#6「密室談義」

(前回のあらすじ)

"蔵田まゆの妹"を名乗る人物が募金活動をしており、活動に対する申請がされていない事からその確認を市役所に押し付けられた防犯対策係であった。


辰実と梓が現地に赴き、当人を発見し注意する事で解決したが、辰実にとっては"もう1つの問題"が浮上する。それが本人から聞いた"饗庭が本部の捜査二課に逮捕されるかもしれない"という話であった。


そして、帰ってきた辰実は宮内から"防犯対策係全員、2階の奥にある会議室に集まってくれ"と指示を受ける。



 *


「2階の奥の会議室と言えば、この場所ね」


宮内から"先に行っといてくれ"と言われていた防犯対策係5人は、署の2階の奥の段ボールが多く積まれた場所に"第3会議室"という札が高い位置につけられた埃臭くて薄暗い場所に集まっていた。


「あんまり良くない方の話っすかねー」

「でしょうね。こんな埃臭い場所に来るよう言ってた訳だし」


冷静な様子の片桐と、反対に落ち着きならない重衛。


(…こんな所に長い事おったら、気が滅入りそうじゃ)


駒田は暫く辺りを見回していた。近くの警備課が"今日は忙しいな"なんて世間話と事務の臨時職員と話をしているのが聞こえた所で宮内が"待たせたな"とずんぐり歩いてきた。


「大事な話やけど、早う終わらそうか」


会議室の鍵を開け、ドアノブを傾け宮内が先に入る。その後から続くように片桐、駒田、辰実、梓、重衛の順に流れるように入室。最後に入った重衛の目には、少し機嫌の悪そうな様子で眉をしかめていた辰実と、これから起こる事に不安を隠せない梓の様子が映る。


宮内が手探りで証明のボタンを押すと、暗かった部屋が白色光で満たされる。消えかけた蛍光灯が1本、バチバチと音を鳴らす空間には3人掛け用の長机が長方形を描くように置かれ、それに収まるような形で乱雑に椅子が並べられていた。


思い思いの場所に、6人が座る。そして全員が座ったのを見届けた宮内が口を開こうとした時にまた"バチッ"と蛍光灯の音。



「…"てぃーまが"に、捜査二課の手が入る。」


防犯対策係5人の中には"え?"と突飛な状況に驚く者もいれば眉をしかめて宮内に状況を催促する者もいた。しかし辰実と梓は、"平静な"様子で宮内の目を見ている。


「何や、黒沢と馬場ちゃんは驚かんのか?」

"その話を、饗庭から聞いたんです"と辰実は答える。


「"てぃーまが"の饗庭やと?」

「ええ、昼頃に本人と鉢合わせした時に聞きました。饗庭は捜査二課が"てぃーまが"を捜査する事と、"それで自分が逮捕されるかもしれない"という話をしたんです。」


"饗庭は一体、何を考えとるんや?"


宮内が言った言葉は、ここにいる全員が考える事だろう。今まで"敵"として認識していた男が辰実に対し、"自分が逮捕される"等と言う心理が理解できない。


「課長、話とは"饗庭"の事ですか?」

「まあ、饗庭の事も含まれとる。」


事は饗庭の逮捕だけで済む話ではない、それだから"防犯対策係"が呼ばれたのだろう。宮内の反応を見た片桐の顔は、"これは本当に面倒な仕事になりそうね"と言っているように辰実と駒田には見えた。


6人の座っている位置は、まるでそれぞれの心情を滲ませている。


宮内の座っている位置からは、防犯対策係の5人全員が見える。片桐は防犯対策係の部下4人を見る事はできたが、宮内を見る時にはその4人を向けなかった。


駒田が右を向くと、辰実がハッキリと見える。その向こうには重衛と梓の表情がやや正面から見えていた。重衛と梓は同じ机に椅子1つ分を空けて座っており、上司4人の表情が見渡せる位置。


そして、"恩田ひかり"を取るか"警察の使命"を取るかの選択を迫られているように辰実からよく見えるのは片桐と宮内の顔だけだった。逆に他の5人からは辰実の座っている場所をよく確認する事ができる状況に、それぞれの位置があると言っていい。


…しかし、その5人からも辰実の表情だけは、バチバチと音を立て消えては点きを繰り返す蛍光灯のせいで見え隠れする程度である。



「ほな、話をしよか」


ひとまず防犯対策係5人の視線は、宮内に向いていた。

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