第27話 ルシードVSマリー
「それでは双方!はじめッ!!」
ニーアさんが試合開始を告げて、最初に動いたのはマリーだった。
俺から距離と取るようにして走りながら、何事かを呟いている。
あれがオーズさんが言ってた詠唱って奴か?
俺は元々詠唱を駆使していないから、オーズさんにもサラッと説明されただけで実際に見るのは初めてだ。
走りながら詠唱なんかして舌を噛まないだろうか?気になる。
魔力が収束し形となった時、気のせいなんかじゃなく闘技場の空気が冷たくなった。
「『
手から放たれた魔法陣、そこから無数のつららがこっち目掛けて飛んでくる。
けど距離が開き過ぎだ、飛び道具の様な魔法だから仕方がないのかもしれねーが、これじゃ余裕で躱せるだろ。
俺はその場から走り出してマリーの氷槍を避ける。
さっきまで俺の居た場所を次々と氷槍が通過していき、氷槍は闘技場の壁に衝突して砕けた。
てっきり突き刺さるもんかと思ってた。
そんな俺の視線に気付いたニーアさんが、
「闘技場の壁は対物理・対魔法障壁の魔法が施してあるの、因みにそれを開発したのがマリーよ」
俺の疑問を解消してくれた。
それにしてもマリーが創ったってか?スゲーな、マジで天才だわ。
そんな事を考えていたのがいけなかった。
「ルシードきゅん?戦闘中に余所見しちゃうだなんて随分と余裕ね~?」
続くニーアさんの言葉に俺は完全に油断していた事に気付く。
「…………もう遅いわ。『
俺を中心に円を描くように吹雪が発生する、その中には雹も混じってるらしく突っ切るにしても結構なダメージを覚悟しねーと突破は無理っぽいな。
けどここでじっとしてるとマリーの思う壺だ。
さっきから吹雪が邪魔で姿が見えねーが、マリーが大技使おうとしてるのは魔力の流れでヒシヒシと感じるし。
腹括ってここから飛び出すしかないか‥……致命傷を避けられるかは正直わからんけど、ずっと此処に居たら確実にヤベー。
俺はそう決めて一歩踏み出そうとした、けれどそれは出来なかった。
見れば氷が少しずつ俺の足を侵食する様に凍結させていき、地面と繋ぎ止めていた。
身動きすら取らせねーようにしてから確実に仕留めるつもりか、くそっ!!
そうして俺が膝下まで地面と氷で繋がれた頃、ようやく吹雪が消えて魔力と魔法陣の展開が終わったらしいマリーが見えた。
その顔は勝ちを確信している余裕があるのかと思えば違った、何つーかスゲーつまらなそうな、残念そうな顔をしていた。
これが”天才”マリーが考えた必勝パターンなんだろう、緻密に考え尽くされた事でマリーの中では模擬戦闘も作業のようになっているのかもしれない。
「『
一際大きな魔法陣がマリーによって展開され、そこから現れたのは馬に角が生えてる奴…………ユニコーンだっけか?
その全身が透き通るクリスタルで出来てるようなキラキラとしたユニコーンは、二、三度地面を蹴るとその額にある角を俺に向けて突進してきた。
地面とくっついてる今の俺に避けるなんて出来ない、全てはマリーの子の一撃の為の布石ってわけか。
相変わらずマリーは心底つまらないって顔をしてやがる。
それが俺には気に食わなかった。
確かにマリーは強い、けどずっと余裕ぶっこいてるのが気に入らねえ!!
俺は腰を落とし、姿勢を低くして両手に炎を纏わせる。
幸いにも踏ん張りは効く、何処まで耐えられるかは謎だが来いやぁ!!
馬が角生やしただけだろーが!!
「うおらぁぁぁぁ――――――……!!!!!」
真っ正面から突撃してくるユニコーン、その角を握り締めて突進を止める。
足を縫い留めていた氷は衝撃で弾け飛び、そのまま地面を滑走する。
炎を纏ってるはずの両手にも冷気が襲ってきてるのを何とか持ちこたえてる状態だった。
そして俺は気付く、マリーたちが遠く離れてる事に、それの意味するところにも………。
横へ逃れる?いやだめだ、力を逃がそうにも気を抜いたら突き刺さる。
けどこのままだとコイツと闘技場の壁にサンドイッチにされるだけだ、くそっ!
イチかバチか、俺は全力でユニコーンを止めにかかる。
その後の力配分なんて知ったこっちゃねー!!
両手に纏う炎の勢いが増した事に気付いたのか、ユニコーンはその首を勢いよく振り上げた。
「うおっ!?」
突然そんな事をされた俺の手は角からすっぽ抜け、空中へと投げ出された。
そして体勢なんて整える暇もなく、落下する。
その下には当然のようにユニコーンが待ち構え、その角を翳していた。
串刺しにしようってか!?
「そこまでである!!」
勝負の場に、オーズさんのデカい声が響き渡った。
俺を待ち構えていたユニコーンは煙のように消えて、俺はそのまま闘技場の地面に受け身もとれずに叩きつけられた。
――――――……痛ってえな、チクショウ。
気が付くと、俺は何処かのベッドで眠っていたようだった。
「気が付いたであるか」
オーズさんがずいっと顔を覘かせて俺を見ていた。
正直、負けちまって最悪の気分だったが、濃い顔に心配している色が見えた俺はもう大丈夫だと安心してもらう為に顔をそっちに向けた。
オーズさんの隣にはニーアさんとマリーが並んで立っていて、二人ともが申し訳なさそうな顔をしている。
何なんだよ?このお通夜みたいな空気は?
俺はベッドから身を起こすと節々が痛む、喧嘩した次の日の様な懐かしさを感じながらオーズさんに確認をした。
「僕は負けたんですよね?」
悔し過ぎて口にするのも嫌になるが、勝った連中が申し訳なさそうにしてるから、負けた俺は何も文句なんて言えない。
敗北なんて言葉じゃ生温い、一方的な試合で封殺された、完敗だった。
「治癒魔法で簡単に処置はしたけれど、明日、明後日くらいまでは痛みは残るかもしれないわね。それで先ほどの試合結果だけど、”マリーの反則負け”でルシード君の勝利よ」
相変わらず申し訳なさそうに、いつものふざけた気配なんて微塵も感じさせないニーアさんが告げた。
どういう仕組みかは知らないが、この世界では傷を治癒魔法で治すと勿論傷は塞がるし骨も元通りになる。けれど暫くの間痛みを身体が覚えているらしい。
治癒魔法も万能じゃねーって事か。
それにしても反則負け?どういう事だ?
「マリーツィアの最後に使用した魔法は突進させるだけならば問題無いのであるが、あの”カチ上げ”については使用が許可されていないのである」
せ、線引きがわからねー…………。
俺からすれば、あの突進も相当やべーんだけど?
オーズさん基準じゃねーよな?
カチ上げするかどうかもユニコーンの気まぐれだろ?
色んな言葉が浮かんでは消えた、けどどうしても勝ちを喜ぶ気にはなれなかった。
「そんな勝ち、僕は要りません。何も出来なかった僕の敗北です」
その後もオーズさんとニーアさんは勝ちは勝ち、みたいなことを言って来たけど納得出来るわけがねーんだよ。
結局俺とマリーの試合は
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