閑話・裏話 one and only
【マリーツィア視点】
私はマリーツィア・ベルベッティ。
この学校の校長ニーア・ベルベッティ先生の娘です。
何だかすごく嫌な予感がして目が覚めてしまいました。
昨日夜遅くまで研究していたので、いつもならもっともっと寝ていられるはずなのに、珍しい事にもう眠気がやって来ないのは何故かしら?
仕方なく私は自分のアトリエの中にあるソファから身を起こして、時刻を確認するために目覚まし時計を手に取ります。
………学校生活を送っていたなら放課後になってから一時間ほど過ぎた頃でした。
私は目覚めの紅茶を淹れて、ぼんやりとそのまま食事を摂る事にします。
起きてすぐに何か食べておかないと、研究に没頭する私はすぐに食事を忘れてしまうのよね…………。
またアトリエで倒れてお母様に心配させてしまうのは本意ではありませんし。
そんな食事中でした、私のアトリエに接近する人を検知したアラームがアトリエに鳴り響きます。
何故私のアトリエに接近しているのかが解るのかって?
それは私のアトリエだけ他の人たちとは違って離れた場所にあるからです。
私は即座に対侵入者用に開発した魔法を幾つも発動させ、同時に外の様子を監視する魔法を発動、その映像を水晶玉に投影してそれを覗き込みます。
「あっれ~?こっちで合ってるよな………?」
そこには紫がかった白い髪の……制服から見るに男の子が一人だけ映っていた。
今日配布されたプリントを届けに来てくれたのでしょうか?けれど見ない顔だったので私は警戒レベルをそのまま維持する事にして状況を見守る事にする。
そのままプリントをアトリエの玄関にあるポストに入れるだけならよし、けどそれ以外の行動に出た場合は――――――…………。
どうにも嫌な予感が拭えなかった私は、アトリエの玄関扉に対物理防御・対魔法防御・遮音結界の効果を備えた障壁魔法を設置しました。
これを突破できるのはこの学校にもそういない筈です、私が”天才”なんて称される事になった象徴とも言える
他の子たちよりも何でもすぐに出来た私は、同い年の子たちからは嫌われていた。
揶揄われて、何故か嫌味を言われて、私は早々に学校の子たちと関わるのを辞めた。
だって時間の無駄じゃない?
私の足を引っ張るくらいなら何故私に並び立とうと努力しないのかが、私にはまるで理解できなかったから。
天才だってもてはやしてくる子たちもあまり好きにはなれなかった、私だって初めから何でもすぐに出来たわけじゃない。
たくさん努力して出来るようになった事、解るようになった事が楽しくて、もっともっと努力してたらいつの間にかそんな風に呼ばれてしまっていた。
私に近寄って来るのは親に「仲良くしなさい」と言われている子たちなのだと知ってショックだったのもある。
そうした事情から人見知りになった私、その中でも特に男の子という存在の意味がわからない。
私からすれば、がさつで下品ですぐに人を馬鹿にしてはゲラゲラ笑ってる謎の生物。
ファナル先生はどうして男の子にプリントを頼んだりしたんでしょう?
私は水晶玉に映される男の子を注視する。
彼はプリントを持ってるわけでもなく、真っ直ぐにこのアトリエの玄関扉に向かって歩いてきて、そして――――――、
「マリーチアさんのアトリエは此処ですか?」
玄関扉のドアノック金具には手が届かなかったようで、早々に諦めた様子の男の子は控えめにコンコンと叩く音が聞こえてきました。
それにしても…………人違いだったのでしょうか?私の名前はマリーツィアです。
私は水晶玉に手を翳すと、
「場所を間違えていませんか?此処はマリーツィア・ベルベッティのアトリエです」
私の声をそのまま届ける事にして説明してあげる。
直接会って話すわけでは無いから、然程緊張もせずに話すことが出来た。
学校で家名は禁句だけど、此処は私専用のアトリエだからきちんと名乗っておかないといけないので例外よね?
彼はそれに一瞬とても驚いたように飛び跳ねてきょろきょろと周囲を見回していた。突然声が響いたことにびっくりさせてしまったみたい、それでも私の言ったことは認識したみたいで、
「ううん。マリーチア・ベルベッティさんで合ってるよ」
ホッとしたように胸を撫で下ろしていた。
どういうこと?
「………私はマリーチアではありません。マリーツィアです」
「え?マリーチアさんでしょ?」
「マリー”ツィ”アです」
「だからマリー”チ”アさんだよね?」
この男の子もやはり他の男の子たちと同じで私を揶揄ってバカにしているんだ――――――そう思うと無性に腹が立った私は、
「マリー”ツィ”ア!!人の名前くらいきちんと言ったらどうなの!?失礼でしょう!?これだから男子は嫌なのよ!?」
本当に!本当に!失礼で嫌な奴!!
「ええっと……マリーチアさん?」
まだ言いますか!?
私は予め準備をしておいた迎撃魔法を展開して、彼の足元に威嚇射撃します。
決して苛ついたからではありません!えぇ断じてありませんとも!
彼があまりにも失礼だったから敵と認識しただけ、そうそれだけよ!!
「マリーツィアです!何度言えば解るのかしら?バカなんですか?」
慌てた様に逃げ惑い、無抵抗なのを良い事に今までの男の子たちに対する嫌悪感から、気付けば私はそんな事を口にしていた。
「うぅ………ごめん。まだあんまり上手に発音できなくて………」
彼は私に攻撃されながらも申し訳なさそうに謝って来た。
それは本当に悪いと思ってるみたいで、どこか悔しそうにしていた。
もしかすると彼は自覚していて、直そうと努力はしてるのになかなか直らない癖のかもしれない。
そう思った私はこの時になって漸く、私を揶揄い、虐めて来た男の子たちと同様に最低の事をしていたんだと自覚してしまった。
私はその痛みを、知っていて嫌悪さえしていたはずなのに――――――………。
「呼び難いならマリーで構わないわ。お母様はそう呼ぶから」
申し訳なくなった私は彼への攻撃を中止し、そう口走っていた。
あれだけ嫌悪していた男の子たちと同レベルにまでなってしまった自分自身が許せなくて、私は気が付けば彼に愛称で呼ぶ事を許していました。
そう、これは謝罪の意味も込めてるだけ!!
けど何故かしら?だんだん顔が熱くなっていくのは……………。
思えば男の子に愛称を許したのなんて初めて…………よね?
私は申し訳なさから彼への嫌悪感が薄れているのを感じ、どうして此処に来たのか興味が湧いて来ていた。
「宜しくね?マリー。僕の事もルシードで良いよ」
彼――――――ルシードはそう言って笑いかけてくれた。
その笑顔に、自然と胸が高鳴った。
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