第2話 言えとは言ったが、聴くとは言ってねえ!!
「兄上がそう仰られるのも無理はありません。お………僕はそれだけの事をしてしまったのですから」
普段と違う俺の反応に、アルフォンスは戸惑ってるみたいだったけど、大人しくしているつもりの俺の事を試すつもりなのか、くだらない事を言い始めた。
「ミレイユも可哀そうにな、お前なんぞに好かれてさぞかし迷惑だっただろう。あぁでもお前はミレイユにフラれたんだったな?」
だったなも何も、同じ初等部に通ってるんだからアルフォンスだってどういう結末だったか知ってるんだろう?それをわざわざ言ってやるなよ。
こいつは確かにクソガキでエロガキでクズ野郎一歩手前の奴だったけど、ミレイユ・ブルカノンに対する想いは
それだけは俺もわかるんだよ、だからそれを馬鹿にしてやらないでくれよ。
ヘタレみたいな告白でもコイツなりに勇気振り絞った結果なんだよ。
それを嗤わないでやってくれよ。
あぁヤベェ………また涙が出る…………くそっ!豆腐メンタル過ぎるだろ。
こういうところだけ制御できねえって、ガキの身体ってホントに不思議だな。
突然涙を流し始めた俺に、ぎょっとした様子のアルフォンスだったが、俺はそれらを気にせず言葉を吐き出した。
「はい………フラ………れて……しまい………まし………た。けど…………それ、は…………当然、です。僕は……………もう二度と、誰の事も……………好きには……………なりません」
ガキが何言ってんだと思うかもしれないが、コイツから引き継いだ記憶と心で言わせてもらえばこれが一番ルシード・エンルムの正直な気持ちなんだよな。
遺志を尊重なんてガラじゃねえけど、コイツの素直な気持ちはアルフォンスやサリアに知っていてもらいたいと思った。
……………要は俺の単なる我儘だ。悪いか?
折角サリアに拭いてもらったのに、また泣いちまったじゃねーか。
俺はまだしゃくりあげるのにも構わず、言葉を続けた。
「もう気は済みましたでしょうか?母が待っておりますので通していただきたいのですが?」
まだぼろぼろと零れ落ちる涙、それを拭いもせずに真っ直ぐ見据えた俺に気圧されたのか、アルフォンスはそれ以上何も言わずに道を開けた。
俺はまた邪魔されないうちに扉を開け、中庭へと出る間際、
「ありがとうございます」
そう言ってから逃げるようにして出て行った。
自業自得だから殴れねえ、結局聴くだけ聴いて逃げるしかねえのが情けねえけど、まぁ何の因果かコイツになっちまったんだからしゃーねーか。
「坊ちゃま、お待ちください」
サリアに呼び止められた俺は振り返る、するともう既にしゃがみ込んでいたサリアにハンカチで目元を拭われた。
例えラッキースケベだったとしても、サリアに指一本触れてはいけないと思った俺は直立不動のままサリアにされるがままになっていた。
「……………少し赤くなってしまいましたね。ハンカチを水で濡らして冷やしてきますのでこのまま暫しお待ちください」
「そこまでしなくても良い………です」
俺はとうとう照れくさくなって、サリアから離れる。
やや強引に話を打ち切って、離れへと向かった。
母の居る離れは広々としていた。
丸い形の石造りの建物、天井は高いが窓が大きくて十分に明るい。
そこにぽつんとベッドが置かれ、そこにルシードの母、ミューレさんは身を起こして、クッションを背に本を読んでいた。
ミューレさんは俺に気付くとぱあっと笑顔になって、本を傍らに置き、俺を手招きした。
「ルシード、私の愛しい子………本当に心配したのよ」
手招きされるままに近付くと、がばっと勢いよく抱きしめられた。
うおぉ……………恥ずい!止めてくれ!アンタみたいにキラッキラした美人、俺の母親じゃねえよ。
俺の母親は寝転んだ大仏みてーに、韓流ドラマを見てテレビの前から動かねえでケツ掻いてるオバハンだよ。
間違ってもアンタみてーにド級の美人じゃねえわ。
「ルシード?どうしたの?」
俺の反応が薄い事に気付いたミューレさんが少し身を離し、心配そうに顔を覗き込む。
「…………少し目が赤いかしら………?ルシード、正直に言いなさい?誰に、何をどれだけされたの?母がその十倍、仕返ししてあげます」
背筋が凍った気がした。
今もスゲー優し気に微笑んでるミューレさんだが、その眼は本気でやる気が漲っていた。
間違いなくアンタはルシードの母親だわ、狂気の感じがよく似てる。
アンタホントに病人だよ。
「何でもありません!大丈夫です!母上の手を煩わせるような事は何もありませんから!今は病気を治すことだけ考えててください!」
「……………そう?それなら良いのだけれど」
ミューレさんは渋々、納得してくれた。
「それよりもルシード、母は貴方を叱らねばなりません」
「あ、はい………」
ホッと一息つく間もなく、ミューレさんは怒ってるんだぞという顔をした。
拳骨一発かビンタの一発二発くらいを覚悟していると、
「母を残して先に旅立とうとするだなんて本当に…………――――――」
来る!!
そう感じた俺は瞬時に身構える。
そこに、
「メッ!」
俺の鼻先をちょんと指で触れたミューレさんは、また最初のニコニコ笑顔になっていた。
え?何?もう終わり?
まだイマイチ状況がつかめなくて動揺していると、ミューレさんは頬に手を当てて、
「あぁルシード、母を許して?怒り過ぎてしまったわね?嫌いにならないでね?そうだわ!何か欲しいものはある?御詫びに何でも買ってあげるわ」
オロオロして俺の反応を窺っている。
あ、甘ぇぇぇぇぇ…………………。
何だよこの甘さ、ダダ甘じゃねーか!!
そりゃあんなクソガキ出来るわ!!
生前似たような事やったら、母親に半殺しにされてるわ!!
「奥様!斯様な事で取り乱されては困ります!ルシード坊ちゃまにはもう少し厳しく言い聞かせて戴かねばエンルム家の恥となりましょう!!」
ミューレさんの傍らに控えて今まで沈黙していたババア――――――サリアの祖母であり侍従長のマーサがくわっと目を見開きミューレさんに詰め寄った。
「で、でもほら見てマーサ、ルシードったらショックで何を言えなくなってしまっているのよ?私にはこれ以上ルシードを叱る事なんて出来ないわ」
「何を手緩い事を仰っておいでなのです!!わたくしの可愛い孫娘であるサリアにいたずらに手を伸ばした事、わたくしめはまだ許しておりませんよ!!」
「それはきっと私のせいだと何度も言ってるじゃない!私があまりルシードを甘やかしてあげられないから、人恋しくなってしまっただけなのよ!!」
甘やかしてあげられない?これ以上ないくらいに甘やかされてっぞ?
頭痛くなってきた……………けど言わないといけないことがある。
「母上!」
俺はミューレさんの袖を引く事で言い合いする二人の注意を引く、そうして二人の視線が此方に向いたところで、俺は話始めた。
「母上、今回の事…………いいえ。これまでの事全て、僕が愚かでどうしようもなかったのが悪いのです。先ほどサリアには謝りましたが、当然許してもらえてはいません。マーサの怒りも尤もだと思います、まだ嫁入りもしていないサリアの身体に触れたのですから。ですのでこれから僕は自分の事は自分でしようと思います、どうかサリアを僕の傍仕えから外してあげて下さい!お願いします!」
そうして俺は深々と、勢いよく頭を下げた。
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