挑発
(前回までの話)
城本に対する取調により迷惑行為について反省させる事に成功した辰実と梓は、"爆弾"について城本が関与していない所まで供述させる事に成功した。
事件の鍵は、カメラマンの男が握っている…?
*
(…ダメだ、話しかけても一向に口を開かない)
辰実、梓の2人が城本の取調を行っていた傍ら、松島はこれまでにない程の苦戦を強いられていた。カメラマンの男、坂村は先程から座ってニヤニヤしたまま、こちらが何を言っても一向に喋らない。
大門もあれこれと揺さぶってはみたが、全く効果が無いのだ。
この状況で"指紋が無い"だけでは爆発物を設置しているとは判断できない。迷惑防止条例違反で逮捕はできているものの、このままでは凶悪な男を罰金で野放しにするという失態に繋がってしまう。
長く感じる分数をいくら刻んだか、松島も考え得る事を尽くして万事休すという状況で取調室のドアがノックされる。"失礼します"という一礼とともに、入ってきたのは梓だった。
「何だ?」
「"こちら"の取調はもう調書を確認する段階ですので、分かった話を」
眉をしかめた様子のまま、大門は梓に"どうだった?"と食いつく様子。報告のために辰実が手書きで作成したメモを梓は大門に手渡す。"ありがとう"と一言言われた梓は、"更に分かった事があれば報告します"と言い足早に部屋を出る。
大門は4つ折りにされたメモを開き、辰実が書いている情報に目を通す。
"爆弾があった事自体を城本は知りませんでした。もし爆発していた場合について、城本に対する責任は無い事と、坂村に対し、城本がこの件で告訴する事が可能であるという事を伝えています。これは余談ではありますが、坂村は自分が逮捕されると分かった瞬間、特殊警棒を取り出しました。"と書いてあったメモから、何かの糸口を得たように大門は目を開いた。
(…ったく、何が余談だよ)
大門はスーツの裏ポケットからペンを取り出し、辰実が書いたメモに一言付け加える。
「松島」「はい?」
目を通すよう、一言だけ言い松島にメモが渡される。彼が目を通している文字の最後には"挑発しろ、ガキの思い通りに事は運ばないと教えてやれ"と大門の字で書かれていた。
スーツの裏ポケットに、メモを折りたたんでしまう松島。
「マズい事になった。これは非常にマズい。」
そう言って眉をしかめた松島を小馬鹿にするように、坂村は口元を歪めてニヤついた。先程までただただ黙っていただけの男が急に表情を変える。
「先日、カフェスペースで起きた爆破事件は警察にとってもインパクトのある事件だ。爆弾が見つかったというだけでも"もしや"と思って皆騒ぎ出すと…」
坂村が、口を更に歪めて"食いついた"と思わせる素振りをした瞬間である。その辺の頭のイカれた人間でも、経験豊富な刑事にとっては"よく見る"レベルの人間なのだ。何を言っても口を割らない輩でも、"揺さぶりが効く"と分かればいくらでも対処法は思いつくのだ。
「思っただろう?そんな事は無い。」
さっきまで勝ち誇ったような顔をしていた坂村が、一気に不機嫌そうな表情へと温度変化。予想以上に揺さぶりが効いた事に若干驚いた松島は、更に坂村を追い込もうと画策する。
「…そりゃあ、爆発の現場にいた人からすればもう、恐怖でしかないと思うがな。"爆発が起こって大混乱"のハズなのにその場にいた客はさっさと避難して警察が現場に着いた時には火が上がってただけだ。爆弾があったところでそれほど驚く事なんて無いんだよ。」
若干悔しそうな表情をする坂村の横に立ち上がった大門は、"爆弾についてた指紋はお前のだけだ、拭きとったような痕も無い。"と事実を突きつけ更に追い込んでいく。
「…どうせ"また"爆発するんだから」
坂村が口を開いて言った、"脈絡の無い話"。一見すればそう思えるのだが、ここまで何も言わなかった男が急に言い出した事を、大門も松島も注意を逸らさず"手がかり"として認識する。
「"また"?お前、爆弾使って何する気だ!?」
意地でも坂村に吐かせようとする大門に、松島は落ち着くよう諭す。至って冷静な松島には"当てずっぽう"であるが思う所があり、ぶつけてみようと考えていた。
「また、同じ場所を爆破するんだろう?」
もし"外した"にしても、そこから徐々に核心へと近づく事はできたのだろう。しかし当てずっぽうは意外にも、"核心"を撃ち抜く。坂村の凍り付いた表情が正解を言い当てられた事を意味していた。"図星だとしたら、性質の悪い野郎だ"と大門は坂村の表情を見つめながら毒づく。
「…松島、ここはお前に任せていいか?」
「ええ、構いません。」
「焦る事は無いにしても、事は事だ。俺はこの事を課長と生安に報告してくる。」
頷く松島を確認した後、大門は足早に取調室を出た。閑散とした密室には、取って食われるかのような緊張感の色を顔に滲ませた坂村と、この状況に置いても全く油断も隙も見せない松島の強かな姿だけであった。
「何で分かった?って顔をしてるな。」
まるで今までの自分の状況が"釈迦の掌の上の孫悟空"みたいな、何もかもを見通されていたという事実、それに対する悔しさと恐怖で、坂村は圧し潰されそうになってしまっていた。
「僻みでグラビアに迷惑かけて、それを撮影して自分は安全な所にいるからな。正直、そんな大した事の無いチキン野郎が考える事なんて目に見えてる。」
誰もができるようじゃない事、それをやって避難を浴びながらも"支持をする"人間は確実にいた。そういうコンテンツをやってきていた事がどこかで"認められた"と欲求を満たす要素となっていたにも関わらず今は"全て否定"されている。
「さあ、これから何かやろうとしてたなら大人しく話した方がいいぞ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます