第32話 シルヴィオの意志

バレてる事がバレて少々居心地の悪そうなシルヴィオだったが、意を決したように顔を上げると、


「僕もバレた時には焦ったけれど、ルシードはその時の約束通り誰にも言って無いから――――――」

「だからってこれ以上続けるのは………」


ファナル先生の意見は尤もだと思う、俺もどちらかっつーとその意見に賛成したい。

でもシルヴィオの辛そうな顔見てると、このクソガキがミレイユ・ブルカノンにフラれた後の様な痛みを思い出すんだよな。

もうミレイユ・ブルカノンがどんな顔してたのかは思い出せねーけど、とりあえず頭からドリルがぶら下がってたのだけは覚えてる。


「お願いしますッ!!僕の秘密を知っても気持ち悪がらず、笑ったりもせずに親身になってくれたルシードは友だちなんですッ!!」


頭を下げられて困惑気味のファナル先生は次いで俺を見て、


「ルシードくんはどう思ってるの?正直な意見を聞かせて?」


此処で俺に振るのかよ………まぁ良いけどさ。

言いたい事、言っておきたい事を言うには良い機会だ。


「俺はファナル先生の意見に賛成したい、だけどシルヴィオの意思も尊重したいと思います。シルヴィオの事情は詳しくは知りません、でもこれだけ無茶な事をして学校に通おうとしているんだから、きっとシルヴィオにとっては譲れない、許せない何かがあるんだって察する事くらいは出来ます。

シルヴィオがそれを守ろうとする限り、僕はシルヴィオの味方です。

それに何より、僕もシルヴィオの事は親友だと思っています」


言葉にするのは恥ずいけど、シルヴィオは良い奴だからな。

要は貫き通せってこった。

シルヴィオが突っ張ってる限り、俺はその意思を尊重するし味方もする。


「だから!シルヴィオもこれからは気を付けろよ?バレたくないなら隠し通せ、今まで一人部屋みたいな扱いだったからつい気が緩むのもわかるけどさ。バレそうになっても完全にバレてない限りは口裏合わせるくらいはする」


この機に釘を刺しておきたかった。

たまたま俺だったけど、今回ファナル先生が連れて来たのが他の男子だった場合もっと大惨事だ。

シルヴィオには酷かもしれねーけど自分で選んだ道だ、このままいつかボロが出る前に気合入れて生活してもらわねーと絶対バレる。


「うん。ありがとう、ルシード………これからはもっと気を付ける」


シルヴィオは俺に近付いて来て、抱き付き泣き出した。


色々と溜まってたのかもしれねーな、息抜きくらいはどっかでさせてやらねーと。

俺はそんな事をぼんやりと考え、疲労からそのまま瞼を閉じた。





翌朝、目を覚ました俺はすぐ隣から聞こえてくる微かな寝息を感じて視線をそちらに向ける。

そこには規則正しい寝息をたてながら、シルヴィオがすやすやと眠っていた。


………此処俺のベッドだよな?何で同じベッドで寝てるんだ?

途中で寝落ちしたから経緯が良く分からん。

魔力の方は何とか回復しているらしく、動くのに怠さはあるが問題なさそうなのを確認し、シルヴィオを起こさないように筋肉痛で痛む身体をフル活用し、そーっと起き上がった。

時計を見れば、もうそろそろオーズさんとの朝特訓に向かっても良い時間だ。

ゆっくりとベッドから出ようとしたつもりだったんだが、


「う?うーん…………」


どうやらシルヴィオを起こしてしまったようだ。

寝惚け眼を擦って起き上がるシルヴィオに、


「まだ寝てていいよ?僕はこれからオーズさんと自主練だから」


起きてしまったならばと急いで着替えを用意しながら告げた。

けど、シルヴィオは俺と同じように着替えを準備し始めて、


「僕も行く。ルシードがどんなことしてるのか見てみたいから」


シルヴィオも何やら思うところがあったのかもしれない。

だから俺は……、


「わかった。一緒に行こう」


二人で部屋を出て、静かに玄関まで降りて行った。



「おはようである!!」


「おはようございます」


いつも通りの挨拶を済ませると、声のデカさに圧倒されたシルヴィオにオーズさんが気付いた。


「貴様はルシードと同室の…………」

「シルヴィオです。今日は見学させてもらいに来ました」


自己紹介と今此処に来た理由を述べると、オーズさんは白い歯を見せて、


「うむ。構わぬである!」


と、快諾してくれた。

見学って言っても朝は基礎トレーニングばかりだから見てて地味だし面白くないだろう?と尋ねても、「そんな事無い」とシルヴィオは笑顔で応えた。

まぁ本人が見たいって言ってるんだから良いか。



オーズさんの組んでくれたトレーニングメニューを死に物狂いでこなす俺、昨日のオーズさんの技を見てから俄然やる気になっていた。


「うむ。今朝はここまでである!何とか付いて来れるようになったであるな」

「あ、ありがとうございました」


そりゃあな?ついて行かなきゃ折角技を教えてくれたオーズさんに申し訳ねーからな。

ただ今日は昨日の疲れも残ってるから………授業で寝落ちせずに居られるのかどうかだけが心配だ。


そんな時、今まで座って見学していたシルヴィオがふらっと立ち上がり、


「やっとお役に立てそうだよ、ルシードそこに俯せになって?」


俺は素直にシルヴィオに言われるまま地面に横になる。

するとケツに何やら重みを感じ、顔だけ振り返るとそこにはシルヴィオが馬乗りになっていた。


「シルヴィオ?」

「あぁごめん、説明がまだだったね?今からマッサージをするからもう少しこのままで居てね?」


どうやらシルヴィオは初めからこのために付き合ってくれたらしい、力を込めて俺の身体をマッサージしてくれるシルヴィオの手がくすぐったく感じる。

けど効果も実感していて、自然に「あ~」とか声が漏れていた。


「ルシードってばおじさんクサいよ?」


くすくすと笑いながらもマッサージを続けてくれるシルヴィオ。

いやだって気持ちいいんだからこれはしょうがねーわ。

そこでふと気づいた。


「シルヴィオ、ごめん。汗臭いよな?もう充分だから止めてくれて良いぞ?」


吐きそうな程動いたわけじゃねーけど、今の俺は汗びっしょりだ。

服も張り付いて不快に感じるほどなのに、シルヴィオは構わずマッサージしてくるから気が付くのが遅れた。


「ううん。臭くなんて無いし、これは僕がやりたくてやってる事だから…………それにルシードの匂いは嫌いじゃないよ?」


勘弁してくれ嗅がないでくれ、その結果「うっ!」みたいな顔されたらダメージが半端ないから。


「シルヴィオが良いなら、まぁ良いけど…………」


昨日別件とはいえ尊重するって言ったばっかだからな、このくらい好きにすればいいと思う事にした。

そうしてシルヴィオのマッサージを充分に堪能した俺は、僅かに軽くなったような気がする身体でシルヴィオと寮に戻り、普段通りに学校に通った。

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