第42話 VS試験官オーズ

闘技場に続く廊下を進むごとに威圧感が増す。

それは気のせいなんかじゃなくて、一歩踏みしめるごとに次の一歩が出難くなる。

マリーもその重圧に耐える様に前に進んでいて、俺はマリーの手を取って並んで進んだ。


闘技場の真ん中には腕組み仁王立ちのオーズさん、今までそこで模擬とは言え戦闘が行われていたのかと思うほど周囲は綺麗なものだった。


「……………来たであるか」


腕組みを解いたオーズさんからは廊下で感じてた比じゃない程の威圧感。

戦闘?今から?戦えるのか?そんな考えが頭の中を過ぎる。


「確認するであるが、貴様らで最後であるな?」


「はい」

「私たちで最後です」


何とか声を振り絞って出すと、オーズさんはそれに鷹揚に頷き、


「うむ。では心置きなく戦えるのである、いつでも来るが良いのである」


ゆったりとした動作で構えた。

俺はまだオーズさんの威圧感に若干ながら耐性を持っていたつもりだ、けどそんなもん役に立たねーくらい完全に呑まれてた。

マリーなんて繋いだ手から震えが伝わってくる。


こんな情けねー状態でオーズさんには突っ込めない、そう判断した俺はまずは隣で震えていたマリーに向き合う。

そんな暇を与えてくれるかどうか心配だったが、幸いオーズさんは何も手を出さないで居てくれた。


「マリー、どうだ?オーズさんは?ヤベーだろ?」


そう言って俺は無理にでも笑った。


「………………うん。”ヤベー”ね?勝ち筋を探すのが烏滸がましいくらい、瞬殺される気しかしない……………怖くて動けない」


マリーの正直すぎる告白に、俺はそれだけマリーが追い詰められてるんだと理解した。

その上で俺はマリーに無茶を言う、馬鹿だからな。


「だったらいっそラッキーだったと思おうぜ?」

「え?」

「どうせ逆立ちしたって勝てっこねーんだ。けどの強者が放つ威圧感ってのを今のうちに受けられるんだぜ?これはもうラッキーだろ?」


腐った言い方かもしれねーが、今のオーズさんが放ってる威圧感、纏ってる闘気なんてそうそう受けられるもんじゃねーはずだ。

オーズさん自ら俺たちに良い経験させてくれようとしてるんだ。

無駄に出来るかよ!!


俺の言いたい事をマリーは察してくれたみたいだ。

その表情に怯えは無い、身体の震えも止まっていた。

繋いでた手を一回ぎゅっと握ると、


「そうね、ラッキーね。今の私たちのを受け止めてくれそうな人が目の前に居るんだもの!!」


その手を放したマリーが早速魔法の詠唱に入る。

それを見た俺はオーズさんに向けて突撃する。

そんな俺たちを見ててくれたオーズさんは、一瞬だけ笑ってたような気がした。



オーズさんからは仕掛けてこない?

そりゃそうか、そんな事すれば全員が速攻で沈められて実力を判断するどころじゃなくなるからな。


いつもの組み手と違って変則的に足を狙っていく、まずはマリーに近付けないようにしねーと――――――……。

俺が前衛、マリーが後衛、役割分担はそんなもんだった。

マリーは接近されると俺の時みたいに杖を使って戦闘することになる。

俺相手だから通用したが、当然オーズさんにそれが通用するとは思えねえ。

マリーオリジナルの防御魔法、A.〇フィールドみたいな光の壁を生み出すアレも、今のオーズさんの攻撃に耐えられるか微妙なところだ。


だからここで俺がすべきことは徹底的にオーズさんの邪魔になる事、どれだけ長くオーズさんの前をちょろちょろ出来るか?だ。

そのためにイヤらしく足を狙う。

体力がバカみたいに削られるから本当はヒットアンドアウェーなんてしたくない。

オーズさんから一撃でも貰えば致命的なダメージを負うだろう、その距離で撃ち合う?バカじゃねーの?本来なら二人揃って遠距離からチマチマ削るのが定石だってのは知ってる。

けど良い経験積ませてもらう為に、今は突っ込む!!




「ぬうんっ!!」


俺を掠めたオーズさんの拳、そのスピードに驚きつつ反撃も試みるのも忘れない。

俺は正直オーズさんの足止めくらいしか出来そうにない、勝てる気がしねーってのもあるが俺たちペアの全力が見たいんであれば、マリーがあのユニコーンを呼べるかどうかがカギだ。


威力で言えば文句無しに俺の神威よりも上のマリーの切り札。

それを撃ち込めればオーズさんといえど、ノーダメージとはいかない筈だ。

さっきから俺も訓練用の剣で足を殴打してるんだが、丸太でも殴ってる感じだ。

逆にこっちの手が痛ぇ……………。

そんな時マリーの方から魔力が充足する感覚が届いて、俺は即座に横へと逸れた。

そこを――――――、


「『氷晶獣の一撃キュリアス・キャノー』!!」


透き通る氷のユニコーンがオーズさんに突撃していった。

オーズさんはそれを最初にマリーと戦った時の俺のように、真正面から受け止めていた。

うっし!捉えた!そう喜んだのも束の間だった。


「ふんっ!!」


ユニコーンの突撃を頭を持つ事で防いでいたオーズさんは、気合を入れた掛け声と共にその頭部を圧し潰した。


「マジかよ……………」


俺のそんな呟きにも構わず、オーズさんは両手をパンパンと叩いて氷の粒を落とし、


「今の連携はなかなか良かったのである、では次いで対応してみせるのである」


そう言い残すと同時に、オーズさんはマリーに向けて一直線に走り出した。

俺も後を追うが徐々に離されて行く、マリーもスケートで逃げて攻撃してるけどそれよりもオーズさんは早い。

俺の炎の壁での妨害もプラスしてようやく少しだけスピードが落ちた。

だけど俺が全力疾走しなきゃいけない状況には変わりなかった。


マリーに向けて蹴りが放たれ、俺は持っていた剣でそれを何とか防いだ……………………はずだった。


「――――――………っく!!」


防いだ剣ごと俺は蹴り飛ばされ、闘技場に地面に大の字で転がっていた。

少し離れた所ではマリーが魔力切れを起こしているのか、へたり込んでいた。

どうやらマリーは咄嗟に防御魔法を張ってくれたらしい。

でなきゃこの程度で済んでないし、マリーも魔力切れなんて起こさないだろう。

それにしても魔力が膨大だって言われてるマリーのそれを、たった一撃で蒸発させるなんて恐ろしい威力だわ。


二人とも大きく荒い息を繰り返しているというのに、俺たち二人を相手にしていたオーズさんは所々俺の打撃やマリーの魔法のダメージの痕跡が在ったものの、まだまだ余裕を感じさせるくらい悠然と立っていた。

流石のオーズさんもマリーに突撃して無傷とはいかなかったらしい。


ぐったりと項垂れる俺たちに、オーズさんは腰に手を当てて、


「うむ!二人とも花丸合格である!!」


満足そうに宣言した。

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