異世界転生!?上等!! ~真面目にテッペン取ってやらぁ!!~
暑がりのナマケモノ
プロローグ
バイクの排気音の大合唱が闇夜に鳴り響く。
その集団で先頭を走るのは
二メートルに届こうかっつー身長と無類の喧嘩の強さから、総長にまで昇りつめた男だ。
俺?俺は
不良マンガの熱い男の友情に憧れて入ったものの
ただいつの間にか喧嘩の強さで言やぁ
今日は他県の連中が俺等の所にカチコミにくるっつーのを聞いて、迎え撃ってやろうと全員に集合をかけた。
こうして全員集まってバイクを走らせんのも、気持ちが良くて本来の目的を忘れちまいそうになる。
場所は放置された建設現場、昔の仮〇ライダーが怪人と戦っていたような石と砂利が満載の場所って言えばわかるか?
解らんなら戦隊ヒーローでも良いや、まぁとにかくそんな場所だ。
向こうは先に着いていて律儀にも待ってやがったらしい、俺等は煽るように連中の周りをゆっくりと走った後、少し離れた位置に停車した。
全員が既に臨戦態勢だ、俺もその一人。
血が滾る。
大吾が向こうの頭と何か話をし、向こうの頭が、
「さすが田舎だな。令和んなっても昭和のニオイがするぜ、だせぇバイクに未だに特攻服着てる奴らが居るとは思わなかった!田舎者は族も元気が良いなぁ!?」
よっしゃ泣かそう!!え?大吾の獲物?知らねえな。
「テメェらんとこも大概田舎のくせして何見下してやがんだ?羨ましいのか?それともビビってんのか?あぁ!?」
へへっ、口の悪さでは大吾も負けてねえな。
そこから乱闘になってあっさりと決着はついた。
闘いは数だって言った奴は正しい、これから奴らには俺らに喧嘩売った事後悔させてやらねぇと……………。
そんな事を考えていると、向こうの頭がゆっくりと立ち上がりポケットから何かを取り出した。
暗い中に一瞬光る物が見えた俺は大吾を突き飛ばす。
直後、脇腹に激痛が走る。
異変に気付いた大吾が、向こうの頭を殴り飛ばす。
へっ、ざまぁみろ…………けど、この辺りの喧嘩の
不殺、それがこの辺りの絶対の掟であり得物の持ち込みは厳禁なはずなのに、変に都会派気取ってるからこういう事するんかな。
散々向こうの頭をボコった大吾が此方に駆け寄ってくる。
ったく、何て顔してやがる………気にすんなよ。
あぁ、チクショウ………目が霞んで来やがった…………。
こんなところで死んじまうのかよ…………ごめんな、俺……すげー親不孝者だな。
あぁこんな事ならちったぁ真面目に生きとくんだった……………。
もし次があれば真面目に…………学校生活とか…………。
目を開けると真っ白な天井だった。
「何処だ此処………………?」
俺が困惑して独り言を呟くと、すぐ隣から、
「坊ちゃま………………?」
何故かとても驚いた、という表情をしたメイドさん(メイドみたいな恰好をしてるスゲー美人)が俺の方を見て来ていた。
誰だよこの美人メイドさん?最近の病院は美人メイドさん完備なのか?
あいつら馬鹿だから病院と間違えてそういう毛色の店に放り込んだんじゃねぇだろうな……………?
まさか、そんな………とは思うが、アイツらならやりかねない。
そういう期待にはもれなく応えてくれる奴らだからだ。
血が足りてねー今の俺にそんなところ元気にさせんじゃねーよ!!
そんなどうでも不安を抱えながら、俺は美人メイドさんに話しかけてみる事にした。
「あの、すんません。のど乾いたんでとりあえず水貰えないっすか?」
さっきから喉に違和感があるのは本当だ。
そのせいか声がかなり変わってしまっている。
美人メイドさんは暫くぼーっとしてたけど、俺の言ったことが漸く理解できたのか、すぐにベッドの傍にあった水差しからコップに水を注いで差し出してくれた。
「ありがとうございます」
見ず知らずの人に親切に(接待?接客?)してもらったので、御礼を言っただけだなんだが、信じられないものを見る様な目で見られた。
それは俺が水を飲んでる間も続いて、うっかり鼻から水を噴き出してしまいそうになった。
ふぅ……一杯の水が染み渡るぜぇ………。
けどまだ喉の違和感は消えない、それと一緒に美人メイドさんからの珍獣を見る様な目も変わらない。
都会の病院なのか?だから族が珍しいのか?
すると突然頭に指す様な痛みが襲って来た。
同時に俺は今の状況というか、今の俺自身の状況を理解した。
俺は今話題の異世界転生?っつーのを体験しているらしい。
そして今の俺はルシード・エンルムという貴族とかいう家柄の男児と同化していた。
このルシード・エンルムは一言で言えば俺等の世界で言うところのクソガキだ。
立場の弱い人間に威張り散らし、我儘放題。
次男であるという事で家を継げない事が分かりきっているから、腹違いの兄である長男を殺そうとしたりもしてる。
そのせいで家からも傍で仕えてくれてる人間からも嫌われているクソみたいな存在だった。
俺も大概だったし他人の事言えねーかもだけど、腹違いとはいえ実の兄を殺そうとかまでは考えねえぞ?
けどそんなクソガキも恋をした。
相手は綺麗なつやっつやの赤い髪を縦ロールにした高慢そうな女児、ミレイユ・ブルカノン。
名前が超強そうな彼女に直で告白する勇気の無かったルシード・エンルムは、手紙にその想いを認めて花束と一緒に彼女に送った。
その翌日、その手紙は彼らの通う学院初等部の連絡用黒板に張り出されていた。
その手紙の隣には大きな文字で、
”直接告白する度胸も無い者に、興味はありません”の文字。
ルシード・エンルムは彼女にフラれた。
しかも初等部の全員が知るというおまけつきだ。
おいルシード・エンルムよ、お前こんなことする女の何処に惚れたんだよ?
普通にお断りするよりもかなり心を抉って殺しに来てるじゃねえか。
あれか?ルシード・エンルムはドMなのか?
同化しても、彼女に惚れた記憶までは思い出せない。
今まで悪目立ちしていたルシード・エンルムは一転して初等部の笑い者にされた。
そしてそのショックからルシード・エンルムは自ら命を………――――――。
…………大馬鹿野郎が。
フラれたのは痛えし、苦しいし、今の俺にならばその辛さは正確にわかる。
身体がコイツのだからか知らねーがその光景思い出しただけで胸が痛みやがる。
けどコイツは散々人を馬鹿にして、笑い者にしてきた。
それが今度は自分がその立場に堕ちただけで、自殺なんてしやがって………。
そしてその時の感情が蘇り反吐が出そうになる。
コイツは自分の行いを悔いてなんていなかった、それどころか幽霊になって復讐を………とか下らねえこと考えてやがった。
結局、どうにか一命を取り留めたという状態で、俺にバトンタッチしたらしい。
ルシード・エンルムの意識はもう俺の中には居ない、この世界での知識的なものを授けてくれた事には感謝しておこう。
けどなルシード・エンルム?お前みたいなクソガキの思い通りに動いてなんてやるかバーカ。
俺は俺で好きなように生きさせてもらうぜ?折角もらった命なんだからな。
「坊ちゃま?大丈夫ですか?」
とりあえずはこの美人メイドさんの心配を払拭しないとな。
俺はベッドから飛び起き、
「大丈夫、大丈夫。もうどこも痛くないっすから」
嘘だ。
嘘を吐いて彼女を騙すことに微かな良心が痛ぇ…………。
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