第39話 試験についての要望
デラを沈めて一息ついた俺は、モアとマリーの所に歩み寄った。
ん?モアが目を丸くして驚いてるけど、どうしたんだ?
「ルシードくんって……………怒ると雰囲気変わるんだね?」
「そうでしょ?私も最初は驚いたわ」
あー………あれか、デラに苛ついて地が出てたか。
まぁ良いや、マリーには今更だしな?
「悪いな?こっちが地なんだ。不快なら今までみたいに話すから言ってくれ」
そう言って俺は開き直る事にした。
「ううん。びっくりしただけ、ルシードくんが楽ならそっちで大丈夫だよ?」
モアが慌てた様にそう言うと、マリーも頷いて同意していた。
それならこれから二人には気楽に話せそうだ、子どもだからって馴れ馴れしいのはあまり良くないからって気を遣って話してたんだが、もうそんなの気にしなくて済むのはありがたい。
「それにしてもデラが獣人族だったとは知らなかったな、いきなり変身したから驚いた」
「まぁあまり堂々と言う事じゃないからね、因みに私も獣人族だよ?」
「えぇっ!?モアも獣人族だったのか?全然気づかなかった。なんの獣人なんだ?」
そして堂々と言う事じゃないとか言って堂々としてんなぁ。
モアらしいと言えばらしいな。
「ふっふ~ん。私はね~?虎の獣人なんだよ?」
「へぇ~虎かぁ…………モアっぽくないな?」
「失礼だよ!?」
「モアはもっとこう…………羊とかおっとりした可愛い系のヤツかと思った」
「え?そ、そう…………かな?可愛い?」
うん?何かモアが一人ぶつぶつ呟いてニヤニヤしてるが何か有ったのか?
「イチャイチャもそこまでである!!」
うおっ!?びっくりした!
すぐ近くに突然現れたオーズさんに、俺たち三人は驚いてびくっ!と跳ねた。
心臓に悪いから突然現れないでくれよ、マジでビビるから。
しかもイチャイチャて、デラを沈めて寛いでただけだろ?
「オーズ先生、さっきはどうして助けてくれなかったんですか?」
驚かされた反撃のつもりか、マリーが少し責める様な口調で問い質す。
「あの程度であればルシード一人で対処可能であると判断した。だが実際は、ルシード罰点であるッ!!」
その言葉と共に、俺はオーズさんにぶん殴られていた。
鐘塔の壁に激突して止まった俺が漸く立ち上がると、
「獣化を見るのは初めてだったとしても、何故その間にトドメをささなかったのである!!マリーに敗北した教訓が生かせていないのである!!故に罰点!!何か申し開きはあるか!?」
「ありません!!」
俺の返事にオーズさんは大きく「うむ!」と頷いた。
全くもってオーズさんに言われた通りだ、反省が生かせてねーわ。
今回は何とかなったから良いが、今回はたまたまデラが俺よりも弱かっただけ。
次もこうなるとは限らない、気合が入ってなかった。
俺の慢心をオーズさんは景気よく潰してくれるのでマジ助かるわ。
「ルシード?大丈夫?血が出てるけど?治癒魔法かけとく?」
「うん?あぁ、ありがとう」
マリーが俺に治癒魔法をかけてくれる。
その様子をモアはじっと見つめて、
「私も治癒魔法練習しようかな……………」
なんて呟いていた。
魔法は適性が大事だから、モアに治癒魔法適性が無いと使えないぞ?
それはモアも勉強してるから知ってるはずだろうに。
オーズさんによってデラが縛り上げられた頃、鐘塔にファナル先生が上がって来た。
どうやらオーズさんに呼ばれたらしい、ファナル先生はモアとマリーから事情を聞くと頭を抱えていた。
「う~ん。そういう事情ならモアさんとフェデラーくんでペアを組んでもらうのは止めた方が良いでしょうね。そもそもフェデラーくんには何らかの処罰が下るでしょうから――――――……」
言い辛そうにファナル先生が目を伏せる。
担任教師として責任の一端を感じているんだろう、俺からすればデラがただのバカだっただけだが、そう簡単には割り切れねーよな。
このままだとモアはペアを組めなくて模擬戦試験を不参加って事になる。
そうなれば得点は最低得点、丁度今回から引き揚げられた合格ラインのせいで、合格するのがより一層厳しくなる。
モアもそれを理解しているのか悔しさを滲ませている。
「補習とか追試とかの救済措置は無いんですか?」
俺は前世の知識――――というか、補習・追試常連組だったからパッと思い付いたんで訊いてみた。
「勿論救済措置はあるわ、でも今まで初等部でそうした措置が適用された前例が無いの。だから適用されるかどうか…………」
ファナル先生はそれだけ言うと考え込んでしまった。
オーズさんにしてもその顔は険しい。
……………まだ弱いか?それともダメか?
「今回の事情はモアさんに非が無いだけに、何もそうした措置が無いのは問題では無いでしょうか?そもそも合格点引き上げについても生徒からの不満は大きいでしょう?そうした措置の適用範囲についても広げるべきでは無いでしょうか?」
俺の意見をマリーが大人顔負けの援護をしてくれた。
こっそり自分の不満を混ぜ込むあたりがマリーらしい。
というか、まだ納得してなかったんだな?
マリーの援護もあって、二人は完全に言葉に窮していた。
この期に及んで何を躊躇することがあるんだ?
「なぁニーアさんはどう思う?」
俺は虚空に問いかけた。
今までだってタイミングが良過ぎたんだ、きっとニーアさんはこの学校の中を見聞きできる何かを持ってるんだろうと思った。
そしてその予想は正しかった。
「うふふ、ルシードきゅんに呼ばれたら来ないわけにはいかないじゃない」
何も無いところからニーアさんが突然現れる――――ってか呼んでねえ!!
問いにさえ答えてくれりゃそれで良いんだよ。
一人楽しそうなニーアさんの登場に、俺とマリー、オーズさんは頭を抱えた。
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