第5話 【悲報】そもそも国が脳筋だった

「どうしたであるルシード、食え!!食うのである!!食べる事は生きる事!!生きるためには強く在らねばならぬ!!つまり食べる事は強くなることである!!」


それ…………何処の相撲取りの言葉…………?


俺は気が遠くなりそうになりながらも必死でフォークを口に運んでいた。

空腹は空腹だ、けど今は身体が食べ物を受け付けない。

何故俺がこんな状態になっているのかと言うと………。



オーズさんに誘われたランニング、あれが地獄の始まりだった。

オーズさんは俺を脇に抱えて、全力ダッシュ!!気が付けば森の中に居た。

そこで俺を地面に降ろし、


「さぁ、ここから走って帰るのである!!」


笑顔で言い放ちやがった。

つーか息切れしてねぇし汗もかいてねぇとかバケモンかよ。

俺はとにかく全力で、イヤ、全力以上で走り続けた。

良く分からん生き物(後でオーズさんから聞いた話、魔物だったらしい)が何度も襲い掛かって来て、死にかけないとオーズさんは助けてくれない。

果敢に挑んでみるも返り討ちに遭い、


「ルシードにまだ魔物の相手は早いのである、今は悔しかろうが逃げの一手である」


魔物の巣にお持ち帰りされそうになるところを助けられてからそう言われ、俺は逃げ続けた。

もっと早く言えよコンチクショウ!!

涙?とっくに出てるわ!血?とっくに出てたわ!


そうしてどれくらい時間が経ったか分からないけど、何とか家の前に辿り着いた俺はもう何もかもボロボロだった。

そうして時計を確認したオーズさんが、


「ふむ…………朝食には遅すぎるのである。もはやこれは夕食…………まぁ初日だから仕方ないのである」


そんな不穏な呟きの後から現在に至っている。


今にも魂っぽい何かが口から出て行けそうな雰囲気なんだが、それをオーズさんに無理矢理食べ物を詰め込まれて止められる。

吐きそうになってはそれを我慢してを繰り返し、漸く食事が終わる。

これはもう食事なんかじゃねーよ…………腹に消化できるものを詰め込む儀式か何かだ……………。


泣きながら口に食べ物を詰め込まれる俺を、サリアは相変わらず冷めた目で見ていた。

余計泣きたくなった。





「訓練を始めるのである!!」


エンルム家の広い庭に、オーズさんの野太い声が響き渡った。


「始めるのである!!」

「………………おぉー」


「元気が無いのである!!そんなことでは花丸はやれないのである!!」


何でそこまで欲しいと思われてるんだ?花丸。


「今日の予定を大幅に削って、今日はもう剣術と魔法の訓練だけにしておいたのである。だから頑張るのである!!」


一応、オーズさんなりに配慮してくれたらしい。

それでもまだ剣術とまほ…………――――――ん?魔法!?

ルシードの記憶から魔法の存在は知ってたけど、もう使っても大丈夫なものだとは思っていなかった俺は、姿勢を正して節々の痛む身体を気合で抑え込む。


「うむ。やる気になったようでなによりである」


そう言ってオーズさんはどこから取り出したのか、木で出来た剣の形をした棒を手渡して、


「さあ強くなるために、存分に打ち込んで来ると良いのである!!」


オーズさんは木剣を構えた。

………………剣術って型とかねーの?がむしゃらに打ち込んで稽古になるのか?


まあ良い、さっき森に拉致された恨みを晴らしてやるぜ…………―――――!!




「おうぇぇぇぇぇぇぇぇ………………」


五分もしないうちに俺は庭に倒れ伏して、さっきまで詰め込まれたものを吐き出していた。

食って即行訓練なんて激しい運動すりゃあこうなるわな。

口いっぱいに広がる酸っぱみの不快感に耐えながら、そんな事を考えた。


「剣筋は吾輩が思っていたよりも悪くないのである。明日以降はより実戦に近い形での稽古を続けて行くのである」


前世での喧嘩の経験が生かされたのか、自分でも結構動けたように思う。

けれどまだそこはガキの身体、俺の反応に身体が追いつかない部分も多かった。


「では次に魔法の訓練に「オーズさん」」


地面に這いつくばりながら俺は小さく挙手をした。

オーズさんは無言で俺に先を促してくれたので、


「魔法とは僕みたいな未熟者が扱っても良いものなのでしょうか?」


俺の中のイメージでは、魔法って手から火とか氷とかを出せるんだろ?

さすがにガキに覚えさせるには危なくねーか?


「ふむ。そのような質問が飛んで来たのは初めてであるが…………寧ろ逆なのであるよ、この国では魔法の早期習得を推進しているのである。

幼い頃から魔法に触れる事でその危険性を学び、同時に制御法も学ぶのである。それに幼い頃より訓練を積んだ方が、大人になってから必死で訓練するよりも魔力の伸びも良いと実証されているのである。よってこの国では魔法によって精神と道徳を、様々な武術によって身体を鍛え、心身ともに健やかなる者たちにしようと励んでいるのである」


…………国を挙げての脳筋ってことじゃねーか。

そんな超筋肉論掲げててこの国大丈夫なのか?

世紀末ヒャッハーが湧いても知らねーぞ?

まぁ実証されてるって言うし、国も許可してるみたいだから別に良いのか?


「まずは魔力を感じるところから始めるのである。目を閉じて己の内に眠る魔力をゆっくりと動かすのである、ここで焦って動かそうとすると暴走して大変危険であるから焦る必要は無いのである」


俺はオーズさんに言われた通り、目を閉じて魔力とやらを探してみる。

………意外と簡単に見つかった、言葉では言い表しにくいけど身体の奥底で動かずにじっとしてる不自然な流れみたいなものを感じ、それをゆっくりと豆腐にでも触れる様な感覚で動かそうとイメージしてみる。


「うむ。上出来である、一日でここまで出来るとは思わなかったのである」


「花丸ですか?」


「文句なしである。これは本来学院の一年生ではまだ習わぬ内容であるからな」


上級生で習う内容って事か?そんなの本当に俺なんかに教えちゃっていいのかよ?

俺の疑問が顔に現れていたらしく、


「問題無いのである。魔法を使う上での心構えなどをこれからみっちりと叩きこむのであるからな!!」


そう言ってオーズさんは豪快に笑い飛ばずのだった。

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