転生先のクソガキ編
第1話 ルシード・エンルムの文句は俺に言え!!
美人メイドことサリアはまだ俺に対して、何か疑うような目を向けてくる。
俺の中身がもう別人だってバレてないよな…………?
かと言って今までこのクソガキがしてたような事をするつもりは無ぇけどさ。
俺はガン飛ばさないように気を付けながら、サリアの視線を真っ向から受け俺からも視線をそらさない。
暫くそうして見つめ合って、サリアが根負けしたように目を逸らして溜息を吐いた。
すまねえな………サリア、クソガキが散々迷惑かけてたからな………。
サリアはこのクソガキの母親であるミューレに仕えてる侍女長マーサの孫娘で、母親は第一夫人であるヘレンさんに仕えてる。サリアは仕えてくれていた人たちを我儘放題で次々と辞めさせたこのクソガキの世話を命令されて仕方なくしてくれていた。
「坊ちゃま。御加減に問題が無いようでしたらこのままミューレ奥様の所に顔を見せて差し上げて下さい。此度の事、大変心配しておりました」
此度の事って言うと、あれか?クソガキが自殺した事か?
そりゃ心配にもなるか、自分の子どもが自殺しようとしたんだから。
傍目には解らんだろうが自殺は成功して、今は完全に俺がルシードだけどな。
「そう………ですか、わか……り……ました」
「坊ちゃま?まだ何処か御加減が思わしくないのでは?話し方が…………」
生前の俺と同い年くらいのサリアだが、しっかりしてる分年上のようにも感じてしまう。
そのせいで言葉遣いをどうにかしようと俺なりに頑張ってみたんだが、却って変に思われたみたいだ。
「何でもない!」
そう言って俺はベッドから飛び降りて部屋を出て行こうとする。
情けないが逃げるが勝ちだ、このまま此処に居たら絶対にボロが出ちまう。
「坊ちゃま!?お待ちください!寝間着のまま出歩かれては困ります!」
おっといっけね!?
部屋の外に出るにもわざわざきっちりとした服を着ないといけないんだった。
めんどくせえけどしゃーないか。
俺は踵を返してクローゼットから適当に服を引っ張り出す、
「坊ちゃま!?御召物は私が用意致します!じっとして居て下さい!!」
悲鳴にも似た声を上げてサリアは眉を吊り上げた。
イカン……………クソガキ同様サリアに滅茶苦茶迷惑かけてんじゃねーかよ。
猛省した俺はサリアに言われた通り、大人しくそのままじっとしている事にした。
着替えだってルシード・エンルムの記憶通りならサリアに手伝ってもらっていたんだからな…………………。
いつか自分で着替えると言ってやろう。
こんな事でサリアの手を煩わせるのも申し訳ないしな。
大人しくしている俺にサリアが服を腕にかけて近付いて来る。
俺から一歩手前で停止し、何故かジト目で睨まれる。
俺、また何かしたか?
「坊ちゃま。今日は何だか聞き分けが良いですが、またこの間のように私の胸を触ろうとしたらどうなるか解っていますね?」
…………そうだった、このクソガキ、エロガキでもあったんだった。
着替えを手伝ってくれている最中のサリアの胸を偶然を装って何度も触り、それがマーサに知られて大目玉を食らったんだった。
まだ六歳のくせに、そんなもん芽生えてんじゃねーよ!!
鼻水垂らして、アホみてーに外走り回ってろ!!
こいつの記憶に強烈に残ってる…………サリアの胸の感触も思い出してしまいそれらを振り払う様に頭を振った。
俺は堪らなく申し訳なくなって、その場に土下座して謝った。
「サリア、あの時はごめんなさい。そしてもう二度としません、信じられないかもしれないけど」
「…………そのような事をされても困ります。早く立ってください」
まあ当然だよな、こいつの普段の行いが悪すぎて簡単には許してもらえなさそうだ。
俺は立ち上がると視界が揺らいでいるのに気付いた。
泣いてる?俺が?何で?そんな困惑は余計に涙を加速させ、ぼろぼろと零れ落ちる。
くっそ!!こういうところはガキの精神なのかよ!!
普段からのテメーの行いのせいじゃねーか!!
泣くなよ!!自分が悪いのに泣いてたらダセエしキモすぎんだろ!!
サリアは俺が泣いている事には一切触れず、着替えさせてくれた。
クソガキの事が嫌いで、どうしようもなく怒っているだろうに、それでもきっちりと仕事をしてくれるサリアはカッコイイしスゲーな。
「ありがとう……………」
漸く涙が治まってきていたので、俺はサリアに御礼を言った。
ちゃんとしてくれる奴にはこっちもちゃんと礼を返さねえと、マジでダセぇ奴になっちまうからな。
俺がこのクソガキになっちまった以上はこういうところからきっちりとしていかねーと…………。
そんな事を考えていると、サリアは最後にしゃがんで俺の目元をハンカチで拭ってくれた。
「そんな目でミューレ奥様の所へ行かれては余計な御心配をさせてしまうでしょうからね」
冷たく言い放ったサリアに俺はもう一度御礼を言った。
サリアを引き連れ廊下に出ると、すれ違う使用人たちが皆驚いて俺を見て、顔を引きつらせる。
そしてそれを見られまいと深々と御辞儀して、俺が通り過ぎるまでそうしているんだが、全部見えてっからな?まぁクソガキの行いのせいだから、俺からは何も言えない。
クソガキの記憶によればコイツの母親は病気を患っていて、今は離れで暮らしている。そこへ行くには中庭を通らなければ行けないんだが、中庭に出る為の扉の前に今の俺と同い年の男児‥……――――――腹違いの兄であるエンルム家長男、アルフォンス・エンルムが俺を睨みつけていた。
俺はそいつを無視して扉を開けようとすると、
「お前なんて死んでいれば良かったんだ!!」
アルフォンスは俺を押し退け、扉を塞ぐと突然感情を爆発させた。
何だよ急に…………後耳元で叫ぶなよ、まだちょっとキーンっていってるぞ。
仕方なく俺はアルフォンスの相手をする事にした、クソガキの自業自得とは言え今は俺がルシード・エンルムだ。
ルシード・エンルムの文句は俺に言え。
いやまぁ俺がそんなこと言うまでもなく、向こうは勝手に垂れ流してきてくれるんだが。
俺はルシードに対して躾けられた【お貴族様言葉】をフル活用して、
「まだこうして生きています。そしてこれからは心を入れ替えて、兄上にもご迷惑をかけないよう生きて行きます。そこを通してください」
「お前の言う事なんか信用できるか!!」
元気なやつだな、まさに有り余ってるって感じがする。
信用できねえのはわかるけどな?
サリアも諫める気は無いようだし、完全にアウェーかよ。
まぁわかりきってた事だけどな、使用人たちも遠目に見ているだけでどっちの味方かなんて言うまでもないだろう。
俺が完全に悪役と言うか、こいつらの中では未だに悪なんだからしゃーねーか。
殴り掛かってきたら返り討ちにしてやるつもりで、俺はアルフォンスと対峙した。
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