第59話 最初で最後の親子喧嘩だ!!/オーズの決意
俺の叫びに呆然としていたロイさんも、その言葉と状況を徐々に理解していくにつれ、その顔は険しくなり、顔が怒りに赤くなっていく。
上等じゃねーか!!今回ばっかりは俺から喧嘩売ってやるよ!!
アンタの事信じてたミューレさんに、これ以上の無様を晒すんじゃねーよ!?
俺もロイさんの怒りに委縮しそうになるルシードの心を必死で奮い立たせる。
ビビるんじゃねー!!テメーも母親が大事なら、男見せろよクソガキ!!
そう思うだけで不思議と今にも震えそうだった足はしっかりと床を踏みしめ、すぐにでも下がってしまいそうだった心は、根性見せ始めた。
「当主であり父親たるこの私にこのような――――――覚悟は出来てるんだろうな!?」
「こんな時ばっかり父親面するな!!母上に嘘吐いて!悲しませて!泣かせて!お前なんてもう父親なんかじゃない!!」
途端、俺はロイさんに殴られていた。
けど、それだけだ。
俺はロイさんから目を逸らさないし、一歩も下がるつもりもない。
心が折れそうになる気配も無い。
やりゃあ出来るんじゃねーかよクソガキ、このままミューレさんを守るぞ?
「いつまでも僕を弱虫のままだと思うなッ!?お前なんてもう怖くない!!母上の脚に縋りついて許しを乞うて、みっともなくて恥ずかしい!そんなお前が父親だなんて僕の方から願い下げだッ!!」
俺はロイさんに向けて勢いをつけ、そのまま顔面に頭突きしてやった。
「ふご――――――」
ロイさんは勢いに負け、そのまま尻もちをついて床にへたり込む。
鼻からは血が出て、前歯も一本無い。
そんなロイさんを俺はミューレさんを背に庇ったまま睨みつけて、
「これからは母上は僕が守る!お前なんかには渡さない!!」
ロイさんはそれきり立ち上がってこようとはしなかった。
何も言わず、ただ呆然と床を見つめ
そこに、
「貴方が愚かだったおかげでルシードはこんなにも立派に、頼もしく成長してくれました。そこだけは…………感謝しておきます」
ミューレさんはそう言って左手の薬指に嵌められた指輪を抜き取り、ロイさんの前にそっと置くと、
「それじゃあ教会までのエスコートをお願いできるかしら?頼もしい私の騎士様?」
ミューレさんは優しい笑顔を浮かべ、俺と手を繋いで馬車に乗り込んだ。
エスコートなんてした事無かったけど、ミューレさんは上機嫌だった。
馬車の中でもエンルム家に着いての話題は避け、それでもミューレさんは笑ってくれていた。
悲しくない訳無いだろう、それでも俺を大事だと言ってくれたミューレさんをもう絶対に泣かせたくねーと思った。
【オーズ視点】
二人が教会へと訴え出られたその日には、教会からの監査の方々が押し寄せて来た。
吾輩にも当然のように聞き取り調査が行われ、吾輩ももう既にこの家の一員のようになっている事に気付き、思わず笑ってしまったのである。
結論から言えば、御二人の離婚は無事に成立したのである。
決定打となったのはやはりルシードに対する数々の虐待だろう、吾輩も傍で見て来て何度怒りに身を任せそうになった事であろうか。
「………僕って虐待されてたの?」
沙汰が下った時、ルシードが不思議そうに漏らしたその言葉に吾輩は不覚にも泣いてしまいそうになったのである。
己が虐待されていた事実に気付くことなく、ここまで健やかに成長を遂げたのは偏にミューレ殿を筆頭とするルシードの傍に居た者たちの愛のおかげであろう。
吾輩もその一助になれていたのであれば、こんなにも誇らしい事は無いのである。
これが教え導く者としての醍醐味である!!
エンルム家はミューレ殿、ルシード及びアイリーンとミモザたちへの慰謝料と養育費、財産の分与によって資産が激減、中級貴族へと降格処分となったのである。
意外だったのはミューレ殿は実家へと戻らず、ルシードを当主とした新しい席を欲した事であろうか。
これにはルシードは勿論、教会の御歴々も驚いていたのである。
そしてルシードたちは軍学校のあるシバキアへと引っ越して来たのである。
年末の長期休暇はそれらを片付けるのに追われて吾輩も忙しくしていたのである。
何せ、エンルム家の使用人の半分以上がミューレ殿について来ようとしたのであるから、現当主の人気の無さが知れるというものである。
ルシードたちには新たな家名と中級貴族としての位が用意される事となった。
そこには吾輩とニーアの助力が在ったのであるが、それは別にルシードたちは知らなくて構わぬのである。
こうしてルシードは、長期休暇の間にルシード・エンルムからルシード・スティレットへと名を変えたのであった。
そして新しい家とルシードの誕生日を祝うために細やかながらパーティーを開いた。
初めての誕生祝に戸惑う様子を見せたルシードだったが、終始笑顔だったので幹事を務めた吾輩としても大満足である。
――――――だがまだ足りぬのである。
これまでにエンルム家から受けていた仕打ちを思えばもっとルシードには幸あっても良い筈である。
だからこそ、今後ルシード・スティレットとして躍進していくためにも、これからも吾輩にも出来る細やかな援助をしようと思うのである。
そのための第一歩として、吾輩はルシード・スティレットの名を様々な場所で周知するようにした。
顔を売れなかった分、名を売るのである。
後は興味あるものが見に来れば必ずやルシードの良さが解るはずである。
贔屓し過ぎだと?寧ろ当然である!!吾輩の鍛錬に文句を言いながらでも付いて来た者である。可愛くない筈が無いのである!!
それこそ、ルシードがあの御方の探し求める存在であれば良いのに……………そう思ってしまうほどに――――――。
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