第3話 独りで出来るもん!!

「自分の事は自分でって…………」


ミューレさんが困惑したように俺の言葉を繰り返した。

マーサさんもサリアも、俺の言葉が意外だったのか、それとも頭を下げた事に驚いているのかそれとも呆れ果てているのか、何も言わない。

着替えとか風呂とか流石に恥ずいんだよ!!俺は風呂はゆっくりと入りたい派だし…………という本音を隠す為、俺はダメ押しとばかりにそれらしい言葉を続ける。


「サリアはとても細やかな仕事ができる人です、それだけでも僕なんかには勿体無いくらいなのに僕の傍に居る事でサリアが穿った目で見られるのは嫌なんです」


けどこれは口から出任せなんかじゃない、サリアが仕事ができるのは本当の事だし、俺には勿体無いというのも勿論本音だ。

自業自得のクソガキが悪く言われんのは当然だけど、傍に居るサリアまでもが俺のせいで悪く言われるのは納得できるわけねーだろ?


「ルシードはこう言っているけれど、サリア?貴女の意見を利かせて頂戴?」


ミューレさんに発現を促されて、サリアが漸く口を開く。


「ルシード坊ちゃまの御心遣いには感謝いたしますが、ルシード坊ちゃまを監視も就けずに御一人で野に放つ等、恐ろし過ぎて私には出来ません」


「サリア……………そこまでルシードの身を案じてくれているのね…………」


絶対にミューレさんの解釈は違うと思うぞ?

俺を一人にすれば何しでかすか分かったもんじゃない、どうせその後始末で奔走する羽目になるんだからそれなら最初から事情を近くで見ていた方が良い。

そう言ってるような気がするんだが?


「私も遺憾ながらサリアの意見に賛成です。ルシード坊ちゃまはもんだ――――――うっんん!!やんちゃ盛りです御座いますれば、供も連れずにと言うのは問題があるかと……………」


ババア今テメー問題児って言おうとしただろ!?

合ってるけどな!合ってるけどミューレさんの前で口滑らすんじゃねーよ!!

こっちの寿命が縮むわ!!


俺は下げていた頭を上げて、ミューレさんを見る。

俺の主張を尊重したい、けど二人の言う事も納得出来る………そんな風に考えているのがわかった。

仕方がないので俺は切り札を使う事にした。


「母上…………ダメ……………ですか?」


期間限定の必殺技、泣き落とし!!

自分の意思で泣けるとか、どこかの養成所の子役か何かか?

その情けなさに俺の心に大ダメージ!!

しかしミューレさんにも効果は抜群だった。

まさに諸刃の剣だったが手ごたえはあった、ミューレさんは身悶えする様に胸を抑えて息を荒くしていた。


そして、


「まずは一週間、ルシードの言葉通りお試しで一人でやらせてみましょう?それで何か問題が起きれば即座にサリアに戻ってもらうわ。何も問題が無ければルシードの意見通りサリアを専属から外しましょう。マーサもそれでいいかしら?」


「奥様、一週間では短過ぎます。せめて一か月の間、何も問題を起こさなければサリアを担当から外しましょう。ルシード坊ちゃまの言う通り、サリアが居てくれると仕事が助かるのは事実ですから」


こうして俺は条件付きのお試し期間だが、一人の時間と空間を手に入れたのだった。




「坊ちゃま」


ミューレさんの離れから出た中庭で、サリアが俺を呼び止めた。


「私を遠ざけて、今度は何を為さるおつもりですか?」


…………相変わらず信用無えな?もうあきらめついたけど。


「特に何をしようとかは考えていないよ?さっきも言ったけどサリアは僕なんかの傍に置いておくには勿体無いんだよ」

「何ですか?急に褒め始めて、喜んだ私を地獄に叩き落すつもりですか?」


んなことしねえよ。

サリアの中で俺の評価がそんなもんなんだって認識できた。


「そんな事しないよ、僕は只本当の事を言ってるだけなんだから。そうだな………サリア?あの時に僕は死んだんだ。今此処に居る僕は生まれ変わった僕だと思って欲しい」

「……………」


沈黙するサリアの視線が痛いのなんの。

まぁどの口が言うのか?とか思われてるんだろうな。

俺だってそう思う、けどこれからのルシード・エンルムを見てほしいと思ってしまうのも本音だった。


サリアはそれ以上何も言わず、俺を部屋に送り届けた後、扉を閉める前に深々と一礼してから扉を閉めた。




さてと、先ずは部屋の探索から初めてみるか。

サリアが居ては堂々とこんなことも出来ない、居ない間に調べ尽してしまおう。

じゃあまずはベッドの下だな、此処だけは外せない。

俺は床に這いつくばってベッドの下を覗き込む、すると俺の手が届くか届かないかの辺りに何かが見えた。

このエロガキ、何を隠してやがるんだ…………?

興味本意でそれを引っ張り出すと、それは紙の束だった。


汚い字でびっしりと綴られたそれは、ルシード・エンルムがミレイユ・ブルカノンに宛てた恋文の下書きだった。

何枚も何枚も、言い回しや字が綺麗になるように練習したその束は、週刊少年誌よりも厚みがあってこいつなりの一生懸命さが見えた。

けどその結果は知っての通り、


”直接告白する度胸も無い者に、興味はありません”だった――――――。


俺はこの件についてだけはルシード・エンルムに同情してる。

直接告白してほしかったんなら、それをコイツにだけ伝えてやってお断りすれば良かったはずなのに、まさか校内掲示板に張り出して晒し者にするとか、幾ら何でもやって良い事と悪い事があるだろ?とは思う。

そんな奴に惚れた時点で結末は見えていたのかもしれねえし、フッた相手にどうしてそこまで気を遣わないといけないのかわからないという意見だってあるかもしれないが、少なくとも俺はミレイユ・ブルカノンの執った対応には納得出来ねぇ。


幾ら嫌いな奴だったとしても、ルシード・エンルムは本気だったし誠意もあった。

けどミレイユ・ブルカノンはそれを踏みにじった。

誠意に悪意で返す馬鹿はもっと気に食わねえ。

復讐する気なんて更々無えけど、もしこれ以上ルシード・エンルムの誠意を踏みにじったらそん時は覚悟しとけよ?ミレイユ・ブルカノン?

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