちをまとめて応援に来るまでの時間が稼げるかもしれない。

それは説明なんてしなくてもロウファとベルタは理解していたんだが、どうやら理解できない奴が大多数らしい。

そんな連中を見て――――――、


「なぁ?この実習の期間中、俺たち三人で手を組まねぇか?」


ロウファがそんな提案をしてきた。

要するに”あいつらと手を組む気は無い”って事なんだろう。

これにはベルタもすぐに、


「ウチもそれ賛成♪アイツら何か感じ悪いし」


と、賛同した。

そんな中、今まで前を歩いていた同級生の中でも一番背の高い男子がふらふらと後退してきた。


「ど、どうしてみんな無警戒で歩けるんだよぉ…………」


情けない声を出しながら周囲を警戒する彼は黒いマッシュルームのような髪形をし、目はニーアさんの様に細くて瞳が見えないが半べそ掻いてるのだけは解る。

そんな彼にロウファが肩を組んで、


「お前も俺たちと組まないか?樹海の中を無警戒に歩くなんてマネ俺たちには出来ねーからよ」


「良いの!?僕一人じゃ不安で不安で怖かったんだよぉ…………僕はヨード、宜しく」


俺たちは自己紹介を済ませ、隊列の前の状況をヨードから聞く。


「酷いもんだよ、オーズ先生の背中が見えてる安心感って言うのかな?そのせいでみんなオーズ先生から離れないように早いペースで進んで行ってる。まるでカルガモの親子のようだよ」


言い得て妙だったから思わず笑っちまった。

けどそれじゃダメだよな?隊列じゃねーって事だ。

前の方を歩いてる連中は、はぐれないようにオーズさんの背中に意識を向けてしまって居るって事だった。

それを聞いた俺たちは爆発的に不安が大きくなるのを感じた。

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