第29話 リベンジマッチに向けての新たな因縁
マリーとのリベンジマッチは成立した。
日付は今から一週間後、同じ場所、同じメンツで執り行われる事になった。
俺はシルヴィオを起こさないようにそーっとベッドから抜け出し、手早く着替えると寮の入口へと急いだ。
「おはようである!!これから特訓を開始するのである!!」
「宜しくお願いします!!」
「うむ!元気が有って宜しい!花丸をやるのである」
オーズさんと早朝トレーニングを開始した。
俺は最初マリーに勝つための特訓だと思っていたのだが、
「ルシードにとってマリーなど通過点であってほしいものである。これから先強者は幾らでも出て来る筈、その度に負ける事の無い様に先を見据えてまずはケガをしにくい体作り、基礎体力作りを継続して行っていくのである」
との事だった。
そしてマリーへの対策は放課後に行う、それが今から待ち遠しくて仕方ない。
朝は森ダッシュの代わりにこの軍学校の演習場の敷地をランニング、実家にいた頃と違ってしっかりとタイムスケジュールを考えられてるトレーニングメニューな事に驚いた。
適度な運動と疲労感で昨日のモヤモヤした気分が幾らか落ち着く、
「では続きは放課後に」
「ありがとうございましたッ!!」
首にかけたタオルで汗を拭いながら寮に戻ると、
「あら?」
「あ、ファナル先生おはようございます」
これから出勤するらしく、ビシッとした雰囲気を纏わせたファナル先生と入り口でばったり会う。
「校長先生から聞いたわ、マリーツィアさんと決闘したんですって?」
先生はまだ時間に余裕があるのか俺に話しかけて来た。
「はい、完膚なきまでに負けましたけど…………」
発散させたはずのモヤモヤが戻って来て、悔しさでいっぱいになる。
ファナル先生はそんな俺の頭にポンと手を置いて、
「相手があの娘だから仕方がない部分もあると思うけれど、それでも悔しいんだね?だけど今のルシードくんはそれだけじゃないって感じる良い顔をしてる、キミはこれからきっと強くなれるよ」
わざわざ目線の高さを合わせてくれて、そのまま頭を撫でられる。
正直照れくさい、けど認められたみたいで嬉しくもある。
「二度寝しないように、それじゃあ学校でね?」
そんな気分に浸っていると、俺の頭から手を放したファナル先生が学校へと向かう為離れていく。
「ありがとうございます。頑張ります」
俺はその背に一礼すると、ファナル先生はこちらを振り返りはしなかったが、ひらひらと手を振ってくれた。
「ルシード、何処行ってたのさ?朝起きると居なくなってるからびっくりしたよ?」
「ごめんごめん、オーズさんと朝にトレーニング始める事にしたんだ」
部屋に戻り着替えを済ませて食堂へと向かう道中、シルヴィオに頬を膨らませて抗議されたので、素直に謝って事情を説明した。
「………マリーツィアさんと戦って勝てないのは当たり前だよ、相手は天才なんだから」
シルヴィオは言葉通りそれが当然とばかりにさらっと言ってくれる。
俺はそれが気に入らなかった。
昨日思い知ったばっかりだからな。
「次は勝つ!!勝てなくて当たり前なんて、そんなの納得出来ない」
若干の苛立ちが混じってしまったのをシルヴィオに感じ取られてしまい、それっきりシルヴィオとは食堂に着くまで何も話さなかった。
シルヴィオはいつも通り女子に囲まれて食事をする為そこで別れ、苛立ちをシルヴィオにぶつけちまった後悔と反省をしながらメニューを見る。
まぁ見たところでやっぱり食材が何か良く分からないんだが…………。
「おはよう」
「あぁ、おはよ」
メニューに真剣に悩んでいた俺は挨拶を無意識に返してしまい、隣に並んで同じようにメニューを見る存在に気付かなかった。
「どっちがオススメなの?」
「どっちだろう?どっちも微妙らしいんだよな…………」
「そうなの?」
「うん…………………うん?」
そして漸く俺は誰と会話してるんだ?って気付いて隣を見ると、そこには制服姿のマリーが佇んでいた。
何でマリーが此処に?アトリエに引き篭もってるんじゃなかったのか?
そんな俺の疑問を知らないマリーは、不思議そうに俺の事を見て来ていた。
「どうしたのルシード?私、何処か変かしら?」
俺の視線を向けられた当人は何か勘違いをして、制服のスカートを摘み、何処かおかしな所が無いか身体を捻って確認している。
「いいや。どこも変じゃない、マリーが此処に居るのってもしかして珍しいんじゃないかって思ってただけだから。マリーの制服姿はとても似合ってるよ」
「……………そう、なら良かった。昨日お母さ――――――……校長先生にも言われたから久しぶりに通う事にしたの、でも寮の食堂は利用したのは初めてだからルシードが居てくれて助かったわ」
「………僕もまだまだだけど、解る事は教えるよ」
「うん。ありがとう」
その後、俺とマリーは朝食を済ませてそのままの流れで教室へと一緒に行く事になった。
教室に入った瞬間、クラスメートたちからの遠慮のない視線にマリーは居心地が悪そうだ、俺にも――――ルシードにも覚えがある嫌な感じだった。
だからこそ俺は出来るだけ、マリーに向けられるそうした視線を遮れるような位置に注意して席に移動した。
「ルシードくん、おはよ~!今日はマリーツィアちゃんも来てるんだね?おはよ~!」
こうした時にモアの纏う空気はありがたい、教室内の雰囲気が和らいだ気がする。
「おはようモアさん」
マリーも戸惑いつつも挨拶を返す。
かなり緊張してるみたいだな?そんなで今日一日大丈夫か?
「そういえばルシードくんはマリーツィアちゃんとペアになれたの?」
モアの質問にクラスメイト全員が黙り込み、聞き耳を立てている事が丸わかりだ。
「それは………」
「今お願いしてる最中なんだ、マリーと勝負して勝てばペアを組んでくれるって約束で――――――」
躊躇いがちに口を開いたマリーの言葉を遮った俺は、まだ結果は保留なんだ!とマリーに視線を向ける。
我ながら情けねーけど、もう一回勝負するまでは精々悪あがきしてやるさ。
「ハハッ!お前なんかがマリーツィアちゃんに勝つつもりなのか?彼女は俺よりも強いんだぜ?」
俺を小馬鹿にした笑いと共に、フェデラーが話に加わって来た。
…………お前より強いから何だってんだ?あとマリーの事”ちゃん”付けしてたか?
盗み聞きしておいて平然と話に入ってくんじゃねーよ、沈めてやろうか?と思ったところで息を吐いて冷静になる。
真面目な奴はそんな事言わないし、異世界の喧嘩は魔法が絡む分勝手が違うのは昨日痛感したばっかりだ。
少しは俺も学習しねーと……………。
俺が何も言い返さないのを良い事に、フェデラーは相変わらずぶん殴りたくなるような嫌な笑顔を貼り付けて話の輪に居座り続けるつもりのようだ。
「デラくん、いい加減に―――――」
「な?モアちゃんもわかっただろ?コイツはこれだけ言われても何も言い返せない腰抜け野郎なんだよ。やっぱりペアは俺にしといてよかっただろ?」
おーいフェデラーよ?良い気分でイキってるところ悪いが、今のお前絶賛嫌われ中だと思うぞ?俺もそういうの鈍い方だけどさ、モアの雰囲気がちょっとピリピリして来てんだよ、いい加減空気読めって。
「いい加減にして!!」
机を両手で叩いて立ち上がり、鋭い声を放ったのはマリーだった。
「ルシードは腰抜けなんかじゃない!!貴方よりもずっと強くて勇気があるの!!これ以上彼を侮辱しないで!!」
今にも射殺さんばかりの目つきで、フェデラーに食って掛かる。
その激昂ぶりはクラス全体を仰天させ、一瞬で黙らせるには充分過ぎた。
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