第15話 大団円には程遠い?
「謀りましたわね!?」
うおっ!?まだ理解できてねーとかどんだけなんだ、ミレイユ・ブルカノン?
執事のオッサンも絶望した顔してないで、止めてやれよ?
まぁブルカノン家も上級貴族だから、これまでずっと”謝られる側”、”頭を下げられて当然の側”だったわけだから謝罪になれてないのは仕方ねーけど、さすがにこれは無いわ。
怒りを通り越して呆れてたのに、また怒りがぶり返してきたのは初めてだ。
「不愉快ですわ!!何をしていますの、早く帰りますわよ!?ルシード・エンルム!!わたくしにこんな事をしてタダで済むとは思わない事ですわ!!」
は?ホント何コイツ?謝りたいって言ってきて謝らずに、俺が謝る気が無いんだと理解して帰そうとしたら逆ギレしだしたんだが?
不愉快なのはこっちの方だ!今すぐテメーのその頭からぶら下がってるドリルにストレートパーマ当ててサラッサラヘアにしてキャラ崩壊させてやろうか!?
………………何か最近のラノベのタイトルに在りそうだなーとかくだらない事を考えた。
俺も案外まだ余裕があるのか?なんて――――――。
そんな余計な事を考えて、目の前でキレ散らかすミレイユ・ブルカノンから目を背けていると、執事のオッサンが絶望の表情から何やら覚悟を決めた漢の表情になっていた。
「御嬢様……………私めは、此度の事でホトホト御嬢様には愛想が尽きました。本日、今この時を以て、御嬢様の執事を辞めさせていただきます」
そう言うと、執事のオッサンは深々と頭を下げた。
まあ……………ここまで果てしないと今まで苦労も絶えなかっただろうな。
他人事とは思わず、サリアに見限られないように気を付けようと思った。
「エドガっ!?いきなり何を言い出しますの!?」
「これまで長くブルカノン家にお仕えしておりましたが、私めでは御嬢様を御諫めする事が出来そうにありません。ルシード・エンルム様にはお見苦しいものをお見せしてしまっただけでなく、多大なるご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、何卒、私めの首一つでブルカノン家をお許し願えませんでしょうか!?」
オッサン…………漢だな。
ミレイユ・ブルカノンなんかの為じゃなく、ブルカノン家そのものの許しを請う為に命を差し出すのか。
すらっとした体形は姿勢が良く、白髪が混じってる髪はオールバックにして後ろで縛り、決意を固めた表情は凛々しく、先ほどまでの狼狽ぶりが嘘のようだ。
歳を重ねて大きく太くなった大樹のような堂々としたそんな姿は、俺に侍を連想させた。
「エドガさんでしたか?」
「ハッ!」
俺が声を掛けると、エドガは頑なに頭を下げたまま返事をした。
けれどそんなエドガさんの想いを、ミレイユ・ブルカノンは理解できないらしく、俺が声をかけようとしたのを遮って声を張り上げた。
「頭を上げなさいエドガっ!!ブルカノン家の執事であるお前が頭を下げるなど、みっともないマネは今すぐ辞めて頂戴!!」
みっともないだと!?
誰のせいでこの人が頭下げる羽目になってると思ってんだ?
恩義を感じてるブルカノン家の為に命がけで頭を下げて詫びるエドガさんを、その家の人間であるお前が否定するのかよ?
これじゃエドガさんも命の張り甲斐がねーだろうが!!
俺の頭は怒りで沸騰しそうになった。
でもこのまま怒りに任せてミレイユ・ブルカノンをぶん殴れば、また俺は同じことを繰り返した事になる。
怒りは押し殺して、頭はクールに、言葉足らずの俺が何処までミレイユ・ブルカノンに口で勝てるか――――――いや、勝ち負けじゃねーな。
ミレイユ・ブルカノンに、これ以上エドガさんを侮辱させないように指摘するんだ。
「ミレイユ・ブルカノン、お前本当にこの人が何で頭を下げてるのかわからないのか?」
「はあっ!?そんなみっともない行為の意味なんて判る訳がありませんわ!?」
「そうか」
俺はそう言うと、未だに頭を下げ続けているエドガさんに近付いて行く、エドガさんはミレイユからの言葉に悔しさを堪えて拳を握り締めて耐えていた。
よく見ると、身体も微かに震えていた。
「エドガさん。貴方の忠義とブルカノン家の謝意、確かに受け取りました。そしてそこに貴方の命は不要です。僕は未だに彼女を許すつもりはありません、そこだけは御理解下さい。そしてブルカノン家の当主御夫妻にも、そうお伝えください」
「ルシード・エンルム様…………申し訳ありません、そしてありがとうございます!!」
俺が許すと伝えると、エドガさんは顔を上げ、涙を流して地面に膝をつき感謝し始めた。
それを受け取って、軽く微笑み、今度はミレイユ・ブルカノンに向き合う。
俺は今こいつに向けてどんな顔をしているか分からないが、ミレイユ・ブルカノンは何かに気圧された様に一歩後ろに下がった。
「ふんっ!最初から素直にそう言えば良いのですわッ!!謝罪は受け取ってもらえたようですし、帰りますわよ!?」
俺が何か言う前にミレイユ・ブルカノンは慌ててその場から離れようとする。
エドガさんとサリアが俺を見て「放っておいて良いのか?」と視線が問うていた。
「オーズさん、居ますよね?」
「うむ」
俺がそう問いかけると、何処からともなくオーズさんが現れた。
さっきまで影も形も無かったのに、どうなってんだ?
この筋肉は忍者もこなせるのか?
「説明は不要ですよね?エドガさんと一緒にブルカノン家に同行して、正しく事情が伝えられているか確認して来てもらえませんか?そしてくれぐれもエドガさんに責任が及ばないようにしてください」
何せあの女王気取り、平気で嘘を吐きそうなんだよな…………。
それはオーズさんも察してくれたみたいで、ニッと白い歯を見せて笑うと、
「任せるのである。ついでにルシードが如何に寛大だったかを吹聴してくるのである」
「余計な事は――――――……………ってもう居ない」
エドガさんも連れて行ったのかオーズさんの気配は忽然と消えていて、俺は小さく溜息を吐いた。
「ルシード坊ちゃま」
「うん?どうしたのサリア?」
「この度はお疲れ様でした。とてもご立派な対応だったかと……………」
「そうかな?そう出来てたのなら良かった」
上手く立ち回るなんて真似、俺には出来そうになかったからサリアにそう言われて少しだけ自信持っても良いのかもな。
ミレイユ・ブルカノンにはまだ腹が立ってるし、結局アイツには謝ってもらってねーから大団円には程遠いのかもしれねーけど。
「はい。花丸、で御座いました」
安堵した俺にサリアはとても優しく、微笑みかけてくれたのだった。
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