#17「願いのあと」

(前回のあらすじ)

愛結を守るべく"結婚式"に潜入した辰実は、防犯対策係と鷹宮、埜村、知詠子の協力を得て愛結の確保に成功する。


"花嫁は頂いた"


そう宣言した辰実は、日登美に託された"願い"を叶え愛結を守るべく槙村をモスクに誘導、道中で遭遇した私兵を駆け付けた饗庭と共に制圧し、槙村と接触。更に、槙村が"舘島事件"を教唆した事を自白させ発砲する事、させる事なく逮捕する事に成功したのであった。



 *


「すいませーん。もも10本、ぼんじり10本、塩で!…あとナンコツも10本!生中も追加で!」


何も刺さらない串が積もる積もる。塵も積もれば山となるが、串は積もれば何になるのか?と思いながらも、辰実は焼き鳥を口にしてタレの味をコークハイで流し込む。


"色んな事のお礼"という名目で辰実の"おごり"で知詠子は焼き鳥を食べている。一緒に来てくれた駒田に負けず劣らずの食べっぷり飲みっぷりは、梓も驚いていた。


流石に、女性2人と焼き鳥屋に行くのはどうか。と思った所に"黒さん今度焼き鳥行きましょうや"とか言う、いつかの駒田との口約束を思い出したため"2人ついてきますが、駒さん焼き鳥行きましょう"と誘ったら駒田も来てくれた。


"黒さんがおるなら大丈夫じゃと、嫁に言われてきたけえ"と、喜んで来てくれた駒田は辰実の中で"頼れる兄貴分"でしかない。



「しかし、よく食べるなー知詠ちゃんは。」

「焼き鳥とビールなんて家で中々頂けないから、今日は辰ちゃんの財布をすっからかんにするつもりよ?」

「あー怖い怖い。というか、旦那と晩酌しないの?」

「家では子供に気を遣ってしないわね」


ここで梓は、とある事に気づく。


「あの、…もしかして知詠子さん」

「私、結婚してるし子供も2人いるわよ?…もしかして、独身だと思ってた?」

「ごめんなさい、思ってました」


"まだまだお芋ちゃんね"と、腕を組んで得意そうに言った知詠子。またぐいっとビールをあおると、運ばれたナンコツの串に齧り付いた。


「年子で、娘と息子がいるんだけど可愛いわよー」


写真を梓に見せる知詠子。"知種(ちぐさ)"という3歳の娘は知詠子によく似ていて、"光毅(みつき)"という2歳の息子は父親似であった。


それから、話が二転三転し、知詠子の結婚式の話になる。知詠子の父親は東大寺南大門の金剛力士像を彷彿とさせる厳つい見た目の男で、新郎がずっとそれを見て青い顔をしていた話や、駒田は結婚式で"身長差夫婦"と笑われた話など。



「結婚式って言ったら、ボビーの結婚式が一番忘れられないわ。自分の結婚式より覚えてるもの。」

「ああ、あの結婚式は…」


ぼんじりを口にし、ねぎまを口にしコークハイ、そしてナンコツのコリコリ感を2本分楽しんだ所で、辰実はまたコークハイを喉に流し込む。


「噂はわしも聞いた事ありますわ」

「え、気になります。」


「ボビーの奥さんのジュディは知ってるよな?…あの人、元々はアメリカで警察官をしてたんだよ。」

「それで、結婚式もアメリカからゴリゴリの警察官がわんさか来たわよ。片方が警察官の結婚式でも気を遣うってのに、もう片方も警察官だからね。…まあ、アメリカ人はアメリカ人でバカ騒ぎしてたけど」


テレビで見た事のある、アメリカの警察官を想像して梓は青い顔をする。


「そんな事より辰ちゃん、いつ結婚式挙げるのよ?」

「さあ、いつにしようか。」


"とぼけた様子"の辰実に、知詠子は納得がいかなそうであった。


結婚式は挙げようとしていたが、その当時に"迷惑な動画配信者"による迷惑行為が相次ぎ、無視を決め込んでいた愛結の式に"乱入してやる"とまで予告されたために挙げなかったのが実の所だが、それも言ってはいない。



「槙村の逮捕からやっと2週間経つけど、未だにほとぼりが冷めそうも無いしな。…警察でこれなんだから、愛結はもっとだろう。」

「警察のほとぼりも、いつ冷めるやら。」


逮捕された槙村はと言うと、一旦留置所に置かれ取調を受けてはいたものの黙秘し続けていた状態であった。それが数日経って急に"血に染まった花嫁が笑いかけている"と譫言を呟くようになり、急遽精神病院に入院する事になったのだった。


警察官としては一刻も早く槙村の罪状を確認し捜査を進めたかったのだが、"辰実個人"にとってはそんな事はもうどうでも良かった。



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