第38話 努力の賜物だバカヤロウ!!

モアに殴りかかろうとするデラを見て、自然と体が動いていた。

神威の要領で加速した俺は、デラとモアの間に割って入り、それを額で受け止めた。


「よう。テメェまた弱いもん虐めしてんのか?相変わらずダセー奴だな?」


デラの奴ゴリゴリな見た目のくせに、ホント大したことねーな?

まぁ良いや、これで正当防衛成立だろ?先に手を出してきたのは向こうなんだから。


挑発も兼ねて不敵に笑ってやると、驚いたデラは距離を取った。

その間に俺はモアを見る―――――見て、遅かった自分に腹が立つ。


モアは怖くて気が抜けたのかその場にへたり込んでしまっていた。

そこへマリーが駆け寄ってくれていて、頬に回復魔法をかけていた。

その頬は腫れていて、それが誰にやられたかなんて一目瞭然だった。


「モア、ごめん。来るのが遅れた」


怒りを滲ませずに言うにはそれが限界だった。

すぐモアに背を向ける。

モアとマリーが後ろに居てくれてよかった。

今にもキレそうな顔を二人に見せずに済むもんな?


背後からは微かにモアが泣く声が聞こえてくる。

よっぽど怖かったんだろう、まるで泣き止む気配が無い。

それが更に間に合わなかった俺の情けなさを増大させる。


「モアの事、任せた」

「えぇ。任せて」


後ろに居るマリーからの力強い返事に、俺はデラの野郎に近付いて行く。

ヤベーな………今の気分じゃ過剰防衛になっちまいそうだわ。

俺が近付くたびにデラは離れていく、そしてそれも終わる。

デラの背には鐘塔の壁があり、デラが”ヤバい”って顔をする。


「な、何だよお前!?関係無い奴は引っ込んでろよ!?」


無理矢理イキってそんな事を言っても全然迫力なんて無ぇし、それにデラよぅ?気付いてるか?俺はもう無関係じゃねーんだわ。


「は?何言ってんのお前?俺はお前に殴られたからこうして相手になってやろうとしてるんじゃねーか」

「それはッ!!お前が突然割り込んできたからだろッ!?」

「ダチが殴られそうになってんのに見過ごせるわけないだろうが!!」


何でも言えよ、デラ?お前が何を言っても逃がしゃしねーぞ?

幾らお前が無関係だと言おうが、俺が関係者になってやる。

今の俺は寛大なんだよ?だから、モアへの文句も聞いてやる―――――。


「くそッ!!」


デラは逃げられないと見るや俺に殴り掛かって来た。

絵に描いたように完璧な右のテレフォンパンチ、教科書に載せたいくらいだ。

誰がそんなもんに当たるかよ。


それにそんな大振りして良いのか?ボディがお留守だぜ?


俺はデラのそれを難なく躱すと、少し身体強化した左の拳をデラの腹に全力で打ちこんだ。


「ぐ――――――……!!」


デラはそのまま膝から崩れ落ち、腹を両手で抑えてうずくまった。

オイオイ、幾ら完璧なタイミングでカウンター極められたからって一撃で沈むんじゃねーよ。まだまだこの程度で許せるわけねーだろ?


「う、うぅ、う――――――……」


デラの呻き声が聞こえるが知った事かよ。

反撃も考えずに攻撃したテメェの落ち度だ。

今までそんな奴相手にした事も無かったんだろう?


俺はデラが立つまで待ってやっていると、デラの身体に徐々に異変が現れ出した。

身体がちょっとずつデカくなってる?そしてデラの肌が見える場所も毛で覆われ始めて、遂には肌が一切見えなくなった。


デラが立ち上がった時にはもうすっかり全身毛だらけで、身体も大きな狼男が立っていた。


「ルシード気を付けて!!彼は獣人族で獣化の戒めを解いたみたい!!」


獣化の戒め?ってか獣人族?デラが?ファンタジーだなオイ!!

マリーの忠告に俺が疑問を抱いていると、デラが俺との距離を一瞬で詰めて来た。

それを認識したかと思えば、次の瞬間に俺は殴り飛ばされていた。

幸いガードが間に合って直撃はしてないが、防いだ腕がまだ痺れてやがる。


「あまり良い気になるなよ?俺がこの姿になったからにはルシードッ!!お前はもう終わりだ。ここでぶっ殺してやる」


おーおーブチギレたってか?遅ぇんだよ、こちとらとっくにキレてんだ。

ちょっと強くなった程度でイキってんじゃねーよ。


「そうやって出来もしねーこと言うからクソダセェんだって何でわかんねーかな」


俺の安い挑発に、デラはさっきのように突っ込んできてぶん殴ろうとしてきた。

だからさっきと同じようにタイミングを合わせ、今度はデラの顔面に拳をぶち込んだ。

寸前、驚いた顔をしていたデラだったが、俺に殴り飛ばされて後ろに下がる。

………打たれ強くはなってるみてーだな?丁度良い。

俺のストレス解消に付き合ってくれよ?


顔面を抑え、何度か頭を振ったデラはまだ信じられないといった顔をしている。


「なんでだ?どうして俺の速さに付いて来られる?対応できるッ!!」


「別に何も驚くことじゃねーだろ?お前の速さなんてオーズさんに比べりゃ段違いで遅いんだよ」


普段あの人と組手やってる俺が、あの人よりも遅い攻撃を来ると解ってて対応できねーわけねーだろ?

最初のは不意だったから喰らっちまったけどよ。


「なんなんだよッ!!なんなんだよお前ッ!!獣化の戒めを解いた俺は最強なんだッ!!そうだ!!お前は何か”ずる”してるんだなッ!!禁止薬物か禁断魔法かを使って強化してるんだろッ!!」


ずるしてるって、獣化とかしちゃってるお前が言うのかよ。

それに禁止薬物?禁断魔法?ざけんな!!努力の賜物だバカヤロウ!!

そして少なくともお前はマリーよりも弱いぞ?最強騙ってんじゃねぇ!!


「お前が最強なら、俺は天下無敵とでも名乗れそうだな」


「馬鹿にしやがってぇッ!!」


またも一直線に突っ込んでくるデラ、まともに喧嘩した事が無ぇから動きが単調になる。

そしてその速さも動きも俺には届かねーよ。


「馬鹿にされたくねーなら、最初から馬鹿なマネしてんじゃねーよ!!この大馬鹿野郎が!!」


身体強化をフル活用した全力の拳をデラの顔面に打ち込み、それを真面に受けたデラはそのまま勢いよく崩れ落ちた。

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