第35話 二つの願いを言え!!(〇龍風)/モアの独り言

「え?僕としてはペアを組んでもらえればそれで充分――――――……」

「それはダメ。フェアじゃないもの」


俺の言葉が言い終わる前にマリーに否定される。

いやいや、俺としては本当にそれだけで充分…………否、待てよ?

何でも頼んで良いんなら、これ以上無いほどマリーは適任なんじゃないか?

俺はそう思って、ダメ元で言ってみる事にした。


「それならマリーには卒業するまで勉強を教えてほしいんだけど………?」

「「「「…………そんな事で良いの?」」」」


何故かニーアさん、マリー、モア、シルヴィオにハモって言われた。

そんな事っていうけどな!?文字通り俺は世界跨いできてんだよ!?勉強や常識だって違うんだ、まだ初等部とはいえ何?領地経営学って?こちとら社会科見学くらいしか経験してねーっつうの。

真面目に勉強してこなかった俺の学力舐めんなよ?

数学じゃなくて算数でさえ怪しいんだからな!?

自分で言ってて悲しくなるぜチクショウ!!


だからこそ”天才”と称されるマリーは適任なんだ。


「僕は勉強が苦手だから今は無事に卒業できる程度の学力が欲しい、そのためにマリーには僕の頭脳ブレーンになってもらいたいんだ!!」


俺はマリーの手を取ってお願いする、ここで言質を取っておけば俺がどれだけアホの子(現在進行形)でもマリーは見捨てないでくれるだろう。

何ならモアのように気持ち目をウルウルさせて同情を引いてお願いしてみる。

プライド?はぁ?そんなもんで卒業できるか!?

卒業できなきゃミューレさんが悲しむだろうが!?


…………これ以上親を泣かせるのはクソ過ぎるしな。

自分で勉強?ハハハッ、そんなの出来るようなら田舎でヤンキーやってねぇっつの。

何故かマリーは落ち着きが無く視線を彷徨わせて、


「私で良いの…………?」


上目遣いに俺を見て問いかけてくる。

何だ?何か盛大に間違えてる気がするが……………他に適任者なんて居ない。


「マリーじゃない。マリー良いんだ」


俺がそう言うとマリーは何故か顔を赤らめてこくりと頷いてくれた。




「「「女の敵たらし………」」」


何故かニーアさん、モア、シルヴィオにジト目で睨まれているが俺は間違ったことを言ったつもりは無い。

更にはオーズさんまでもが腕組みをして、


「うぬぅ………ルシードにはやはりその辺りの機微きびを早急に教えるべきであるか」


………なんて、意味の分からない呟きが聞こえて来た。


「それで~?もう一個のお願いは何にするのかしら~?お義母さん的にはもういっその事チューでもすると良いと思うわ~」

「お母様ッ!?何言ってるの!?」


ニーアさんがもっと意味の分からない事を言っている。

今のお母さんはきっとお義母さんだったよな?どういう事だ?

俺は困惑するが言いたい事はハッキリっておかないとこの変態は加速するからな。


「そうですよニーアさん。こんな罰ゲームみたいなノリで要求して良いものじゃないでしょう?」


多分きっとマリーにとってのファーストキスとかだろ?

そういうの俺は気にしねーけど、女子は大事にするもんなんだろ?彼女なんかいた事ねーからよく知らんけど。

外国チックな異世界だから挨拶程度でする文化が在るのかもしれねーが、少なくとも俺にはこんなノリで要求するようなものじゃないと思った。


そう思って言ったのに、何故マリーは俺のふくらはぎを狙い澄まして蹴ってくるの?

俺のふくらはぎに何か恨みでもあんの?


「紳士だ………」

「意外…………」


シルヴィオとモアには何か生温かい目で見られてっし、俺が何かしたか?

あとモア、意外ってなんだよ?あとで絶対ぷにるからな?覚悟しておけ?


「ルシードきゅんが紳士なのはお義母さん的にはポイント高いけれど、結局もう一個のお願いはどうするのかしら~?」


チッ!話を戻しやがった。

そのまま有耶無耶にしてりゃいいものを――――――………。

もう本当にマリーに頼みたい事なんて無いんだよなぁ。

悩んだ末に俺が出した結論は、


「それじゃあこれは貸一つって事ではダメですか?」


今何か思い浮かばなくても、後々何か頼みたい事が出来るかもしれない。

そう思っての提案だった。

そしてそれはその場に居たみんなが証人となり了承された。




【モア視点】


あれから解散した私は、寮の部屋に戻って来ていた。

ルームメイトの子は居ないみたい、何処かの部屋でおしゃべりしてるのかな?

ぼんやりとそんな事を考えて私はベッドに倒れ込み、手近にあったクッションを抱きしめて顔を埋める。


「本当に勝っちゃうんだもんなぁ…………」


思い出してるのは今日のルシードくんとマリーツィアちゃんの試合、校内最強の呼び声高いマリーツィアちゃんを相手に一歩も引かず、ルシードくんは勝利を手繰り寄せたことだった。


きっと勝てるわけがないと思っていた。

ルシードくんが頑張っていた事は知っているし、こっそりと見に行ったことだってある。

それでもきっとルシードくんは負けると思っていた。


「嫌な娘だな、私…………」


誰に言うわけでも無く、呟いてクッションに力を込めて寝返りを打つ。

ルシードくんにはマリーツィアちゃんに負けて、私とペアを組んでほしかった。

そう思ってももう遅い、私はいつだって他の人より遅れちゃうんだ。

イザベラちゃんにもグズ!ってよく言われてたし…………。


デラくんとペアを組んだ時もそうだった。

デラくんは威張りん坊だから誰もペアを組みたがらなくて、ペアを決めるのに遅れちゃった私が結局ペアを組むことになっちゃっただけ。

イザベラちゃんは後日、秘密裏に行われたくじ引きでシルヴィオくんとペアになっていたのにずるい。


私もペアになるならルシードくんとが良かった……………。


デラくんとは何回か模擬戦の連携なんかを練習したことがあるけれど、自分が目立つ事、活躍できる事しか考えてないんだもん。

全然楽しくないし、みんなが見てる前ではカッコつけて”私の意見を尊重してます~”みたいな態度をするし、すぐに私にベタベタ馴れ馴れしくしてくるし、連携上手くいかないと全部私のせいにするし、本当に気持ちが悪かった。


「きっとルシードくんなら……………」


イザベラちゃんたちに詰め寄られていたところを颯爽と助けてくれたルシードくん…………まるで絵本の王子様みたいだった。

みんな見て見ぬ振りをするのに、ルシードくんは助けてくれたから。

もしかしたら私だけが特別なんじゃないかな?って期待しちゃった。

ルシードくんは誰にでも優しく――――――……は無かったけど、それでもルシードくんの傍は私にはとても居心地が良かった。

きっとルシードくんとペアが組めていたらなんだかんだキツイ事も言うけれど、私の事もちゃんと考えて練習をしてくれて、毎日楽しかったに違いないのに。


「はぁ…………学校行きたくないなぁ…………」


明日から本格的に始まる模擬戦試験の練習、それを考えると気分が更に悪くなった。

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