第67話 校外実習

月曜になり、まず最初のホームルームの時間にファナル先生が黒板に”校外実習”と書き込み振り返った。


「今からみんなに校外実習について説明するから良く聞いておいてね?」


ファナル先生の説明によると、この校外実習は六年生だけの特別プログラムらしい。

まぁ五年生の時にも野外宿泊訓練とか言って、演習場のど真ん中にテント張ってキャンプみたいなものをしたんだが、今回の校外実習はそれの上位互換に実戦的な訓練を足したものになるそうだ。


一、警備隊に仮入隊し、実際に任務に当たる。

二、冒険者ギルドに登録し、実際に依頼をこなす。

三、年中雪が積もってる山頂での耐寒訓練。

四、無人島でのサバイバル訓練。

五、オーズ先生監修☆超・超特別訓練。


それら五つの中から第一から第三希望までを記入して提出し、後は先生方の判断によって選ばれるらしい。

一学年役五百人程だから、実習一つにつき定員は百人。

実習期間は全て二週間、それぞれの課題に先生たちも同行する。


警備隊に仮入隊はそのままだ。

警備隊の寮で二週間生活し、実際に町の警備や取り締まりなどを行う。

その間の勤務態度などで評価が付けられる。


冒険者ギルドでの業務も似たようなものなんだけど。

依頼をこなして行かないと当然評価は上がらない。

依頼を失敗すれば当然評価も下がるので、自分の実力に見合った依頼を選ぶことも評価に繋がってるみたいだな。


耐寒訓練の厳しさは毎年学年が違っても聞こえてくる。

毎年脱落者――――――ギブアップする生徒が一番多いのがこの耐寒訓練だ。

まずはその雪山の麓に魔法で転移、その後山頂付近にある野営予定地まで荷物を背負っての約三日間の登山、その後山頂で一週間生活をしてまた来た道を三日かけて降りるというもの。

どれだけ隊列を崩さず、仲間と協調できるかが評価されるらしいんだが、山を登る前にギブアップする生徒が続出して、今年から山頂に着くまでに脱落した者は追試なしの最低評価になるそうだ。


無人島でのサバイバル訓練もそのままだな。

島まで転移してそこで二週間過ごすことになる。水、食料の持ち込みは禁止、完全自給自足であるため、水と食料の確保の仕方が載ってある書物は必須アイテムだ。


そして五番目なんだが、ファナル先生も知らされていないらしい。

只、オーズさんがここの処妙に張り切って準備に取り掛かっているそうだ。

それを聞いた時、クラス全員が息を呑む。

ヤベーな、何がヤベーってオーズさんが張り切ってるって所が一番ヤベーわ。

死人が出るんじゃないか?何て声も教室に聞こえて心の中で同意する。


「安心して、リズベット先生も一緒だそうだから」


ファナル先生……………それはフォローになってねーよ。

寧ろリズ先生が絶対に必要なんだ――――――って不安になっている。

二人でイチャイチャするつもりなんだとかの考えが真っ先に浮かばないのが余計に不安を煽ってくれやがる。


「あぁそうそう、ルシードくんはこれに強制参加だそうよ?」

「は?」


最後にファナル先生が爆弾を投下していきやがった。

選択権すらねーのかよ!?まぁ訊くだけ訊いといて裏でこっそりとされるよりは良いけども――――――なんか納得いかねー!!



ホームルームが終わり、校外実習の希望を記入する用紙が配られた。

全員行き渡るはずのそれは俺のところには届かなくてちょっと寂しかった。

くそっ!マジで俺は強制参加かよ…………。


「オーズ先生のお弟子も大変ね?」


そんな俺に隣の席のマリーが声を掛けて来た。

同情がたっぷりと含まれた視線に、マジで泣きそうになる。

イザベラとモアも寄って来て、いつものメンバーだ。


「オーズ先生にも困ったものですわ、選択権すら与えないだなんて…………」


「オーズ先生のアレは今に始まった事じゃないからねー」


イザベラは呆れ、モアは諦めモードだ。

この様子じゃあ三人とは別の実習になりそうだと判り、残念にも思ったけど三人にオーズさんの特訓を一緒に受けて欲しいだなんて言えるわけも無ぇし。


俺は早々に腹を括ってオーズさんの特訓を丸々二週間みっちりと受けられるんだと前向きに捉える事にした。



「三人は何処を希望するんだ?」


俺は話のネタになればと思い訊いただけなんだが、教室の音と言う音がピタリと止んでクラス全員が聞き耳を立てているようだった。

まぁそりゃあ三人は可愛いし、成績優秀だから一緒になればそれなりに好成績を取れるだろう、クラスメートたちの必死さが窺える。


「私は第一がサバイバル、第二が警備隊、第三がオーズ先生の特訓よ」


マリーが考えた末にそう口にした。

確かにマリーの知識と魔力量ならサバイバルも全く苦にならないだろう。

意外だったのは第三希望とはいえオーズさんの特訓を候補に入れた処だ。


「わたくしは…………そうですわねぇ、警備隊、冒険者、オーズ先生の特訓………の順番かしら」


耐寒訓練とサバイバルを避けたのは、彼女を慕う女子たちが付いて来やすいようにするための何ともイザベラらしい配慮だろうな。

またしても第三希望にオーズさんの特訓がランクインしてるのは謎だが、まぁイザベラが選んだんだし俺がとやかくいう事じゃねーわ。


「私はねー。冒険者、サバイバル訓練、オーズ先生の特訓だよ?」


事務的な仕事も含まれるだろう警備隊への希望をしなかったモア、耐寒訓練に人気が無いのは言わずもがな。

オーズさんの特訓を三人ともが第三希望にするという奇跡が起きて居た。


「三人ともオーズさんの特訓を希望してるけど大丈夫か?もし希望者が多くて先生に第一、第二希望から弾かれたら確実に決まると思うぞ?」


俺の質問に三人は揃って頷いた。


「耐寒訓練になるよりかはマシよ」

「私、寒いの苦手な獣人族だから…………」

「わたくしも空気の乾燥が気になりますもの」


人気無-なぁ耐寒訓練、まぁ俺も選べたとしても希望してなかっただろうけどさ。

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