第22話 寮内食堂は毎日が飯テロ(物理)らしい

その後シルヴィオと二人でトイレの整理を行い、寮内での規則なんかを教えてもらってると夕食の時間になった。

食事は男子寮と女子寮を繋ぐ部分に食堂があり、そこで皆食事をする事になる。

学年ごとに食事の時間が分けられている為、食堂の座席にはいつも余裕が有るのだそうだ。


俺はシルヴィオに案内してもらって食堂へ辿り着く、途中何度も男子生徒とすれ違ったのだが、皆遠目に見てくるだけで誰も話しかけてはこなかった。


食事はAとBの定食を選ぶだけ、学校にある学食では更にそこにCとDが追加されるらしい。

そして学食でも寮の食堂でもそれほど凝った食事はわざと出さないようにしているそうだ、戦場では豪華な食事なんて期待できないから今のうちに慣れさせる目的があるって話だったが、当然のようにかなり不評らしい。

けどOB、OGがそこだけは絶対に改善させようとしないんだと、間違いなく後輩に対する嫌がらせだろ?


今のところ人間対人間の国で戦争はしていないが、魔族とはつい最近まで争っていたらしい。現在は休戦状態、なんでも魔王を勇者が倒した事で向こうの勢いが止まったんだと。やるじゃねーか勇者!





「シルヴィオさま~」


食堂に入るなりシルヴィオが女子に呼ばれる。

声のした方を見ると、テーブル一つ占領した女子の集団の一人がシルヴィオに向けて手を振っていた。

そこには椅子が一つだけ空けられていて、シルヴィオは俺にすまなさそうな顔をして、


「ごめん、ルシード。僕は――――――……」

「あ~何となくわかった。行ってこい、教えてくれてありがとな」


そうしてシルヴィオと別れた、そういえばアイツまだ何も注文してなかったけどどうするんだ?とか思ってたら取り巻きの女子の一人がシルヴィオの分の食事を持って来ていた。そこに別の女子が駆けて行き、シルヴィオの食事を渡すのは私よ!とか言いながらやいのやいのしていた。

それに誰も何も突っ込まない、またかよ……そんな呆れの混じる視線を他の男子から向けられてるのにも気付かず、シルヴィオは只困った顔をして見てるだけだった。


…………朝っぱらから王子様してんなぁ………今は何も言うまい。

後で部屋に戻った時にそれとなく言ってみよう、多分理解してはもらえないんだろうけど。


「あ、ルシードくんだ。やっほ~」


元気よく通る声で俺の方に歩み寄ってきたのはモアだった。


「何食べるか決めた?」

「今悩んでる」

「どっちも大して美味しくないから悩んでも結果はあまり変わらないと思うよ?」


空気読め無さそうだけど普通に気遣いは出来そうなモアがこんな事を言うんだから、本当にそういう味なんだろうなと思いつつ定食を見る。

モアにはああ言ったが、今の俺には更に別の問題もプラスされている。

それは…………、


A定食 ララ豆のスープ

B定食 ソボーガゼルの炒め物


食材がどんなものか全くわからねーんだけど!!

豆のスープか何かの炒め物かの二択、どっちも大して美味しくないとのレビュー。

…………自分で作った方がおいしく食べられそうな気がしてくるな。


迷った結果、B定食にする事にした。

モアと一緒に並んで他の人たちがどういう風に注文してるのかを観察する。

厨房にA定食かB定食を告げるだけで良いみたいだ、即座に出されてるって事は作り置きされてるんだろう。

モアもB定食にしたみたいだな、俺は厨房に居たおばちゃんに、


「B定食ください」


と言うと、申し訳なさそうな顔をして、


「ごめんね。B定食はさっきので売り切れになっちゃったのよ、その分ララ豆おまけしてあげるからね」


そう言って豆の浮かんだスープに、更に豆を追加投入された。

枝豆くらいのサイズの鮮やかな紫色の豆がスープから溢れている。


「ルシードくん、変えっこしても良いよ?」

「いや……いい」


俺とモアは二つ空いてる席を見つけてそこに座る。

スプーンを手に持ち、いざ実食!!

紫色の豆を口の中に押し込むようにして食べた。


…………………案外美味いな。


見た目はちょっとアレだが、味は枝豆とほとんど変わらない。

少し苦味が強いけど、マズいって程でもないと思う。

スープに浮かぶ他の野菜にしても、子どもたち向けに配慮されているのか小さめに切られているし、食べやすい。

俺には薄味に感じるが、これで大して美味しくないとか罰当たりな連中だな。

モアは見た目、肉野菜炒めな物を食べて顔を顰めている。


「う~………美味しくないよぉ……」


肉を喰っといて何言ってるんだ、俺なんて豆と野菜オンリーのスープなのに。

モアがちらりとこっちを見て俺と目が合う、俺が豆のスープを美味そうに食ってて興味を惹かれたらしく、


「それ一口ちょうだい」

「あぁ、別に良いぞ?」


そうして口を開けたモアに豆のスープを食べさせてやった。

間接キス?んなのガキ相手に気にするかよ。

咀嚼してしばらくすると、やっぱりモアは顔を顰めて、


「う~苦いよぉ………」


それでもきちんと食べる辺りモアは流石ふくよかなだけの事はある。

今更になるがモアは決してデブじゃない、健康的ふくよかさんだ。

味覚がまだまだお子様だからか?苦味を特に強く感じて美味しくないと感じてしまうようだ。


「ルシードくんも一口食べる?」


そう言ってモアがフォークで刺した肉を俺に差し出してきた。

俺はそれをさっきのモアと同じように食べさせてもらう。

「あ~ん」とか恥ずかしくないのかって?今はそれより目の前の肉の味に興味があるからな。

エンルム家でも食事をしていたけど、オーズさんに詰め込まれてた記憶しかないので味わってる暇なんて無かったし結局その後の訓練で吐いてたからな。


タンのような食感、噛めば噛むほどに味が出て、


「くっさ!?」


俺は耐え切れずに気が付けばそう口にしていた。

臭い!!超獣臭い!!ジビエ料理とかああいう方面の肉の臭みを消す為の下処理を、敢えて何もしなかったかのような強烈な獣臭さが口いっぱいに広がる。

これは普通にマズい、他の味なんて全部消し飛ぶほどの圧倒的獣臭ッ!!

俺はすぐに豆のスープを食べて流し込んだが、口内には依然として強烈な獣臭が残ってしまった。


「ね?美味しくないでしょ?」

「これはもう美味しい美味しくないの次元じゃないと思う」


しかも何でそんな嬉しそうに言うんだよ。

モアはいたずらが成功したかのような笑顔だった。

イラっとした俺はモアのおでこにデコピンを打ち込んでから、獣臭炒めを二人で励まし合いながら豆のスープで流し込むようにして処理したのだった。





「モアさんと仲が良いんだね?」


部屋に戻ったシルヴィオと俺、二人とも風呂を済ませた消灯時間までの時間にシルヴィオが訊いて来た。


「寮に来るまでに案内をしてもらったんだ、たまにイラっとするけど良い奴だよな」


「イラっとするけどって…………でもそうだったんだ?僕の友だちたちもルシードの事が気になってたみたいで、色々と質問されたよ」


あーそういやシルヴィオには言っておかないとな。


「なあシルブィオ?食堂で一緒に居た女子たち、あの子たちはシルヴィオが女の子だって知ってるのか?」


俺の質問の意味が良く分からなかったのか、シルヴィオは目をぱちくりさせた後、


「知ってるはずないじゃないか、この学校で僕の秘密を知ってるのは先生方とルシードだけだよ?」


「じゃあさ、男友達は何人いる?」

「ひ、一人………かな?」

「……………僕以外でだぞ?」


俺だってもうシルヴィオの事は普通に友だちだと思ってる、けど今はそれじゃ意味がないから除外した。


「それだとゼロだね」


やっぱりか………友だちにカウントしてくれて嬉しいが、俺以外にいないのか。

この部屋に来て早々の俺に対する態度を見ても、男に対して苦手意識が在るのかもしれない。


「そうか正直に教えてくれてありがとうな……?っとそろそろ消灯時間だな」


そう言って俺が部屋の照明を消そうとすると、


「待ってルシード!?真っ暗にしないで…………」


弱弱しくシルヴィオが呟き、俺は何も言わず照明を仄かに点ける状態に留めた。

…………良いけどな?俺は別に灯りがあったって寝れるから。

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