第41話 模擬戦闘試験・予選
大会に出るための予選は今まで総当たり戦だったらしい、そうしないと生徒の実力を判断するのは難しいとされていた。
けれどそれはオーズさんのおかげでスピード解決することになった。
二人一組の生徒を相手取るのはオーズさん、一日一学年ぶっ通しで対戦する。
そしてその中で見込みのある生徒ペアを選抜、その上位十組で大会出場を競う事になる。
そこで落選したペアは、今まで通りの総当たり戦にて採点される。
上位十組はトーナメント形式で争い、勝ちあがった上位二組が大会に出られるんだそうだ。
――――――……今日は初等部一年生の選別が行われている。
クラス毎に呼び出され、オーズさんに呼ばれるまで控室で待機、それ以外の生徒は教室で待機している。
俺たちのクラスは担任のファナル先生のくじ引きの結果、一番最後だ。
そして俺とマリーのペアの順番もクラスで一番最後だった。
「ルシードくんもマリーちゃんも頑張ってね?」
クラスで一人だけ試験の無いモアは所在無さげに声を掛けて来た。
フェデラーは結局自主退学を選んだ、けれどアイツのしたことはこの国の教育機関に広く知れ渡る事になり、俺のように次を探すのは難しいだろうとの事だった。
アイツがどういった出自かは知らねーけど、学校を出てないってのはその分デラ自身のハンデになる。
俺も下手すりゃ同じ道を辿ってたかもしれないんだ、気を引き締めねーと。
「ありがとう、モアも頑張ってね?」
マリーが柔和な笑みを浮かべて、モアに返答する。
良い感じにリラックス出来てるみたいだな?心配するまでもねーか。
「うん……………って、私が今から緊張してどうするんだろ?」
モアの方は皆の緊張が伝染してるみたいだな、モアの試験は俺たちよりも後なのに今からそんなで大丈夫なのか?
「うぅ…………お腹痛い…………」
モアは緊張しやすいんだろう、今も細々と動いていて落ち着きがない。
「モア」
「ひゃいっ!」
俺はモアの頬を指で突いた。
「ルシードくん?何してるの?」
「うん?モアの頬をプニってる」
おぉ………ホントにぷにぷにだな、自分で推すだけの事はあるじゃねーか。
「も~!!私が緊張でおかしくなっちゃいそうなのに!ルシードくんはどうして私をプニるの!?って言うか今尚プニ続けるの止めてよ~!!」
「ははは」
「笑って済まさないで!?」
うん。どうやら緊張は解れたみたいだな?
今も「もぅ!もぅ!」言ってぷりぷり怒ってるモアだが、さっきまでの様子はもう無くて安堵していると、
「……………………(怒)」
「あのさマリー?無言で俺の頬をプニるの止めてくれない?」
何か知らんが怒ってらっしゃる。
そしてぷにぷにを越えた力加減でぐりぐりしてくんの何?メッチャ痛いんだけど?
そして摩擦熱でメッチャ熱いんだけど?
俺は依然無言でぐりぐりしてくるマリーの手を取り止めさせる。
あれか?実はマリーも緊張してたのか?それで普段とは違う奇行に走ったのか?
そう思った俺はその右手を両手で包むと、
「緊張してたのか?気付かなくてごめんな?」
と、素直に謝る事にした。
そこへ何故かモアが即座に両手を重ねて来る。
「「「………………」」」
妙な一体感が生まれてしまった。
反応に困っていたマリーも何か”手を重ねなきゃいけない空気感”に流されて、モアの手の上に左手を重ねる。
……………何だこれ?
どうすんだ?この空気?何か「ガンバロー」的な事を言った方が良いのか?
俺がどう処理したもんか扱いに困っていると、傍にシルヴィオがやって来た。
シルヴィオ!!助かった。この状況を打破してくれ!!
そう願い、シルヴィオに視線を送る。
今はシルヴィオが救いの神に見える……………、
「何してるの?面白そうだね?」
シルヴィオはそのままマリーの上に両手を重ねた―――――ってオイィィ!!
救いの神は速攻で死んだ、秒殺だった。
そしてマリー、モア、シルヴィオまでもが何故か俺の方を見つめてくる。
え?何だよ?言う事なんて無いぞ?
何でお前が締めろみたいな感じになってんだ?
けれど結局三人の視線に耐えかねた俺は、
「が、がんばろー!」
と、言ってしまった。
そんな俺の音頭に三人は笑顔で「おー!!」なんて大きな声で応じてくれて、俺たちは重ねた手を、一斉に何かを空へ放つように上へと挙げた。
それからシルヴィオも加えた四人で適当に話す。
普段ならシルヴィオの周囲に居る取り巻き連中も、今は試験の緊張でそれどころではないらしい。
静かで何よりなんで、ずっと緊張しててくんねーかな…………。
そして漸く俺たちが居るクラスに声がかかり、控室へと移動する。
教室から出る時モアに改めて「頑張って」と激励されたので、俺はそれに腕を上げて応えた。
運動着にはもう着替えていたので、あとは武器を持てば準備完了、オーズさんに呼ばれるまで此処で待機となる。
ここまで来ると流石に緊張してくるのが解る、けど過度なものじゃない。
良い緊張感だ、これならオーズさんと良い手合わせが出来そうだ。
一組、また一組と呼ばれて行く中、
「次ッ!!」
シルヴィオのペアの相手、金髪う〇こは緊張のせいでガチガチだった。
それでもシルヴィオは去り際に、俺に向けて「行ってくるよ」と声を掛けて出て行った。
まぁ大丈夫か、シルヴィオの方はまだまだ余裕があるみてーだし?
それからも他のペアの試合がどんなものだったか一切見る事も出来ないまま、時間だけが過ぎ、控室には俺とマリーだけになった。
「オーズ先生って強いのよね?」
「あぁ。メッチャ強いぞ?毎日手合わせしてるけど、未だに勝ち筋さえ見えねー」
「そうなの?ルシードでも?」
「別次元って感じだな、最初の頃は手加減してくれてたんだと思う。けど手加減が無くなると圧倒的だ、あ、死ぬかもって何度思ったことか」
「じゃあ私は接近されたら終わりね、何とかして一泡吹かせたいところだわ」
珍しいな、マリーがこんな事言うなんて………俺の疑問の視線に気付いたマリーが顔を上げて不思議そうな顔をした。
「折角格上の相手と戦えるんだ、何か得る物が無いと楽しくないよな?」
何となくそんな言葉が出て来て、自分で言ってて笑えてきた。
俺のそんな言葉にマリーも満足気に頷いた。
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