第16話 転校先の校長先生が変態な件

俺はオーズさんに連れられてオーズさんの母校である軍学校へとやって来ていた。

前の学校とは何が違うのかというと、前のは貴族としての知識・教養に重きを置いた教育方針で剣も魔法も習うけれど、ある程度までしか教わらない。

しかしこの軍学校は剣と魔法を重点的に学ぶことが出来て、貴族であれば自動的に騎士になる事が出来るらしい。

平民にも門戸を開いているが、騎士になれるのはその極々一部でほとんどが一般兵や冒険者と呼ばれる傭兵になる。

その理由は騎士となるにはお金がかかるというのが一番の理由らしい。

世知辛い異世界だよな。


軍学校はエンルム家と通っていた貴族学院のあるイクシアという町の隣、シバキアにある。

その町は軍学校を中心にして円形に広がっていて、広大な敷地面積を誇るらしい。

シバキアは軍学校の学生のためにある町なんだそうだ。

その町だけで大抵の用事は済ませられるように、卒業生たちが支援しているのだとオーズさんに教えてもらった訳だが、俺には”お前らだけ自由にするものかよ、俺等と同じ不自由な学校生活を送れ!”という怨念めいたものを感じた。



「ルシード坊ちゃま、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


サリアがそう言って校門前で一礼して見送ってくれる。

そのサリアの隣にはミレイユ・ブルカノンの執事だったエドガさんも同じようにして頭を下げていた。


エドガさんは本当にブルカノン家を辞めてきたらしい。

彼女を諫めるために辞意を表明したエドガさんだが、今までにも色々と鬱憤が溜まってたんだろう。

オーズさんと一緒にウチに戻って来た時には憑き物が落ちた様な綺麗さっぱりとした顔をしていた。

そして俺は無職になったエドガさんを執事として雇い入れる事にした。

本来ならサリアの代わりに専属ってやつにしたいと思ってたんだが、サリアがそれを頑なに聞き入れようとはしなかった。


「ルシード、サリアを傍に置いてあげて?」


最終的にサリアはミューレさんにまで願い出たらしく、ミューレさんから直々にそう言われてしまうともう俺からは何も言えねーわ。





オーズさんと並んで校内を歩く、煉瓦造りの壁、大理石の様な床、等間隔で光が差し込む窓、廊下の真ん中には絨毯が敷かれていてそこを土足で歩いているのが不思議な気分だった。

今日は休日って事もあって生徒の姿は見えなかったが、真面目に通うには良い学校の様に思えた。

少なくとも俺が生前通ってた高校よりも綺麗だもんな。


”校長室”と書かれたプレートのある重厚な扉、そこでオーズさんが足を止めた。


「此処である、準備は良いであるか?」

「はい。頑張ります」


今から面接と聞いてる、やべーわメッチャ緊張する。

高校入試の面接以来だ。

俺はその頃に叩きこまれた面接の練習を思い出し、扉を控えめにノックした。


「はい」

「ルシード・エンルムです」

「お入りなさい」


良く通る女の人の声が聞こえて来たので、俺は扉を開けた。

その中にある執務机には一人の女性が座り、こちらを射抜くように見ていた。

もう既に面接は始まってるってか?上等!!

オーズさんと共に中に入ると、


「そこに座りなさい」


そう言って執務机の真正面に置かれてある簡素な椅子への着席を促されたので、そこに座る。


「ルシード・エンルム君ね?」

「はい」

「合格」

「は?」


合格?もう良いのか?何で?さっきまでの重々しい空気は何だったんだ?


色々と訊きたいことが浮かんだが、隣に控えてくれていたオーズさんがやれやれって感じで頭を振っていた。

それにも気にせず校長先生は俺に近付いて来ると、


「あぁ~んもう、本当に私好みだわ~」


そう言って俺を抱き抱えた。

うおっ!?何なんだ!?ミューレさん程じゃねーけどデケェな!!

突然の校長先生の胸に顔を埋めた状態に、俺の理解はまずそっちに働いた。


「あ、あの………校長先生?」


次いで漸く混乱が口から出て来た。


「校長先生なんて呼ばないで~?ルシードきゅんには是非是非ニーアさんって呼んでほしいわ~。あ、お母さまでも良いわよ~?」


俺をぎゅっと抱きしめたまま、ぶるんぶるん振り回してなんか言ってるんだが?

俺が困惑した視線を送るとオーズさんが、


「ニーア、悪ふざけが過ぎるのである。ルシードが最早引いているのである」


ニーアさんから俺を引き剥がしてくれた。

うん、まあ感触は悪くなかったんだけどな?

そうするとニーアさんが厚めの唇をつんと尖らせて、


「オーズくん、ふざけてるだなんて心外だわ~。私はね?いつだって真剣にルシードきゅんに――――――……」

「さすがにそれ以上は教育上宜しくないのである!!」


俺はオーズさんに耳をふさがれて、その後も二人は何か言い合いしてる。

あ、今更なんだけどルシード”きゅん”って何だ?

美人だけど何かこの人からはスゲーやべー雰囲気をひしひしと感じる。




「……………コホン、とまぁ冗談はこのくらいにして――――――……」


散々オーズさんと言い合い(耳塞がれてたから何言ってたかはよくわからん)しておいて今更の冗談発言?やばいですね?

俺とオーズさんの視線を浴びて若干身悶えるニーアさん。

あーこりゃ真正の人だわ、無敵過ぎる。


「我が校はルシード・エンルムくんの転入を心から歓迎します。ニーア・ベルベッティの名に於いて、転入を承認いたします」


瞳が見え難いほっそりとした目をしてニーアさんは俺を歓迎してくれた。

対する俺はというと、俺を見つめてハァハァ言い出したニーアさんを見て転入先を間違えたかもしれないと早くも後悔し始めていた。


「ルシード、ニーアはこんなのであるが指導者としての力量は申し分ない。直接師事を仰ぐことはないであろうが、この学校での時間は決して貴様の無駄にはならないと確約するのである」


まあオーズさんがそう言うんなら、きっとそうなんだろうが………………。

ハァハァ言いながら何故か引き出しから半ズボンを取り出してきてるニーアさんに身の危険を感じた俺は、いつでも逃げ出せるように腰を少し浮かせる。


「そうよ~ルシードきゅん、怖がらなくて良いのよ~?まずは先っちょだけ、ね?先っちょだけだからこっちへいらっしゃ~い」


何がだ!?何の先っちょだ!?俺もうこの人やだ!!普通にこえーよ!!

俺は椅子から立ち上がると、隣のオーズさんの後ろに隠れた。

こういう時頼りになるのが筋肉ガードだ。


「ニーア、ルシードが未だかつてない程に怯えているのである。これ以上続けるようなら吾輩は貴様を憲兵に突き出すのである」


オーズさんが本気だってことを察したのか、ニーアさんは持っていた半ズボンを綺麗に折りたたんで引き出しへしまう。

「絶対似合うのにな~」とか聞こえて来たが無視だ無視!!

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