第6話 俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!!

その後も魔法の訓練は続き、魔力を動かす事、止める事を繰り返して馴染ませ、完全な制御下に置く。

そうすることで突発的な魔力の暴走を回避する目的があるらしい。


「では次に、その魔力に属性を付与してみるのである。属性とは火、水、地、風の四大元素とされるものと、独立した二対元素と呼ばれる光、闇があるのである」


まんまRPGみたいなのな。

まぁイメージし易くて助かるっちゃー助かるけど。

まずは……………そうだな、最初に使う魔法としてはやっぱこれだろ?


俺は魔力を燃やすイメージを付与する。


最初の魔法はやっぱ火だろ?ファイヤーボールとかな?


俺はそのまま魔力を手に集めるイメージで移動させる。


ゆっくりと目を開けると、俺の右手は燃え上がった様に炎に包まれていた。

不思議と熱くはない、それどころか妙にしっくりと来る。


俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!!勝利を掴めと――――――とか自分に酔ってゴッドなフィンガーでヒートさせてエンドさせたくなるが、今は集中を切らしていい時じゃない。


「…………驚いたのである。まさか一日目にして火属性の魔法を習得するに至るとは……………ルシードよ、そのままゆっくりと火を消すイメージを強くするのである。集中を切らせば己の魔法で大やけど確実であるからな」


オーズさんが慎重に声を掛けてきているのが解る。

それくらい細心の注意を払ってでもしっかりと教えてくれるオーズさん、下手にふざけるわけにはいかないな。

俺は気を引き締めると、右手の炎はゆっくりと消えて行った。


「扱いに慣れるとこんなことも出来るのである」


オーズさんが右手を勢いよく握り込むと同時に炎が燃え上がった。

俺がさっきまでチマチマやっていた制御なんかとは違う、一瞬の出来事だった。

燃え盛る右手を俺に見せつける様にして、オーズさんは不敵に笑った。


「日々の鍛錬の賜物なのである、身体が自分に適した魔力を勝手に覚えてくれるので非常に楽が出来るのである」


戦闘で使うとなればオーズさんのレベルに達しないと使い物にならないだろうな。

こっちが準備整うまで待っててくれるのは、ヒーローものの悪役だけだ。

喧嘩にしたってわざわざ待ってる奴なんていない、ぐずぐずしてたら沈められる。

けどその領域に達するのはまだまだ先だ、何せ少し魔力を使っただけで膝が笑って来やがった。


「うむ。今日はここまでにするのである、明日もまた今日と同じような時間に迎えに行くのである!!」


そう言って軽く手を挙げたオーズさんは、颯爽と走って帰って行った。



俺はがくがくと震える足を引き摺って、何とか自室に辿り着いた。

風呂に入るのも面倒に感じるくらい疲れ切っている、こんな状態でベッドに倒れ込んだらそれこそ寝落ち確定だ。

けど森の中から全力で走って来たので、服から若干森の香りがする。

このまま寝ると確実にサリア(もしくはババア)に殺されるので、俺はベッドからの誘惑を断ち切って風呂に入る為再び動き出す。


風呂場は少し離れた所にある、魔法で湯を沸かしていつでも入れるように出来るんだと。

仕組みなんかにも興味はあるが今は後回しだ。

俺は脱衣場に入るなりのそのそと服を脱いでいく、途中立ってるのも辛くて床に座り込みながらズボンも脱ぐ。

そしてパンツを脱いだところで、脱衣場の扉が開く。


「「え?」」


そこには驚いた顔のままサリアが固まっていた。

ついつい俺も固まってしまい、見つめ合うこと暫し……………。


「………………申し訳ありませんっ!!」


顔を真っ赤にしたサリアが慌てて扉を閉めた。


「あ~こっちこそごめん。使用中の札に変えるのを忘れてた、もうちょっと待っててくれるか?さっと汗を流しておきたいだけで直ぐに済むから」


まだ俺はこの身体が他人のように感じるせいでそれほど羞恥は感じない。

まあ別に良いか、減るもんでもねーし。

浴場へと歩き始めた俺の背中に、サリアの「畏まりました」という声が聞こえた。

嫌われてっけど、返事は律儀に返してくれるんだよな…………あれ?これってパワハラになんのか?

そんなことを考えていたのがいけなかったのか、ふらふらとした足取りは自分の足同士で引っ掛かり、派手にこけた。

うおぉぉぉぉ…………顔面から、モロ………………――――――。


床に全力でヘッドバットを食らわせた俺は、


「…………坊ちゃま?坊ちゃま!?」


朦朧とする意識の中、俺に駆け寄ってくるサリアの心配そうな声を最後に意識が途切れた。






俺は夢を見ていた。

何で夢か解るかって言うと、目の前には俺がなる前のルシードが居るからだ。

前世の映画館の様な場所で、観客は俺一人。

スクリーンに映し出されたルシードが、ぼろぼろと涙を流し、悔しさに歯噛みしていた。


たぶんこれはルシードが死ぬ直前の光景だろう。

怪しい紫色の液体の入ったガラス瓶を持って、何事かをぶつぶつと呟き不気味に笑っている。

端的に言ってキモい。

このキモさは相当なもんだ。

なまじ見た目が女の子みてーに整ってるだけに、その不気味さは際立ってる。

俺はこういうホラー系苦手なんだよ、だって怖いだろ?フツーに。

だから、ん?まだ俺この姿になって鏡見てねーけど、こんな見た目だったのかとか別の事を考えて気を紛らわそうとしていた。

紫がかった白い髪と群青色の瞳、色白でマジで女子みてーだ。

こんな見た目なのに性格最悪とか、びっくり箱みてーな奴だな。


「死んでやる…………死んで後悔しろ…………!!」


ルシードよぅ?お前がこの後死んでも誰も何も思わないどころか、アルフォンスには死んでればよかったのにとか言われたぞ?だから止めとけ?お前自身さえ幸せになれねぇぞ?


後の展開が解っているけど、俺はそう思ってしまった。

今は俺がルシードやってるけど、元はこいつの人生だからな。

こいつがきちんと性根を据えて頑張りゃあ、この後の人生幾らでも好転しそうなもんなのに………………。


「僕が死ねば母上が悲しむ、そうすれば母上が皆に復讐してくれる!!僕も幽霊になって母上と一緒に復讐するんだ!!」


そう叫んでルシードは瓶に入っていた紫色の液体を一気飲みした。

瓶がルシードの手から滑り落ちて床に破片が散らばる。

苦しそうに喉を抑え、身悶えし、痙攣した後、ルシード・エンルムは死んだ。


………………ヤベーな、やっぱこいつもう手遅れだったわ。

死んで幽霊になるとか電波飛ばしてたのは俺も知ってたが、ミューレさんにまで復讐させようとしてたのかよ?カスだな。うん、間違いねーわ。

さっきやめとけとか言って損した、オメーはそのまま死んでろ。

その方が世の為の様な気がする。

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