第5話 最低限の立場
現状を保留にされひとまずここにいることを許された
「それじゃ、まずは自己紹介といこうかしら?坊や、名前を教えてくれないかしら?」
「あ…あぁ…」
自己紹介をしようと提案したものの、自分が先なのかと
「俺は
「ソーマ…ねー…やっぱあーやしー」
「俺でもそう思うんだから、そこについては目を瞑ってくれよ…」
ソーマは出来る限り情報を得るつもりで落ち着きながら名前と出身を言った。
何かの間違いで実は地球なのかと探ってみるため言ったが、誰も日本というのには知ってるような雰囲気を見せず、ルルと呼ばれる少女に再度怪しまれただけだった。
「ニッポン…知らないわねぇ…っと。アタシはゾクシエート・シャンドランよ。一応、この部隊の隊長を任されているわ。よろしくね、ソーマ」
「まっ…!?あー…よろしく…オネガイシマス…」
「うっふふん。硬いわよぉ。もっと気軽に接してちょうだい?」
「は…はぁ…」
ママと呼ばれていた男性、ゾクシエートは、ソーマの出身に思案しつつも、隊長らしく先に自分から名前を名乗った。
聞いた名前にソーマは反応を示してツッコミを入れようとするが思い止まった。
ソーマがここで食いついたら、再び他の三人に銃を突き付けられることが容易に想像ついたからであり、今度は止められないかもと思ったからである。
(ママ関係ねぇ!?しかも見た目に似合ってる上にめちゃめちゃラスボスっぽい名前だな…)
そんなことを思いつつ、ソーマは改めてゾクシエートを観察した。
身長が2mに届きそうなほどあり、それに加えてよく鍛えられているのが分かるほど引き締まった色黒の身体。
グレーの短髪で切れ長の黄色い目からは色気を感じるほどの美形。
だがソーマは、オネエの口調と仕草によって、色気ではなく寒気を感じていた。
「次はエフィリス…は知ってそうだったわね。ルル」
「はーい。ルルでーす。終わりー」
「ルル」
「……はぁい…」
ゾクシエートが指名したのはルルと呼ばれる少女。
しかしルルと呼ばれる少女はめんどくさそうに椅子に座りながら、ぞんざいに終わらる。
ゾクシエートがそれを咎めるように呼ぶと、仕方ないというように立ち上がった。
「ルルメル・ルトルメルト。弱いヤツが嫌いで殺したくなるから、ウチに寄らないで」
「お…おう…」
「あっ!でもー…」
ルルと呼ばれていた少女、ルルメルは、さっきまでの高いテンションから一気に冷めた調子で名乗り、抑揚のない冷たい声でソーマに警告を発した。
人が変わったようなその態度にソーマは引くが、ルルメルは更に一瞬で態度を変えて、ソーマに対して笑顔を向けた。
「でも…?」
「殺していいならいつでもどーぞ?」
「遠慮するわ…」
「ざんねーん」
ソーマはその笑顔に背筋を凍らせつつも、引き攣った笑顔で続きを促す。
返ってきたのは無邪気な殺意。
ソーマは完全にルルメルを危険人物と認定し、近寄らないことを決意するとともに、ルルメルから顔をそっと逸らした。
そんなソーマに対して、ルルメルは本気で残念そうにしながら椅子に座り直した。
(おっかねぇ…ルが多いなんてツッコむ気力も起きなかった…)
ソーマはくだらないことを考えながら、ルルメルが椅子に座ったのを感じて、様子を窺うように改めてルルメルを見た。
座って足を机に載せてる全体像から察するに身長はさほど高くなく、体格も幼い上に顔立ちも無邪気な少女そのもの。
高めの位置から肩にかかるくらいの薄紫のサイドテールに、桃色の猫のような目が印象的だ。
そして上がり下がりの激しい感情も猫のようだと、ソーマはルルメルの評価をそういう風に定めた。
「それじゃあ最後にフレス。自分の名前を教えてあげて」
「はい、ママ」
最後にフレスと呼ばれる青年が、ゾクシエートの呼びかけに応じて立ち上がった。
ソーマにとっては一番この青年が謎だ。
先程まで口数も少なく、ゾクシエートへの文句以外に興味なさそうにしている姿しか見ていない。
「ボクはこの世でママの次に美しい男。フレックス・インスラス。キミは全く美しくない。ママとボクを見て少しは自分を磨くといい」
「やばい、殴りてぇ」
「ふっ…いつでも相手になろう。ボクの美しさの前にひれ伏すのが目に見えているがね」
「美しさは関係ないだろ…」
ソーマにとってはどうでもいいことを言った後に名前を言ったフレックス。
上からの物言いと完全に馬鹿にしたような言葉を言われた為に、ソーマは率直な感想を言うと、微妙ではあったが意外にも会話が成立した。
それでも思ったより交流出来そうなことにソーマは安堵する。
(アレだ…ただのナルシストだと思えばそれ以外はまとも…だと思いたい…)
ナルシストであることは確定と思いながら、ソーマはフレックスを見直した。
身長は高く180㎝は軽く超えていそうで、体格は華奢というほどではないものの、やや細めの優男といった雰囲気。
肩まである濃い青色の髪の、水色の目をしていて、少し品の良さを感じる顔立ちは確かにイケメンではあるとソーマは思った。
同時にそれを自分で美しいと言うのはどうかとも思ったが。
「はぁい!これで今いる子達の顔と名前は分かったわね?」
「今いるってことは…他にもいるのか?」
「いるわよぉ?まぁ正確にはまだ教えられないけど…その理由は分かるわね?」
「まぁ…はい」
ソーマが隊員達を把握し終えると、丁度良くゾクシエートが手を叩いて仕切り直し始めた。
その隊員もまだ全員ではないらしいが、正確な数はソーマには伝えられない。
ゾクシエート達にとって、ソーマは黒に近い白と言うのが現状であり、おいそれと内情を話すわけにはいかない。
ソーマもそれを理解出来ないわけではなく、若干の躊躇いはあるものの素直に引き下がることにした。
「うぅん!物分かりのいい子は好きよ」
「「「………」」」
「あ…はは…アリガトゴザマス」
素直に引き下がったソーマに、ゾクシエートはしなを作って褒める。
そんな様子にソーマは引き攣った笑顔を浮かべて片言で返したが、内心は冷や汗でいっぱいとなっている。
何せその言葉によって、他の三人から若干の厳しい視線を向けられたからである。
(文句もダメ。好かれてもダメ。詰んでね?今はまだマシだけど…)
ともあれ今度は銃を向けられることなく視線だけで済んでいて、敵意と言うよりは嫉妬に近いものだろう。
そう考えればまだ好かれる方がいいと言うもので、ゾクシエートが味方である限りは早々危険はないだろうとソーマは考えた。
闇討ちや貞操の危機は訪れる可能性があるとも考えたが。
「男の子だし…身の回りはフレス、アナタが教えてあげなさい」
「わかった。ママ」
「アタシが手取り足取り教えてあげてもいいんだけどぉ…」
(怖い怖い怖い!色んな意味で怖い!)
「アタシはやることが出来ちゃったからねん。残念だわぁ…」
(超セーフ!)
同じ男性だからと手早く案内としてフレックスを指名したゾクシエート。
男性という意味なのか、別の意味があるのか、ゾクシエートも自分が世話をすると申し出ようとするが、それは他ならぬ自分で断りを入れた。
しかしソーマとしては早くも闇討ちと貞操の危機を迎えたように思い、その危機が去ったことに大いに安堵した。
「ママ、一つ提案があるのですがいいでしょうか?」
「なぁに?」
「ソーマをどう扱うにしろ、最低限の教育と訓練は施した方がいいと思うのですが、どうでしょう?」
「うぅん…それについては保留が安全なのよねぇ…とりあえず上の言質…じゃなくて確認を取るまでは、バレても問題ないように軟禁の捕虜って扱いにしたいのよねぇ…」
話が一息ついたのを察したのか、エフィリスが律儀に挙手をしてゾクシエートに提案をし、ゾクシエートはその提案に難色を示す。
ゾクシエート達は軍に所属しており、いくらソーマが自分を無害だと主張して、例えゾクシエート達がそれを了承していたとしても、軍という組織が簡単に危険の可能性がある人物を認めるわけがない。
それをわかっていて放置、更には訓練を施して危険性を上げていると上層部に発覚すれば、最悪、謀反を企てている可能性を隊全体に抱かれてしまう。
要するに、ゾクシエートも一小隊を預かる身として隊員達の方が大事なのである。
「私達のようにはいかないのですか?」
「アナタ達とはわけが違うわ。ある程度成長しちゃってるもの」
「そうですか…そうですね」
「うふふん。だいじょーぶ。悪いようにはしないわ。だからそんな悲しまないでちょうだい?」
「…はい」
ゾクシエートが悩んでいると、エフィリスは食い下がるように疑問を口にした。
しかしそれすらも却下され、エフィリスも理由に納得した為にようやく引き下がった。
(私達のようにって…どういうことだ?)
ソーマには理由が分からなかったが、不用意な発言で立場を悪くしたくない為に口を噤んだ。
しかし現状は捕虜扱いにされ多少は命の保障が出て、それ以上は無理だと言うのは理解出来た。
ソーマにとってはそれが分かれば一安心というもの。
(とりあえず…約一名を除いてすぐに殺されることもなさそうだ。色んな確認は置いといてもいいだろ…)
最優先事項であった最低限の安全は、ほぼ確保出来た為に胸を撫で下ろすソーマ。
しかしこれから先のことを落ち着いて考えられるのはまだ先になりそうだと、ソーマは一度考えるのを止めたのであった。
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