平岡彩加(ひらおかあやか)

「平岡、終わりだ。お疲れ」

「ありがとうございます」


 1周だけゆっくりとジョギングして、端に戻る。


「あやち、相変わらず速いね~」

「いや、そんなことないって」


 夏休み中も、バスケ部は練習を欠かさない。帰ると、疲れて何もやる気が起きない。そのため、宿題は全く進んでいない。うっ、思い出したら頭痛くなってきた。


「あやち大丈夫?」

「いやー、宿題全然やってないなーって」

「あたしもだから、大丈夫!今日一緒にやろうよ!」

「いいよ!」


 彼女は私の親友、奏絵。小学校の時からの友達。人である私とは違って、妖狐の血を引いている。普段はあまり口には出さないけど、すごくかわいい。これからも、ずっと親友でいたい。


「全員集合!」

「「はい!」」


 私たちは走り出した。



「1時ぐらいでいい?」

「いいよ、何時でも」

「じゃあ、そのくらいに行くね」

「オッケー。じゃあね」

「バイバイ」


 今日は、奏絵の家で勉強をすることになった。


 奏絵は勉強もできる。文武両道って、憧れる。私はバスケはそこそこできるけど、勉強はさっぱり。あと1年で受験だし、頑張らなければいけないけど、やる気が起きない。


 それと同時に、あることが頭をよぎる。


 あと1年で、この梨浜からも離れることになる。奏絵と一緒にバスケをしたいから、この町を離れることにした。


 戦争の後、モノノケの存在は全世界に知れ渡り、進学の自由も保障されるようになった。


 だけど、最初のころは、いじめや差別を心配し、町外に進学する人は少なかったらしい。ほかとは全く違う見た目だから、受け入れてもらえないと考えたんだと思う。


 梨浜のモノノケが初めて町外に進学したのはわずか10年前。特に問題がないと分かった途端、町外進学が増えたそう。


 幼馴染の白濱くんも、町外進学だった。彼に憧れて、私はバスケを始めた。彼も、文武両道。私の周りにはなんでこんなにすごい人が多いんだろう。



 昼食を済ませて、バッグを持つ。


「いってきます」

「車に気を付けて~」

 奏絵の家はあまり遠くない。歩いても行ける距離。今日は、数学を教えてもらおうと思う。頑張れ、私!


 少し歩いて、交差点を右に曲がった、その時。私は、自分の目を疑う光景を目にした。


 目の前の山から、白い光が、空へと突き抜けていた。

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