黒江千景(くろえちかげ)

「千景ってさ、何考えてるかわからないよね」

「え?ほんとに?」

「いや、私は友達だから千景のこと知ってるけどさ、初対面だと、不思議ちゃんって感じ」

「そうかなー?」


 自分が周りからどう見えているかなんて、あまり考えたことはなかった。


 私が周りとのかかわりを持ったのは、高校に入ってからだから。


 それまでは、授業、休み時間関係なく、静かに過ごしていた。ほかの人と話したって、どうせ中学を卒業をしたら別れるし、あまりメリットを感じなかったから。


 だけど、そんな私を変えたのは、白濱くんだった。



 彼は、中学を卒業したら梨浜を出て、別の街の高校に行くことになった。


 だから卒業直前、思い切って聞いてみた。


「今までいた仲間と別れるって、寂しくないの?」


 彼は空を見上げて、少ししてからこう答えた。


「千景ちゃんはさ、梨浜、好き?」

「え?まあ、好きだけど……」

「そう、その気持ち。みんな梨浜が好きだから、たぶんここにいるみんなの絆は壊れない。俺は、そう思うけどな」


 私は驚いた。


 友情だけでなく、「ふるさと」があるから、そんな気持ちをみんな持っているという考え方。


「それに、絆って、そう簡単に壊れるものじゃないでしょ」

「梨浜への思いだけじゃないの?」

「それも大事だけど、もっと大事なのは、人と人との心のつながりじゃないかな」

「どういうこと?」


 彼はゆっくりと歩きながら、ジェスチャーをして見せる。


「例えば――そうだな。ピカピカに光っている金属の棒があるとするだろ?」

「うん」

「だけど、それって本当に金属?タコ糸に光る絵の具を塗っただけじゃないの?みたいな。――分かりにくくてすまん」

「大丈夫」

「大事なのは、その心つながりが、絵の具じゃなくて、本物の鉄の棒になっているかってことなんじゃないかな?」

「つまり、うわべだけのつながりじゃなくて、ちゃんと心からつながれば、友情はほどけないってこと?」

「うん。だから、友達を作るって、悪いことじゃないと思うぞ」


 彼は微笑んだ。



「じゃあ、また明日」

「またね」


 今でも、彼の言葉、彼の姿は鮮明に覚えている。高校には行って私が変わったのは、白濱くんが理由なんだと思う。


 だけど、彼が言っていたもう一つの言葉、「梨浜が好きだから」。


 私も、もっと梨浜を好きになりたい、と思って、今日は図書館によることにした。


 梨浜は、モノノケにとって聖地のような場所だから、八尾比丘尼の家系の私も、知らなければいけないと思った。


 ふと、一つの本が目に留まった。


「梨浜の……400年?」


 少しめくってみると、継大祭や、歴史について書かれていた。


「これ、お願いします」


 鬼族っぽい見た目の司書さんが、手続きをしてくれていた、その時。


「おい、あれを見ろ!」


 図書館にいた人々が、入り口に押しかけ、空を見上げていた。


 山から空へ突き抜けていたのは、一筋の、白い光だった。

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