かさねがさね

(前回までの話)

2018年11月末、クラスの同窓会で辰実と愛結は再開した。3年間、一緒のクラスでいながらも殆ど話した事の無い2人であったが、話をしていた辰実の印象は愛結が聞いていたものと全く違っていた。


更に話を進めていく中で、愛結はクラスメートで空手部にいた市嶋と交際している事を話す。市嶋は過去の敗北から辰実の事を嫌っていたが、辰実は彼を嫌うどころかその弱さを受け入れる。


そんな辰実が愛結に話したのは"市嶋が二股をかけている"という事だった。



 *


(…しかし、市嶋が二股をかけてるなんてな)


気分が乗らず、二次会には行かなかった。たまたま"市嶋と付き合っている"という話になった時に倉田さんには余計な事を言ってしまったのに、その事が少しだけ引っ掛かっている。


"市嶋が別の女性とも付き合っている"という可能性を知ってしまった時の彼女の、戸惑った表情。肩にかかるぐらいの長さをした栗色の髪が白色光を受けてツヤめいた部分、それが顔の角度で揺れる様子と、潤いを含んだ青い瞳が悲しそうなトーンでこちらを覗き込んでくる様子に、頭を踏みつけられるような感覚がした。


居場所を奪われるように人が集まっていた彼女と、特に目立つ事も無く生活してきた俺は違う世界に生きているようだった。よくよく考えれば、まともに会話をしたのは初めてだ。


そんな交わる事の無さそうな相手であっても、変な事を言って気を遣わせたのは申し訳なく感じてしまう。市嶋の事を話すべきだったかそうで無かったか、もう少し考えるべきだっただろう。



(市嶋の二股は悪いとはいえ、それが分かった時にもっと配慮を持って倉田さんに接する事は出来たハズだ。…全く、配慮の無い自分が嫌になる)



自分の知る事実を言ったとはいえ、彼女を傷つけてしまった事に変わりは無い。


あんな事になってしまっていた"日登美さん"が、"大丈夫だから、ごめんなさい"と最後に見せた笑顔があんな風に悲しそうだったのを今でもぼんやりと覚えている。


冷静になればどうでもいいような事が喉の小骨みたいに引っ掛かって気になったのは、彼女と日登美さんが被って見えたからだろう。



(…今更、どうしようも無いか)


この近くに川を挟んだ水際公園の遊歩道があるハズだ、近くの自販機でコーラでも買って川でも眺めながら一杯やろう。


1本、いや2本欲しい、それぐらいコーラは美味しい。誰かとこの気持ちを分かち合うのもいいかもしれないが、この美味しさは一人で落ち着いて楽しむものだ。


まさしく、今やろうとしている気分転換は1人でコーラを飲むためにあるだろう。そして缶のコーラを2本買ってコートのポケットに入れた所で遊歩道の水際に行く。



たまたま向かった水際の遊歩道に、彼女はいた。


ほんの少しの風になびいた癖のある髪が、複雑な曲線の絡み合いで瞳の表面を絶対に見せてくれない。だからその時、あの子がどんな様子で何を見ていた、そして何を思っていたか分からなかった。


…風が止んで、振り向いた時に観た彼女が、"日登美さん"と重なった。


貴女がもし、精いっぱいの笑顔で自分の気持ちをごまかさずにいてくれたら、彼女のように堰き止められなくなった気持ちを、何もかもを吐き出して俺を圧し潰してくれていたなら、また違う線の先を歩んでいただろう。


だから彼女がその時に見せてくれた表情や言葉、その全部を忘れる事は無い。



 *


黒沢君の言っていた事は、本当だった。


川を挟んで水際の向こうで手を繋いで歩いているのは、さっき話していた"ミナちゃん"と私の彼であるハズの男。


"浮気だ"


証拠があるなんかじゃなくて、それよりも正確な"勘"。水音すら聞こえないのに、なみなみと流れを称えた川を挟んで私に気づかない、2人だけの世界。



ああ、私は弄ばれていたのね。


彼は私の事なんかどうでも良かったのだろう、あんな表情を私に見せた事なんて無い。本当はあの子が好きで、私に彼は何を思っていたのか…?



「良くない所に来てしまったか…」


今ここに現れた彼の話を、もっと受け止められていればこんな気持ちにはならなかっただろう。そもそも受け止める事ができたのか?私が見てしまう前に知ったとして、こんな気持ちになるのは絶対に防ぐ事は出来なかった。


「私、遊ばれてたよ?」


やって来た彼は、何も言わないで辛そうな表情で私を見ている。…事実は事実なんだから、私に謝る事なんて無いのに。


「…こういう時って、何て言ったらいいか分からないや。」


精いっぱい笑顔を見せた。辛い気持ちでいっぱいなのに、笑っている私が信じられない。自分で自分の感情が覗けないんだと、麻痺しているんだと自覚させられる。


気付いたら私はスマホを取り出して、市嶋君にメッセージを送ろうとしていた。黒沢君はそんな私の様子をチラッと見て、川の境目に立てられた策に肘をついてコートのポケットから缶のコーラを取り出して飲み始めた。



「市嶋が君の事をどう思ってるか、そんな事を聞いても無駄だと思うぞ?」



まるで掌の上にいるかのように、黒沢君は私が打とうとしたメッセージの内容が示す意味を言い当てた。"2次会行った?行ってなかったら合流しない?"と打とうとしてまだ送信していないメッセージは、確かに浮気を目の前でしている彼の真意を聞き出そうとしている心そのもの。


私の眉の動きや口の動きが、"怒り"とか"悲しい"という感情を混ぜて表現しているのが分かった。背中を向けているのに私を一目見てくれた黒沢君は、おそらくこの時も私が何を考えているのか分かっているのだろう。



…彼は、私を見てくれた。その事実だけで嬉しかった。それが分かった時に、メッセージはまた別の文字に変わっている。


「市嶋に何てメッセージを打ったか、当ててみせようか?」


彼は、私の気持ちをこんなにも覗き込んで、すくい上げて満たしてくれるのか。"当てて欲しい"、"もっと私の心を覗き込んで欲しい"という気持ちで溢れていた。



「さようなら」



瞬間、私は泣き出した。既読になったメッセージは、確かにそう書かれていたのだ。空になった缶を捨てに少し離れた彼が私の視界からいなくなっても、悲しさと悔しさで涙を流し続ける私は、その向こうでぼんやりした2人分の人影を見つめて泣いている。…もう、怒っても泣いてもいいんだと。


私をそんな風にした男の事など、もうどうでも良くなっていた。


気持ちを埋めて欲しくもない、でも視界から離れてしまった彼が傍にいて欲しいと、ちぐはぐな感情を無理やりに流そうとするように泣き続けていた。


直後、何か力強いものに包まれる感覚。


私の体を抱きしめる黒沢君の、温かい感触と力強い感触。それが器を満たしてもなお注ぎ続けるようで、私は腕の中でずっと泣いていた。



「見ないで、恥ずかしいから」


泣き腫らして目が真っ赤になっているだろう、今日の事を考えて用意したアイシャドウも全部落ちてしまっている。表面的な隠し事も、内面的な隠し事も、全部むき出しにされた、それがどんなモノだったとしても、"彼だけには"それを受け止めて欲しいと泣き続けた私には残されていた。



「…ううん、全部見て欲しい」



 *


トップモデルとして県内で誰もが知る人となった"恩田ひかり"。私がグラビアアイドルとしてデビューして間もない頃、たまたま私が彼女にインタビューをし、記事を書いた事をきっかけにプライベートで会うようになった。


…それが、グラビアアイドル"蔵田まゆ"ができて半年ぐらい経って事である。


"恩田ひかり"、私は彼女が教えてくれた本名で"日登美さん"と呼ぶようになっていた。磨かれたガーネットのような色をした虹彩から、覗かせるアステリズムが彼女の絶対の美しさを表現している。それが気品だったり、大人の魅力だったのはその時に私も良く分かった。


私の青い目も、栗色の髪も"綺麗"と言ってくれた、その時に"ママがくれたものだから"じゃなくて生まれ持った自分のものを自分で好きになる事ができた。…それから2人で会ったり、色んな事を話すようになった。


よく覚えているのは、日登美さんの"恋人"の事。3歳下の男の人で、不器用だけど優しくて、たまに見せる格好いい所が好きだと話してくれた。ちょっとした変化にも気づいてくれて、彼の為なら何だってしたくなる。…私も、そんな人に出会いたい。



泣き腫らした私を、抱きしめてくれた彼がそんな人だったら嬉しいな。



2人が大の字になっても、余裕があるぐらい広いベッド。背中を預ければそのまま眠ってしまいそうな平面に、横並びになって2人は座る。


お気に入りのチェーンバッグと、コートを脱いで置いたソファーに、すぐ近くには鏡付きの洗面台と風呂場への入り口。橙色を帯びた照明がどこか温かかった。


さっきまで何も知らなかった彼と一緒にいられるのが、こんなに嬉しくて愛おしい事だっただなんて、同窓会をしていた時には絶対に思いなんてしない。



彼の唇が私の唇に触れた瞬間に、私の時間は止まる。


時間が止まったのを2人で確認するように見つめ合うと、泣き腫らした目を見られるのが何だか恥ずかしくて嬉しい。この数時間で、彼は私の心を奪ってくれた。"苦しい事も受け入れているから私は支えたい"という押し付けの幸せじゃなくて、奥底にあった承認欲求。



結局私は、本当に私の心を覗いてくれる人を求めていたのだ。



綻んだ彼の表情が、刹那の瞬間に"誰かを私と重ねるような"気がした。…誰の代わりでもいい、その気持ちが私の深層に触れようとしてくれたのだから。


二度、三度時間を止め合うと、2人の舌の温度を合わせる。舌で愛を結び合いながら、私の体を逃がそうとしない彼の、強さに隠れた繊細な一面を見た気がする。



「幻滅しちゃうかもしれないけど、ごめんなさい…」


恥ずかしいけど全部見て欲しいと、そんなちぐはぐの気持ちをごまかす私に、"そんな事は無いさ"と彼は言ってくれる。服に手が触れた瞬間に、私の心臓の音が大きくなった気がした。


羞恥心と高揚が、もみくちゃになって押し寄せる。


下着だけになった私を、彼はゆっくりとベッドに寝かせると、恥ずかしくて目を逸らす私に上の服を全部脱いだ彼は"綺麗だよ"と彼は耳打ちした。鍛え上げられた筋肉質の体が、はっきりと"男と女"の境界線を教えてくれる。


黒と青のレースでできた上下セットも、彼のために用意した訳じゃない。



「早く脱がせて?」



お気に入りの下着なのに、今この場に必要なかった。何も隠すモノがない"私の全部"を見て欲しい、その気持ちが一杯で思わず彼を惑わすように我儘を言った。


彼が上下を剝ぎ取った瞬間に、満たされたような気持になる。2人ともが隠すモノの無い姿で互いを確認したその時に、まるで運命が決まったように手の指が絡まる。


「シャワー、浴びていい?」


そう言うと、猫を撫でるように私の体の曲線に掌を這わせていた彼は頷いてくれた。



 *


私がシャワーを浴び終わったのを見て、彼はシャワーを浴びに行った。打たれる温かい雨の音と、ドライヤーが風を巻き上げる轟音が虚しく響き合っている空間、鏡の前で塗れた髪を乾かす。


長い髪を乾かし終えた時に鏡で見た私の顔は、さっきまで泣き腫らしていたのが嘘だったみたいに元に戻っていた。化粧も全部なくなって、今は素顔の私。



あられもない姿の私を、彼が後ろからやんわりと抱きしめる。


引き締まった腕が乳房を抱え上げた瞬間に、力強い手が私の頬に触れる。鏡から目を逸らすように、唇が合わされば私の中に火が灯ったような感情が現れた。


首筋が吸い付かれる感触に、思わず漏らしてしまった声。膨らんだ胸で手遊びをし、自らの痕跡を刻み付けるように首筋を吸い、背中に舌を這わせ、私の乳房を隈なくまさぐり、むき出しの腹を撫でる。悶える吐息を押し殺す私を、蹂躙しようとするような彼の愛撫は、それでも何かを思い起こそうとしているようで優しかった。…やがて皮膚の上から子宮を触られる温かい感覚がした時には、彼はその指で私の中を探ろうとし始めた。


その全てを鏡で見せられる事が、更に羞恥を掻き立てる。喘ぐ私を、鏡越しに私が見ている、"見せつけられる"という感覚が冷静を荒く削っていく。"乱れる"と言うべき状況にありながらも、こんなにも私の心ごとを丸裸にし、素顔を無理やりに見せつけさせてくれる彼の事を"愛している"という感情だけはハッキリしていた。


幾度か、微弱な電流が走ったような感覚と地に足が着いていない感覚がした所で、本能ごと彼に委ねたように私は彼に跪き、余計な言葉を言ってしまいそうな口と、恥じらいを今にも隠してしまいそうな手で"愛情"を精いっぱい伝えた。


…暫く、それを受け入れてくれていた彼は私をベッドに寝かせると、"そのまま"を返してくれる。優しさと再びやってくる周知と快楽を無理やり飲み込むように、私は手で手を握りつぶすぐらい強くシーツを掴んだ。


やがて、彼は私との境界線を体温で融かしてくれた。それは時に向かい合って、背中から、私を見上げるようにと様々な角度や位置から融かしては離れてを繰り返す。中まで入って、衝動を突かれ続け、果ててもまた何事も無かったように繰り返す。


幾度か続いて、それがやっと終わりを告げても、私は彼にくっついて眠っていた。



目を覚ました時に、やっとそれに気づいた。

近くでうっすらと見えた時間は、朝の5時半を回る少し前。



「ん……」


満足したかのように仰向けで寝ていた彼に、私はしがみつくように抱き着いて眠っていた。腕を枕にして寝る感触は未だ冷める事なく温もりをくれている。


うっすらと目を開けた彼に、私は笑顔で"おはよう"とだけ答えた。



「もう少しだけ、このままでいさせて?」


我儘を言うと、彼は返事をする代わりに目を瞑った。次に目を覚ましたのは30分後、浅い眠りだろうと何にも代えられない時間。


"早く帰ろう"と誰もが言う事も無く、2人はシャワーを浴びて、帰り支度をする。ホテルから出て視界に映った歓楽街は、まだ眠そうだった。


それでも何も言わず彼が去っていく事が不安で、私は彼のコートの両袖を掴む。



「…私にとっては大事な事だから、ちゃんと聞いて欲しいの」

「俺達は、もう付き合ってるんじゃないのか?」


また少し、恥ずかしくなった。何も言えないから私は"じゃあ駅まで手を繋いでよ"とそっけなく彼に言って無理矢理に手を繋ぐ。


車の音と風の音しか聞こえない、寂しい歓楽街を歩いているのに自然と寂しくなくなっていた。



 *


「…辰実に会ってから、私の仕事もプライベートも変わっていった。何だか"素直になれた"気がして、自分から変わっていく事でこんなに違うんだって思うぐらい。」


以前に"妹"を名乗る人物(愛結は1人っ子なので妹は実在しない)が現れた時に辰実からある程度話は聞いていた。梓の記憶が正しければ、彼女が人気を吹き返した時期と、辰実との交際が始まった時期は殆ど一致している。



「私だったらもっと混乱してしまいそうですよ」

「馬場さんが何で、私より恥ずかしそうな顔をしているのかしら?」


紅くなった頬を抑えている梓を見て、愛結は笑っている。


「もしかして、男の人とそういう事になった事無いの?」

「無い事は…、無いですよ。」


ふふふ、と意地らしく笑う愛結を見て、梓は"黒沢さん"の悪ふざけを思い出す。彼女もよく似て、どこか優しい感じが拭えずにいる。



「馬場さんは、全部知ってるの?」


"何をですか?"と梓は何食わぬ顔で答える。おおよその意図は計れていたが、辰実がその事を愛結に話しているかと言われれば分からないために装うしか無かった。



「辰実の"7年前に"何があったか」

「黒沢さんが、"てぃーまが"にいた時の事でしょうか?」


愛結は、ゆっくりと頷く。


「最近になってやっと話してくれたの。勿論その事であの人を責める事は出来ないわ、だって"大事にしまっておきたかった思い出"だもの。…それでも、やっと秘密を話してくれた。その時に"3歳下の男の人で、不器用だけど優しくて、たまに見せる格好いい所が好き、ちょっとした変化にも気づいてくれて、彼の為なら何だってしたくなる"って聞いてた人が彼だと分かったから嬉しかった。」


それが日登美の恋人だった事を"分かっていても"愛結は辰実を好きなままでいる。そもそも梓はそういう気持ちで事実を飲み込んではいなかったが"それが否定されるべき事だった"としても、辰実が一時でも傷口を拡げられる事無く、苦しみから離れて生きるには必要のあった事なのだ。



「……………………」


梓は、少しの間黙り込んでいた。それを不思議そうに愛結は覗き込んでいる。



「愛結さんのマネージャーが、近々交代するという話はご存じですか?」

「初めて聞いたわ」

「でしたら、この事は絶対に他言しないで下さい。」


"分かったわ"と愛結は真剣な表情で梓に傾聴の姿勢を向けた。


「…次に交代するマネージャーは、槙村という方ですが」

「槙村祐司で、間違いないわね?」


驚いた梓。辰実といた時間で耐性がついたか、このような状況になってもまだ冷静でいられた。"間違いありません"とだけ答える。


「マネージャーを無理矢理交替し、"恩田ひかり"を強姦した」

「更に、複数名の協力者とともに彼女に強制的に性行為を行わせ、その内容を撮影した写真と共にネットに掲載」

「その行程は彼女の妊娠が発覚するまで行われた」


愛結の言っている事は、辰実や片桐、宮内から聞かされた"真実"と合致している。この3人が愛結とその線で繋がっているとはどうも考えにくい梓は、愛結が何故この事を知っているかというのを疑問に感じた。


「最後は、"てぃーまが"が自社モデルのスキャンダルとしてこの事を一部改変し雑誌に載せる。これで"恩田ひかり"は消されたのよね。」

「私も、そう聞いてます。」


「"わわわ"に、早瀬さんという人がいるのよ。その人からメールで送られて来たわ、"これらの可能性が高いので気を付けて下さい"と。私のマネージャーになるという話だけは聞いてなかったけど。」


早瀬という人物に、心当たりは無い。"わわわ"の社員であれば饗庭も知っているかどうかの線は薄いと梓は思ったが、それでも"報告"はしておくべきと判断した。



「…馬場さん、1つお願いしてもいい?」

「私に、できる事であれば」


「今、一番苦しいのは辰実だと思うの。私は私の事で何とかしなければいけないから、私が一緒にいてあげられない時は貴女が辰実を助けてあげて?」


"ほら、あの人って危なっかしい所があるから"


知詠子にも言われた"同じような事"を、示し合わせたかのように梓は受け止める。ここまでくると、饗庭が冗談のように言った"辰実を危なっかしいという人の共通点"が冗談離れしていくのだ。


"はい"と返事をした梓は、まるで"この一連の事件"の流れが脚本された劇のように動いており、辰実だけでなく自分も気づかない所でその"役割"を自然と全うすべく動いているのではないかと疑念に駆られた。


1つだけ分かった事、それは"役割を終えるまで舞台を降りる事は許されない"。

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