第30話 その自信を打ち砕くために

マリーからの反撃を食らうとは思ってもみなかったんだろう。

フェデラーもしばらく呆然としていたが、みるみるその眼を鋭くして顔がゆでだこのように真っ赤になって行く。

どうやらこのクソガキは反撃されたのがお気に召さなかったらしい。

女子や無抵抗の奴相手にしかイキれねーのかよ、クソダセェ奴だな。


呑気にそんな事を考えていると、フェデラーは躊躇い無く手を挙げて、マリーに殴り掛かった。


マジか、このクソガキッ…………!?


間一髪、身を竦ませたマリーの顔目掛けて振るわれた拳を、俺は受け止めることが出来ていた。

止められた事に自画自賛、マリーが無事だった事に安堵した後、このクソガキに対する怒りが一瞬で湧き上がって来た。


世の中ムカつく奴なんてそれこそ掃いて捨てて腐る程居る。

そういう奴が女だって事もあるだろう、けど最後の最後まで暴力はダメだ。

それも女子の顔面狙って男から手ぇ出しちゃダメだわ。


何驚いた顔してんだよフェデラーくんよぅ?

俺にお前のパンチが止められたことがそんなに意外だったのか?っておいおい、何力入れてんだよ?


………………このまま逃がすわけねーだろ?


「オイ……………テメー今何しようとした?」

「ッ、放せよッ!!」

「何しようとしたかって聞いてんだ!!」

「放せって言ってるだろッ!!」


マジかよ?素直に謝る事も出来ねーのか?それじゃあ仕方ねーよな?

俺は力一杯フェデラーの拳を握り締めた。

ギリギリとフェデラーの拳ごと、握り潰そうとする俺の握力にフェデラーの顔が苦痛に歪む、この程度で済むと思うなよ?

けどフェデラーがあまりにも痛がるからか、クラスメイト達が騒然とする。

そしてフェデラーも我慢の限界だったのか、俺の手を必死で振り払おうとパニックになってやがる。


「何慌ててんだ?お前が今真っ先にしなきゃいけねーのはマリーへの謝罪だろうが!あんまりふざけたマネしてんじゃねーぞ!?」


「わ、悪かったッ!!だから早く放してくれッ!!」

「………誠意を感じねー。もう一回ッ!!」


フェデラーの拳を強く握る。


「だから、悪かったって言ってるだろッ!?」

「聴こえねーよ、もう一回ッ!!」


「……………ごめんなさい」

「誠意も感じねーし、マジで聴こえねーからもう一回ッ!!」


俺はフェデラーの手をそのまま砕きそうな程捻り上げて、無理矢理顔を上げさせる。

そんな目を逸らした謝罪があってたまるかよ。


「殴ろうとしてすみませんでしたッ!!」


教室中に響き渡るくらいの大音量でフェデラーは謝った。


「…………ったく、言えるじゃねーか。最初っからそう言えば良いんだよ。こんな下らねーこと二度とすんじゃねーぞ?次やったらこの程度じゃ済まさねーからな?俺が即行で沈めてやるから覚悟しとけ?」


俺はそう言って手を放してやると、フェデラーは恨みのこもった眼で見て来たがそれ以上何も言わずすごすごと退散していった。

周囲の席の子たちに気遣われながらフェデラーは手を抑えて保健室へと行くため教室を出て行った。

ふー………俺としたことが、ガキ相手になにやってんだかな。


今更になってキレた事が大人げなく感じた俺は反省しつつ席に戻る。

そのすぐ傍で、マリーとモアが目をキラキラさせて俺の事を見て来ていた。

二人揃って何と言うか…………。


「うるさい」

「うるさいって………私もマリーツィアちゃんも何も言ってないよ?」


「………顔がうるさい」

「それ、すっごく失礼だよ!?」


それ以上俺は話を続けたくなくて、ふて寝する様に机に突っ伏した。

モアが横でうるさかったが、俺はガン無視決め込んだ。


ちらっとマリーを見ると、アイツに殴られそうになって怖い思いしただろうけど、今は楽しそうに微笑んでいたから出しゃばった甲斐はあったな。




そして一気に放課後まで、フェデラーは何もしてこなかった。

てっきりまた金髪う〇こたちに踊らされてまみれて何か仕掛けてくるかと思ってたんだけどな………?

そんな俺の警戒を感じ取っていたモアが、


「今日はもう何もしてこないと思うよ?デラくんってプライドが物凄く高いから、それを守るのも必死だし?今日はもうこれ以上ルシードくんにプライドを壊されたくないはずだよ?」


「はぁ?………そういうもんか?」


何ソレくだらねー、んなプライドなんざドブにでも捨てちまえ。

ガキの頃からそんなもん大事に持ってたってクソの役にも立たねーぞ?ってのは、昨日マリーに負けた俺だからこそ言えるんだが、どの口が言ってんだ?感も否めないな。


どうでも良くなった俺は、カバンに教科書を雑に詰め込むとそれを肩に提げて放課後の特訓へと向かおうとすると、マリーの視線が気になった。


「僕に何か用事?」

「ううん。本当にまだ諦めてないんだなって思っただけ」


即座に首を振って用事を否定するマリーだったが、相変わらず勝負についての自信は絶対らしい。

自分の価値が揺ぎ無いと信じた上で、俺に呆れてるようだ。

だから俺はわざとイキって言い放つ、


「次は絶対に僕が勝つ。その余裕と自信を粉々に砕いてみせるから覚悟しとけ?」

「うん。楽しみにしてるね?」


俺のイキりも素気無く躱されて、穏やかに笑われた。

………これじゃマジでどっちがガキだかわかりゃしねーな。


ちょっと恥ずい思いをした俺は、気持ちを切り替えてマリーと事情が分からず話に付いて来れなかったモアに別れを告げて教室を後にした。



訓練場に着くと、オーズさんは既にスタンバっていた。

腕を組んで仁王立ち………それは遠目にもヤ〇ザのようで、正直近寄りたくないと思ってしまった。

けどオーズさんに見つかってしまい、駆け寄って行った。


「来たか、ではこれより特訓を開始するのであるッ!!」


訓練場に響き渡るオーズさんの声、それに負けじと俺も、


「宜しくお願いします!!」


腹から声を出して応じた。

傍から見れば変な二人に見えるんだろうが、今はマリーに勝つことが最優先だ。

オーズさんの指導なら確実に俺は強くなれる、周囲の目なんて気にしてられるかよ。

俺はどんな訓練を言い渡されるのかと期待を込めて見ていると、


「まず貴様は先日マリーと対戦し、悔しさ以外に何か得たものはあるか?」


てっきり即行走らされたりすると思ってた俺は、真剣な眼差しで問いかけてくるオーズさんに軽い違和感を感じながらも考えてみる事にした。


悔しさ以外………か。


「完璧にマリーの思い通りに動かされていました、僕は何もさせてもらえず只目の前の事に対処するばかりでした」


オーズさんの目が若干驚きに見開かれる、どうやら満足のいく答えだったようだ。


「その通りである。貴様には初の吾輩以外の人間との対戦となったわけであるが、その難しさを理解したようで何よりである。だが相手はあのマリー、多少能力全体を底上げした処で次また戦ったとしても同じように完封される可能性が高いのである」


「じゃあどうすれば良いんですか?」


俺は今、オーズさんに遠回しに諦めろと言われてる気がして苛立ちを抑えられない。

俺の質問に苛立ちを感じ取ったらしいオーズさんは白い歯をニッと見せて、


「魔力ではマリーには敵わぬ。だからこそ筋力と体力で勝負するのである、そして強引にでもマリーの創り出した流れを断ち切り此方に引き寄せる為の一手、貴様にもマリーの『氷晶獣の一撃キュリアス・キャノー』のような決め手をこの一週間で習得してみせるのである!!」


マリーのあの氷で出来たユニコーン、思い出すだけでも背筋が寒くなる。

それほどの威力だった。

勝つためにはあれと同じかそれ以上の決め手が必要だってか?

上等じゃねーか!!


「はい!!頑張ります!!」


こうして俺の決め手となる技の特訓が始まった。

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