第33話 ぷにぷにだよ?

それからは同じような毎日の繰り返しだった。

朝早くに起きてトレーニング後にはシルヴィオにマッサージしてもらい。

学校ではモアに絡まれ、隣の席のマリーに勉強を教えてもらい。

放課後にはオーズさんと神威の特訓をして、疲労困憊になりファナル先生に部屋まで運ばれ、そこでもシルヴィオにまたマッサージをしてもらう。

もうみんなに助けられてる、マリーにまで助けてもらって感謝しかねーわ。


近頃はマッサージ中に寝落ちした俺が目を覚ますとシルヴィオも同じベッドで寝ているので、「疲れてるんならマッサージはしなくても大丈夫だから」と言ったんだけど頑なに、「頑張ってる親友にこれくらいはさせてほしい」と顔を赤くして力説されてしまった。

シルヴィオは本当に良い奴だ、この寮生活がシルヴィオと相部屋で良かったと思う。


肝心の神威についてはオーズさんから、


「まだまだ花丸はやれぬが、及第点である!!」


と、何とか使い物になるレベルまで引き上げてもらった。

魔力による身体強化の負荷で身体が悲鳴を上げているのが解る。

これを見様見真似であそこまでの技として高めたオーズさんは素直に尊敬する。

それと同時に強くなっている実感っつーの?も感じていて充実した毎日だった。


そして、マリーとのリベンジマッチの日になった。




あの日と同じく立会人はニーアさんとオーズさん、けどその場にはシルヴィオとモアまでもが一緒に見に来ていた。


「シルヴィオくんっ!?どうして此処に!?」


「ルシードを応援しに来たんだ、モアさんもそうでしょう?」


モアはシルヴィオに緊張してるのか、首振り人形みたいに何度も頷いていた。

そんな光景を準備運動をしながらぼんやりと見ていて、ふと気づいた。

そういやあの二人が話してるのも珍しい――――――……というか、モアが俺やマリー以外の奴と話してるのが珍しいな。


いつも教室では金髪う〇こ(まだ本名知らん)が女王気取りで幅を利かせてシルヴィオの傍に陣取ってやがるから、俺でも教室ではシルヴィオとあまり話す機会はない。

モアもてっきりあのグループに居るんだと思ってたが、教室ではいつも俺とマリーのところに来ては三人でくだらない話をしている。


俺以外だと時々フェデラーに絡まれて話をしていたくらいか?

あの一件以来フェデラーの野郎はメッキリ俺に近寄って来なくなった。

ホントどっちが”腰抜け野郎”なんだか………。

それでモアには”フェデラー除け”として利用されているのかもしれない、まぁ別に良いけどな?モアもアイツには迷惑してたみたいだし?


そんな二人が揃って俺の方に歩いて来た。


「ルシード、今日は応援してるよ」


シルヴィオはそう言って拳を俺に突き出してきたから、俺はそれに不敵に笑って応えてグータッチした。

それ以上は何も言わず、シルヴィオはふっと笑うとそのままニーアさんとオーズさんの所へ行ってしまった。


「あ、あうぅ………」


残されたモアは何か今にも泣き出しそうになっていた。


「どうしてモアが緊張してるの?」

「だって………ルシードくんがマリーツィアちゃんと戦うんだよ?私もう朝から心配で心配で………」


………お前は俺の母親か何かか?

股をもじもじするなよ、トイレかと思うだろ?


「モアも応援しに来てくれたんだろ?ありがとな?」


何故か俺がモアの緊張を解くために話しかけていた。

モアは俺の問いかけに真顔で、


「え?違うよ?どちらかと言えばマリーツィアちゃんの応援かな?ここでルシードくんには負けてもらって、私とペアを組んでくれたら嬉しいな~って」


どうやら素直に応援してくれないらしい。


「モアはフェデラーとペアなんだろ?」

「デラくんはもうマリーツィアちゃんとペアを組む気で居るよ?」

「え!?どういう事なの!?どうしてそうなったの!?」


モアの突然の爆弾発言に、完全に流れ弾を食らった状態のマリーが驚いた顔をして話に加わって来た。

モアは何かを思い出しているのか、難しい顔をしながら説明してくれた。


「えーっと、マリーツィアちゃんとペアを組めば成績上位確定だーとか言ってたと思うよ?それにルシードくんを試合でコテンパンに出来るから一石二鳥だーとかも……………」


バカだ………真のバカがいる…………誰が好き好んで自分を殴ろうとした奴とペアを組もうだなんて思うんだよ。

あれか?脅すつもりか?そんな事させねーぞ?

それに”引きこもりがり勉”だったか?そう言ってバカにしてたじゃねーか。

どうせ試験には参加しねーと思ってバカにしてたけど、参加するとなったらその力を充てにしたくなったとかだろうな…………情けねーしクソダセーわ。


「だから私は今フリーなんだよ?ルシードくんとなら喜んでペアになるよ?あとぷにぷにだよ?」

「誘惑すんなよ、決心が揺らぐだろ?あとぷにぷにってなんだ!?」

「ルシードくんのえっち!」

「何でだ!?」


ふくよかだからか?自虐ネタなのか?何がえっちなのかよくわからん勧誘止めろ!

俺がモアに翻弄されていると、その傍らでマリーが盛大に溜息を吐いた。


「私、今日の試合わざと負けようかな…………」

「マリーもいきなりやる気失くさないでくれよ……………俺は今日また戦えるのを楽しみにしてたんだからな?」

「そうだよ!マリーツィアちゃんが勝てばデラくんが待ってるんだよ!?」

「止めてくれモア!マリーのやる気をこれ以上削がないでくれ!」


俺は真剣に戦いたいんだ!邪魔すんじゃねぇ!!


「ていうか、普通に彼って最低よね?モアさんとペアを組んでおきながら…………」

「本当に、それは思う。アイツ最低のクソ野郎だわ」

「うんうん。ペア解消出来て私、正直嬉しかったもん」


フェデラーの評価が大暴落している。

モアもまったくフォローしない今、二人でフェデラーの押し付け合いが始まっていた。

それが俺には死体蹴りのように思えたが、止める気は無い。

まず俺は試合に向けて今から集中しないとな…………。


「…………ぷにぷにだよ?」

「だから集中の邪魔すんなって、次邪魔したら本気で怒るからな?」


俺がそう言うと、モアはさっきまでの緊張した面持ちはもう無くて、満面の笑みでオーズさんたちの所に戻って行きやがった。


どんだけぷにぷに推しなんだよ?あとで絶対ぷにってやろう。


「モアさんなりの激励?だったのかも………」

「いいやアイツはガチで邪魔しに来てた」


フォローを入れたマリーの言葉を即否定して、改めて集中する事にした。

マリーも苦笑いしていたが、すぐに真剣な表情に戻って同じく集中し始めたようだった。

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