第28話 罰ゲームは激化する
「ごめんなさい」
結局は無効試合になっても悔しさを引き摺っていた俺は、その後も医務室でオーズさんたちと話していると、マリーがぽつりと呟くように謝罪の言葉を口にした。
その呟きは丁度会話の切れ目で発せられて、俺には殊の外大きく聞こえた。
「………それは何に謝ってるの?」
負けた事にまだまだイラついてた俺はついつい責める様な口調で言ってしまう。
………大人げねーな、しかもクソダセェ。
マリーに当っても意味ねーってのにな?
俺がマリーよりも弱かった。
言葉にすればそんだけの話だ。
オーズさんに指導してもらうようになって、俺は強くなったと勘違いしてたんだ。
元々ケンカには自信があった方だし、調子に乗ってイキってたんだ”俺が負けるわけねー”って、それがこのザマだ。
ダセーにも程がある、笑えてくる。
黙り込んでるマリーは今にも泣きそうになって俯いている。
だー!!くそっ!!何小さい娘泣かせてんだ俺は!?これじゃ昔のルシードと変わらねーじゃねーか!!
「………こっちこそごめん。負けてすごく悔しかった、だからその………そんなにキツく言うつもりは無かった。それにマリーは謝る必要なんて無いよ、怪我をしたのは単純に僕が弱かっただけなんだから」
マリーは俺の言葉を否定する様に頭を何度も振った。
それにつられて目から涙が零れ落ちる。
「私、ちゃんと加減出来るって思ってた。けど――――――」
「マリー、それ以上言わないでくれ。言ったら本当に怒る」
その先は言わせない、ガチでキレそうだったから。
さっきのごめんなさいは「上手く手加減できなくてごめんなさい」だったなんて聞きたくもねぇよ。
「けれどルシードくん、マリーの魔力は桁外れに大きいの。だからきちんと加減が出来る様になるのも修行の内――――――…………」
ニーアさんが俺に言い聞かせる様に話始める。
解ってんだよそんな事ぁ!!
「それでもッ!!俺はマリーと真剣に勝負したんだッ!!手加減できなくてごめんなさいなんて言う必要無いだろうがッ!?
限界だった。
俺は情けねーけど本気で泣いていた、悔しくて悔しくて掛けられていた布団を握り締めて鼻水たらしてみっともなく泣いた。
これをガキだから―――――なんて言い訳するつもりは無い。
これは俺が悔しいから泣いてるんだ。
医務室に沈黙が降りる、それが余計に俺を惨めにさせてダサすぎて恥ずかしくて情けなくて涙が止まらなかった。
「よくぞ吼えたのであるッ!!」
オーズさんがいつも以上に声を張り上げた。
それは俺の涙を引っ込めさせ、ニーアさんとマリーの重苦しい雰囲気も一気に吹き飛ばした。
「ルシードよ、その悔しさは吾輩との訓練では絶対に手に入らぬモノである。それを絶対に忘れてはならぬ!!悔しさとはエネルギーの塊である、折角心に湧いたエネルギーである。燃やせ!!そうすれば貴様は腐ることなく強くなれるのである!!」
オーズさんとの訓練では絶対に手に入らないモノか………俺が調子付いてる事、オーズさんにはバレバレだったんだな?
オーズさん相手なら負けても仕方がない、そんな風思い始めてた。
だから俺よりも強くて同い年の奴と戦わせてその鼻っ柱を圧し折らせるつもりだったのかよ、マリーの折るつもりが逆に折られたのかよ!くそっ!恥ずいな。
これ以上クソダセー奴になりたくねーわ。
俺は袖で残っていた涙を拭って、オーズさんに向けて大きく頷いた。
俺の反応に満足そうに「うむ!」と大きく頷いたオーズさんは、隣に居たニーアさんの方を向き、
「ニーア、すまぬがもう一度ルシードとマリーに試合をさせたいのであるが……?」
突然のオーズさんの申し出にニーアさんは頬に手を当てて黙り込んだ。
その表情からあまり返事が芳しくない事が想像できた。
オーズさんは俺にチャンスを与えようとしてくれてる、それなのに俺が何もしないわけにはいかなかった。
「お願いしますッ!!もう一度、全力のマリーと試合をさせて下さい!!」
俺はベッドに座った状態でだが、頭を出来る限り提げてお願いした。
「けど………」
ニーアさんはそう言って、マリーに視線を向けた。
「模擬戦大会のペアなら引き受けるから、ね?もう止めよう?」
マリーも気が進まないのか、断ろうとする。
けどそれじゃダメなんだよ!俺が悔しいってのもあるけど、試合中つまんない顔してたマリーに何としてでも一泡吹かせてやりたい!!
今度こそ俺がマリーの鼻っ柱を圧し折ってやる番だ!!物理的にじゃねーぞ!?
「じゃ、じゃあ………もう一回約束してくれる?」
マリーが譲歩してくれる――――――そう思った俺は前のめりでマリーの言葉を待った。
「もう一回試合をして、私が勝った時は私の言う事何でも聞いてくれる………?」
何で上目遣いで言うのかは謎だったが、そんな事で良いのか?
元々それは聴くつもりだったし全然構わねーけど?
「ああ!マリーがそれで良いなら構わない!何なら二回に増やしたって良い!!」
「本当!?」
今度はマリーが前のめりだ。
そんなに俺に何か言う事聞かせたい事でも有んのか?
俺たちの話を聞いたニーアさんが、何も言わずに何処から取り出したのか半ズボンを広げて俺に見せてきているのが横目に見えるけどガン無視決め込んだ。
「ルシードきゅ~ん、ルシードきゅ~ん。校長先生のお願いも~聞いてくれると嬉しいなッ♪」
甘える様な妙に鼻にかかった様な声を出すニーアさん。
娘の前でもお構いなしかよ………ブレねーな?この変態は………。
「そんなのダメッ!!」
ニーアさんが何処から取り出したのかもわからない半ズボンを、勢いよく叩き落したマリーが叫んだ。
マリー………俺が変態の毒牙にかからないように怒ってくれるのか……なんてちょっと密かに感動していると、
「ルシードは私の執事になるのッ!!私が一生面倒見てあげるんだからッ!!」
感動して損した。
「マリー?前から言ってるでしょう!?執事が欲しいならきちんとした所から雇い入れてあげるからって!!」
あのさ、何の話?つーかマリーはあれか?執事萌えってヤツか?
此処でならニーアさんの言う様にリアル執事を雇えるだろ?金持ちなんだから。
それにマリーはまずあのアトリエの惨状をどうにかしろよ?
そうでないと執事を雇ったところで、その執事最初の仕事がゴミ屋敷の掃除とか不憫すぎるだろ。
「お母様こそ、半ズボンなんて今どきマニアック過ぎるのよ。それにきちんとした所から雇い入れた執事なんてよぼよぼのおじいちゃんだし、完璧すぎてダメなの!!失敗した執事を優しく叱って、躾けて、育てていくのが良いんじゃない!!」
”育てたい”とかマリーさぁ、歳幾つだよ?
それに二人とも、そんな業をこんな場所で熱く語んなよ。
気持ちは解るけどな?TPOは選ぼうぜ?
「ふむ。では今度ルシードが負けた場合、半ズボンの執事服を着てマリーに一日執事の真似事をしてもらうというのはどうであるか?」
オーズさんもこれ以上こんな話を続けたくなかったのか、すげー投げやりにそんな事を言い放ちやがった。
「どうであるか?」じゃねーわ!!負ける気はねーけど俺の意志は!?
「「それだわ!!それしかない!!」」
いや待て早まるな、きっと他にも色々あると思うんだ。
俺のその後の奮闘も虚しく、ニーアさんとマリーが目からウロコって感じでオーズさんの意見が採用された。
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