閑話・裏話 オーズによる転校手続き?

【オーズ視点】


吾輩はルシードに頼まれブルカノン家へと行った帰り、とある場所へと向かっていたのである。

それはルシードに転校を薦めた我が母校、軍学校である。

ここの校長とは知り合いなのである。


重厚な扉を開け、校長室に入る。

吾輩が入室すると、今まで窓の外を見ていた女性――――――この学校の校長、ニーア・ベルベッティが振り返り笑顔を見せる。


「久しぶりね~オーズ君、相変わらずの筋肉ね~」

「其方こそ、相変わらずの妖艶さであるな」


これは吾輩らの決まった挨拶のようなもの、それぞれ不敵に微笑むと来客用のソファを薦められる。

そこにゆっくりと腰を下ろし、早速本題に入ったのである。


「依然手紙でも伝えた通りである、此処に一人どうしても入学させたい者が居るのである」


ニーアの専属だろう侍従が紅茶を用意し、彼女はそれを一口飲んでから笑みを浮かべた。


「それにはもう既に返事をしたはずよ~?これ以上ウチに問題を起こす様な生徒は要らないわ~」


おそらくはルシードの事を徹底的に調べ上げたのであろう、その上でニーアは断っている。だがしかし吾輩もはいそうですかと納得出来ぬである。


「確かにルシード・エンルムがこの先問題を起こさぬという保証はしかねるのである、しかしあの者の才能をこのまま腐らせるのは実に惜しいのである」


ニーアはどうやら驚いている様である。

まあそうであろうな、吾輩が此処まで言うのだ。

多少の興味は湧いて来ているはずである。


「オーズ君がそこまで言う程の存在なのかしら~?」

「うむ。既に無詠唱での魔法の行使をしているのである」


ニーアがティーカップを取り損ねた音が響いた。


「無詠唱?本当に?」


先ほどまでの間延びした雰囲気は無く、常に細められている目が驚きに見開かれている。調子付かせないために直接本人には言っていないが、ルシードはそれほどまでに驚異的な事をしているのである。


「吾輩がこのような冗談を言わぬである、ルシード・エンルムとの組手は既に全力で係らねば負けるのである」


本当に据え恐ろしい存在である。

ニーアは吾輩の話に興味をそそられている様であった。


「………………本当にそんな逸材であったなら是非我が校に欲しい所だけれど……」


尻すぼみに言葉を消し、ニーアは何事かを思案している様であった。

ここが勝負所であろうか?

そう思った吾輩は、


「ニーアよ、一度ルシードに会ってみてはもらえぬだろうか?その後でどうしてもニーアの手に負えぬと判断すれば容赦なく断ってくれて構わぬのである」


ルシード・エンルムがもう只の問題児では無い事は会えば解るのである。

吾輩も未だにルシードが悪童であったのが信じられぬくらいである。

時折その片鱗とも思えるものを覗かせるが、余程の事が無い限りは自制出来て、反省も出来るのである。

ルシードは確かに無知ではある、けれど決して愚者ではないのである。

それをニーアに知ってもらえれば、必ずやルシードは転校を許されるだろう。

そんな強い意志を込めて吾輩はニーアを見た、腕を組み考え込む姿は本気で悩んでいるように見える。

あと一押しか…………甚だ不本意ではあるが、切り札を切るのである。


「其方も知っているかもしれぬが、ルシードは女児と見紛うくらい整った見た目をしているのである」


吾輩はルシードの容姿を説明したのである。

吾輩の記憶が確かならばニーアは美少年好みだった、今のルシードならばニーアの好みに合致する筈である。


「それはもう是非とも逢わなければなりませんね!!」


…………やはり即答であったか、美少年好きなのは変わってはおらぬようである。

本来ならこのような切り札を使った事がルシードに知れれば即座に罰点を与えられてしまうでろうが、ルシードの未来が閉ざされることを思えば安いものである。


嬉々としてスケジュールを確認し、ルシードに思いを馳せているニーアは恋する乙女の様である。

ルシードに対する罪悪感が膨らんでいくのである。


「愛娘と同い年の少年にときめき?とやらを感じるのはどうなのであろうか……………?」

「あら~、娘を産んでからというものそうした背徳感が堪らなく良いって気付いたのよ~気付かせてくれたマリーには感謝だわ~。もしルシードきゅんが私好みの美少年だったら娘のマリーと婚約させるのもアリね~?ハッ!こうしちゃ居られないわ~今からルシードきゅんに似合う半ズボンを用意しなくちゃ~」


すまぬルシード…………既に良からぬ情熱に点火されてしまったようである。

こうなってしまったニーアはもう止まらぬであろう、面会の日の無事を祈るばかりである。


「半ズボンは必要ないであろう?まだ幼い少年に己の性癖を押し付ける事は吾輩が看過できぬのである」


うぬぅ………やはり切り札を使うべきでは無かったであろうか?

世に放ってはいけない変態を呼び覚ましてしまったようである。


「…………ルシードきゅんが我が校に来てくれたら、記念に男子制服を半ズボンにしようかしら………………?」

「公私混同甚だしいのである!!」


そんな記念要らぬであろう、もしそれがこの学校の生徒に知られれば確実にルシードは虐められるのである。

そして誰であるか!?ニーアを初等部の学校の校長に任じたのは!?

ルシードを入学させたらどこぞの淑女学院へと転勤させた方が良いのではなかろうか?


「私が校長に就任した時に提案したら即刻却下されちゃったけど~、今ならやれそうな気がするわ~」

「絶対に止めておくのである!!」


もう既に提案した後であったか、それでよくまだ校長を続けて居られるものであるな。

まぁニーアの場合、性癖それさえなければ他は非常に優秀であるからその琴線に触れなければ良いだけと認識されているのであろうな。


「それではニーアよ。エンルム家の日程調整の後、面会を頼んだのである」


「えぇ。任せておいて~、ルシードきゅんの為なら頑張れるわ~」


う、うむ。不安しかないであるが、まあ上手くいったようなのでよしとしておくのである。

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