第24話 ピーンポーンパーンポーン♪
今か今かと待ちわびた放課後、俺は早速ファナル先生の所に模擬戦大会の事を聞きに職員室迄来ていた。
「一応生徒全員に出場資格というか実技の試験があるから、勿論ルシードくんにも予選というか授業で模擬戦をしてもらうんだけど………――――――」
ファナル先生は歯切れの悪い言葉と共に、眉を”ハ”の字にして困った顔をした。
「ルシードくん以外でペアを組んでいない子は一人しか居ないのよ………」
「それじゃあその子と組みます、何組の子ですか?」
「同じクラスよ?席はルシード君の隣、今日も居なかったから顔は知らないでしょうけど」
俺の隣?それに今日もって何だ?
あの長机って俺一人じゃなくて休んでる子が居たのか、出席も取らなかったから欠席者がいるなんて気付きもしなかった。
そんな事を考えてる間に、ファナル先生は俺の知りたかったことを教えてくれる。
「名前はマリーツィアさん、本来なら上級生になってからじゃないと使用許可の下りない研究棟で唯一専用の
へー………専用の工房かぁ……イメージ全然湧かんけど、秘密基地みたいでなんかテンション上がるわ。
そんな俺の様子に不安になったのか、ファナル先生が俺に顔を近づけて小声で、
「あまり大きな声では言えないけど、校長先生の娘さんで天才と呼ばれる程利発な女の子よ?学校としては彼女の才能を生かすために授業よりも研究優先って方針だから、大人たちとの関りの方が多くて同い年の子たちには人見知りになるみたいだけど、優しくてとても良い子よ?あの校長先生の娘さんとは思えないくらい――――――……」
その時だった、丁度ファナル先生の言葉を打ち切るように校内呼び出しを告げる俺にもなじみのあるメロディーが流れて来た。
「ファナル先生、ファナル先生、良い度胸ねぇ~?大至急校長室まで覚悟をしてから来るように~うふふふふ……」
じゃんけん後のサザ〇さんのような笑い声を残したまま放送が切れた。
校長直々の呼び出しに、ファナル先生は青い顔をして絵に描いたようにガクブルしていた。
こ、怖ぇぇぇぇ………マジかあの校長!?聞こえてたのか!?地獄耳過ぎんだろ!?
”只の変態”じゃなかったのか…………。
俺の中で今日からニーアさんは”ヤベー変態”にランクアップした。
「大丈夫ですか………?」
思わず俺でさえ気を遣ってしまうくらいに、怯えているファナル先生。
その目には涙が浮かんでいて、相変わらずガクブル――――――否、どんどん激しさを増して行ってる。
周囲の先生たちも同情する視線を送ってはいるものの、誰もフォローを入れない。
もうそこにはデキる先生の面影なんて無く、何かに怯える女性そのものだった。
ニーアさんやりすぎだ…………さすがに不憫すぎる。
そんな中、もう一度校内放送のメロディーが聞こえて来て、
「ルシードくんを連れて来たら許してあげますよ~?」
それだけを告げて放送は切れた。
それでフォロー入れたつもりか?
自由にのびのび生きてんなぁあの変態、野放しとも言うか。
そんなくだらない事を考えていると、制服の裾をキュッと掴むような力を感じた。
その力に引っ張られて意識を戻すと、今にも泣き出しそうなファナル先生の顔が間近に在って内心ビビる。
先生は何も言わず、チワワのようにぷるぷる震えながら目で訴えかけてくる。
わーったからそんな目で見つめてくんなよ。
そして何か言えよ、こえーから。
結局、俺はファナル先生のその目力?に折れて一緒に校長室迄やって来ていた。
まぁあのまま放置するのも不憫すぎるしな…………。
そして俺は何故かファナル先生に抱き抱えられている。
「何か落ち着くから」とか言われた俺は職員室で大泣きされるよりマシかと、恥ずいのを我慢して抱っこされていた。
途中、強面の先生に「頼んだよ」って言われたんだが、果たして俺は何を頼まれたのだろう?
しかし時折髪に顔を埋めては「あぁ………天使の香りがする」とかちょっと意味わからない事呟いてるファナル先生に俺はだんだんと身の危険を感じてきてる。
ファナル先生、それシルヴィオに借りたシャンプーの匂いだからな?
でも背後からの感触?ははっきり言って最高だ!!ごっつあんです!!
周りの視線と今尚続く身の危険に耐えられるならな!?
そしてそのまま解放される事無く、校長室のソファに座る。
俺は自然とファナル先生の膝の上に乗る形となってしまい、恥ずか死ぬ寸前だ。
そんな俺たちの状況にも何も言わず、ニーアさんはファナル先生を無視して俺に向けて話始めた――――――って校長なら止めさせるとかしろよ!?
「ルシードくん、ウチのマリーとペアを組むのならあの子の事宜しくね?物凄く頭が良い子で恥ずかしがりやさんだからアトリエに引き篭もっちゃっててね~?どうにかしようと思ってたんだけど、きっとルシードくんなら何とかしてくれるわよね?」
何なんだよこの全幅の信頼、俺はまだ特に何もしてねーぞ?
とりあえず会って話をするくらいならするけどよ。
人見知りらしいし、ペアになってもらえるかどうかはまだわからねーしな。
「それは保証できませんけど、まずは会って話す位はしようかと思ってます」
何とかするつもりなんて無い、出来るとも思わない。
所詮俺も只のクソガキなんだ、けど俺のそんな答えにニーアさんはとても嬉しそうな笑顔で何度も頷き、
「うんうん。ルシードきゅんならきっとマリーとペアになってくれるって信じてるわ~。だってあの娘一年生の中――――――いいえ、このシバキア軍学校の生徒たちの中で一番強いんだもの~興味あるでしょう?」
セリフだけ聞いてると親バカ、だけどそこには娘自慢をする母親では無く、我が子を心配する母親の顔があった。
「――――――だからこそマリーは変に自信を付けてしまったのだけどね~。他の人がやるよりも自分一人でやった方が何倍も速い、上級生を含めた他の子たちには出来ない事だって簡単に出来てしまう。マリーったら他の子たちに諦めを抱いてるの」
「諦め、ですか?」
「えぇ。このシバキア軍学校でもあの子と競い合える相手が居なかった、大人たちと関わり過ぎたのも今思えば問題ね~?だって上下関係しか存在しないんだもの。あの子には何よりも同い年の競い合い、供に研鑽を重ねて行けるような友だちが必要、そんな事につい最近まで気付いてあげられなかったダメな母親からのお願い、聞いてくれるかしら?」
それはもう完全に俺がミューレさんにも見る母親の顔だった。
だからって訳じゃねーけど、俺でもどうにか出来ることならばどうにかしてやりたいと思っちまった。
俺は姿勢を正してニーアさんと向かい合う、ファナル先生の事は……忘れる事にする。
「出来る事ならあの子の諦めを、慢心を、打ち砕いてもらえないかしら?」
「どうして僕に?」
「だってオーズ君の弟子ですもの~私も興味あるわ~」
ルシード・エンルムが
「わかりました。僕が軍学校最強に何処まで迫れるか判りませんが、やれるだけの事はやってみようと思います!」
俺のそんな返答でも、ニーアさんは笑顔を見せてくれた。
もしかするとニーアさんには俺が内心校内最強と戦えるのを楽しみにしてるのがバレてるのかもしれないな。
話終わったタイミングで、ファナル先生が俺を抱えたままソファから立ち上がり、退室しようとする。
けどその前に一言だけ、言っておかなきゃならないことがある。
ファナル先生がドアノブに手をかけてから、俺は振り返れないのが締まらないが、そのまま言ってしまう事にした。
「校長先生は気付けたのなら、ダメな母親なんかじゃないですよ?本当にダメなのは気付いたのに何もしない親の事です」
それだけ言ってファナル先生と俺は逃げるようにドアを閉めようとしたところで、
「ファナル先生は何を帰ろうとしているの?ルシードくんを放して部屋に残りなさい?ルシードくんを抱っこしていた羨まけしからん件についてもお話があります」
羨まけしからんって、もう変態だってバレてるから隠すつもりも無いのか知らんが、教育者ならそこは濁しとけよ。
ニーアさんからの絶望的な宣告によって俺を抱いていた力が弱まり、俺はその隙に逃げ出すことに成功した。
「あっ!!待っ――――――!!」
俺は即座に校長室の扉を閉めて、ファナル先生の言葉を遮った。
すまねえなファナル先生……さすがにもう俺にはどうにも出来ねーわ。
強く生きてくれや。
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