#4「地蔵がまた嗤う」
(前回までのあらすじ)
"有名になりたい"という個人的な野望のもと、篠部怜子や蔵田まゆ(=愛結)に付きまとう等の迷惑行為を繰り返し、その様子をネットに投稿していた男、"しだまよう(本名:城本義也)"。
防犯対策係は愛結の自宅への突撃を許しながらも、駒田からの素早い連絡を受けた辰実と梓によりこれを撃退。更にピカチンからの情報提供から"饗庭が通っていたジムに出現する"事を利用し、スパーリングでのKOとともに逮捕への布石を敷く事に成功、功を焦ったしだまとカメラマンは翌日の"わわわ"生放送現場に突撃した所を逮捕された。
*
"しだまよう"こと城本義也の住んでいる10畳間は、思いのほか整頓されていた。
逮捕に伴い、"証拠品"としての突撃の映像データを確認・回収するための家宅捜索に来ていた辰実と梓。…"よし、始めよう"と言っていた辰実であるが、部屋を見た瞬間少しの間だけ無言であった。
「…黒沢さん、汚い部屋を想像してました?」
一瞬だけ眉をしかめた辰実。梓の言った事は"図星"なのだろう、しかし"人を見かけで判断する"というある種の失礼な行為があった事を大人気ない様子で認めようとはしなかった。
「馬場ちゃん、今日も可愛いな。明日も可愛いのだろう。」
話を逸らす辰実。そして一瞬だけ頬を赤らめる梓、家宅捜索の場でこんなふざけた様子の上司は後にも先にも黒沢さんだけだろうと思いながら、"早く証拠を探しましょう"と話を戻す。
「…まずは、PCだな。」
動画編集、またそのための生データが保管されているモノと言えばまずPCである。タブレットPCでありカバーを兼ねたキーボードも付いている。
「曲りなりだけど、真剣に動画配信には向き合ってたのかもな」
辰実も知っている、性能のいいPCだった。モノから見て取れる本気度を考えると、"その本気が世間から見ても正しい方向に向いていたら、彼はいい意味で有名になれただろうに"と辰実は悲しくなってしまった。
…そんな事を思っても、もう逮捕した男の事などしょうがない。"罪は罪"。その事を受け止め、"城本義也"が心を入れ替える事を辰実は祈る事にした。
(根がどうかは分からないが、整頓されてるのは素晴らしい)
意外にも(と言えば失礼なのだが)整頓されているデスクには、小さい箱で物を仕分けしていたり、アメコミのヒーローのフィギュアが飾られていたりと、現場では見えなかった"人となり"が見えてくる。そんな事を思いながら辰実は箱の中から棚の中まで隈なく"動画の撮影とデータに関係するモノ"を探すが、SDカード等の記録媒体すら見つからない。
(…データは全部、タブレットPCかな)
目星のつく場所は全て調べた。…後は"取りこぼし"の無いよう他の場所も一応調べていく。
「黒沢さん!」
引き戸式の押し入れを調べていた梓が、驚いた様子で辰実を呼ぶ。
「…見て下さい」
押し入れの中の、段ボール箱に入っている"何か"を梓は指さす。それは辰実が先日おやつに食べた"ミルクくずもち"が大きくなったような形の謎の物体が2つラップでくるまれている。その上の小袋の中にはランプの付いたバッテリーのようなモノと、小さい管のようなモノが電気ケーブルで繋がっている。
「プラスチック爆弾ですよね」
"俺もそう見える"と、辰実はいつものぶっきらぼうな様子で答えたが内心穏やかでは無かった。
愛結とデートに行ったオーシャンビューのカフェスペース、そこで食べようと注文した"塩こうじチキンとライ麦のサンド"。それを手に取ろうとした時に起こった爆発、吹っ飛んできた地蔵の頭。…その頭がどこかのカメラマンのように、ニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべる姿が脳裏によぎった。
(控えめに言ってマズい)
色んな感情を突き抜けて、何故か冷静になってしまった自分がいる事に辰実は気づいた。
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