第34話 さあて、リベンジマッチといこうか!!

「それでは、始めッ!!」


オーズさんの合図と共に俺はマリーと対峙する。

距離も格好もあの時と同じ、唯一違うのは俺が訓練用の剣を持ってる事くらいだ。

それに今度は警戒し過ぎて何も出来なくなる前にこっちから動いた。


俺の場合、接近戦に持ち込まないと勝機は無い。

けどそこへ辿り着くまでがマリーの得意な距離、しかも独壇場だ。

マリーが軽く杖を振るっただけで俺の前方に三つの魔法陣が浮かび上がる、


「『氷槍イス・ランチア』」


微妙に角度を変えて射出される氷の槍、これに手間取ってたらまた足を固められて即終了コースだ。


意地でもそんなペースに乗ってやるもんかよッ!!


俺は走りながら手を前に翳しそこに炎の盾を創り出す、全部を防ぎきれるサイズは無理だが今は致命傷さえさけれりゃ充分だ、多少の傷を覚悟して疾走した。

所々鋭い痛みが襲うが、まだまだこれくらいなら余裕だ。

俺の行動がマリーの予想外だったのか、驚いた顔をしているのが見えてちょっとスカッとした。


それでも流石はマリーだ。

近付こうとする俺とは逆に距離を空け、そのまま氷の槍を放ってくる。

全然近づけてる気がしねーぞ?何でだ?このままじゃチマチマ削られて終わっちまう、相手をよく見ろ、そして考えろッ!!


そして気付く、見ればマリーは走っていなかった。

足元を凍らせてそこをスケートのように移動していた。

くっそ!これじゃあ距離が縮まらねぇわけだ!!かと言って追いかけなければマリーに余裕が生まれて勝ちパターンに持って行かれる。

神威でギリギリ届くか…………?けどあれもまだ完全じゃないから集中しないと使えない。

こっちが集中できるまで待っててくれるわけもねーから、結局使えない。


…………待てよ?それなら俺が逃げられねーようにすれば良いんじゃねーか?

その方法を俺は知ってる、見ている、だってそれはマリーがやってたことと同じなんだからな。


俺は炎の盾を維持しつつマリーを追いかけ、更に別の魔法を行使しようとする。

無詠唱だからこそ出来る芸当、相手に手の内をばらさずに魔法を仕掛けることが出来る。




「…………嘘」


逃げ続けていたマリーと俺を囲う様に炎の円が燃え盛っていた。

その円は徐々に範囲を狭めて行きマリーの逃げ場を奪っていく、それに気付いたマリーが信じられないものを見た様に呆然と呟いた。

どうよ?俺にマリーみたいな魔力量は無い、けどこれくらいなら出来るんだぜ?


魔法で俺の炎を消そうとすれば俺の恰好の餌食になる。

それを理解しているマリーはそれをせずに俺と今まで一番近い距離で対峙する事になる、あとちょっとで俺の得意な距離だ。

俺が剣を構えると、即座にマリーも杖を構える。


するとマリーは早口言葉のように口を動かし、詠唱を加速させ始めた。

それは術者が舌を噛み千切りかねないと注意を促されている高速詠唱だった。

それに気付いた俺が走り出そうとした時にはもう遅かった。


「『氷晶獣の一撃キュリアス・キャノー』!!」


俺の目の前にはあの忌々しい氷で出来たユニコーンがいななきを上げて現れた。

出来りゃあ遭いたくなかったぜ、チクショウ!


嘆いていても仕方がない、俺も迎撃するために集中する。

このためにオーズさんから技を教わったんだ!

向こうが突撃してくる前に、準備を整えねーと…………。


オーズさんに教わった通りに腰を低く、剣を身体で隠すように後ろ側に構える。

ユニコーンは再び嘶き両前脚を上げると、そこから一気に此方に向かって前と同じく突撃してきた。

オーズさんくらい力があるならともかく、俺じゃまだまだ威力は知れてる。

だからこそ俺が狙うのはユニコーンの頸じゃねぇ!!破壊すりゃいいならここで充分だッ!!


「オーズさん直伝……………神威ッ!!」


俺が魔力を込めて地面を踏みしめ加速すると同時に狙いを定めたのは前脚だ。

その身体を支えるにしては細いそこであれば首を叩き落すよりも楽なはずだ、幸い足も固められてない今なら真正面から相対さずに済む。

そして狙い通り俺の剣はユニコーンの右前脚を破壊して、そのまますれ違う。

ユニコーンは支える脚が無くなってそのまま地面を滑走する様にして砕け散る、それを確認した俺はすぐに奥の手を破壊されてまた信じられないって顔をしていたマリーに向けかって駆けて行った。


接近戦ならッ――――――……!!


詠唱させる隙を与えないように、一息で加速してマリーに斬りかかる。

刃は殺してあるとはいえ、当たれば骨折もあり得る。

普段なら得物なんて使わねーけど、これは”模擬戦”だからそれくらいは覚悟の上での試合だ。


剣と杖がぶつかり合い、俺の手に痺れが伝わってくる。

それはマリーも同じようで苦痛に顔を顰めていた。

予想外にマリーは接近戦も出来た、巧みに杖を操り俺の剣は上手く捌かれる。

けどそれも最初だけ、俺とマリーじゃ体力に違いがある。

徐々にその杖さばきは緩慢になり、俺の一撃で杖は弾き飛ばされ衝撃を殺せずにマリーはその場に尻もちをついた。

すぐに俺は剣の切っ先をマリーの喉元に突き付ける。


マリーは悔しさを噛み締める様な顔で暫く逡巡した後…………、


「………………参りました」


両手を上げて”降参”のポーズをとり、敗北を宣言した。


「うむ!!それまでッ!!勝者ルシードである!!」


オーズさんの宣言を聞いてから、俺は剣を下げて勝利した余韻に浸る事もせずに立ち上がらないマリーに向かって手を伸ばす。

そして、


「マリー、改めて言うよ。俺とペアを組んでくれないか?二人なら模擬戦大会も優勝間違いなしだ」


それを聞いたマリーはふっと笑うと、


「フェデラーとの諍いの時もそうだったけど”僕”じゃないんだ?そっちが地なの?」


うわ、ヤベ俺って言ってた?真面目な奴は断然”僕”と言ってるイメージだからそう言う様にしてたんだけど。

内心メチャクチャ焦る俺の手をマリーはそっと取り、


「はい。喜んで、元々私が勝ってもお願いするつもりだったから」


笑顔でそう返事をくれた。

きっとそれはフェデラーとペアを組みたくないからだろうな。

モアといい、モテる女子は辛いんだな?

俺がそう理解してうんうん頷いていると、


「ルシード、何か勘違いしてる?私はルシードとペアを組みたいから――――……」

「ルシードくんッ!!」


何か言っていたマリーの言葉を押しのけて、モアが俺に勢いよく飛びついて来た。

そして泣きそうな顔をして目をうるうるさせながら、


「もう!?どうして勝っちゃうの!?これで私はデラくんとペアを組まなくちゃいけなくなっちゃったよ!?」

「まぁその…………ドンマイ」


気持ちは察するが俺にはそれ以上の言葉は出てこない、強く生きろ。

プンスカ怒るモアに遅れて、シルヴィオも傍に歩み寄って来た。


「おめでとうルシード、本当にマリーツィアさんに勝つなんてね?」

「ありがとう。シルヴィオが手伝ってくれたおかげだよ」

「ルシードの努力があればこそだよ、でもそう言ってくれるのは嬉しいな」


そのまま俺たちは握手を交わす、シルヴィオのケアが無けりゃここまで身体が動いたかどうかも怪しいからな、シルヴィオ様様だ。


「二人とも見事な試合だったのである、二人に花丸をやるのである!!」

「本当よ~。とても初等部一年生の試合とは思えなかったわ~」


オーズさんとニーアさんにも褒められて照れくさいが、気分は良い。

そんな俺の気分を台無しにするようにニーアさんが擦り寄って来て、


「それで~?ルシードきゅんはウチのマリーにどんなお願いをするのかしら~?」

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