第1288話  夢とロマンが詰まった秘密基地

 地下格納庫が使われなかったのは、何もそこに納めるべきロボットが無かったからってだけの理由ではない。

 自分でもアホだとは思うが、発射口を湖の中に設定してしまった事が、実は最大の原因なのだ。

 

 よく考えて欲しい。

 勢いよく洞窟の中にあるレーンを滑走し、いきなり水中に飛び出すロボット。

 洞窟という空間から、水の中に飛び出すのだから、その負荷たるやとてつもない物となるだろう。

 アニメとかだと何の影響も受けずに地下の空間から水中へと飛び出したりしているが、現実でそんなことが有るはずない。

 大気の質量は、1立方cm当たりたたの約1mg。では水中ではどうか? 同じ1立方cmだと1gとなり、単純に計算しても1000倍の質量差だ。

 また、たいきの粘性と水の粘性を比較すると、実に40倍以上の差があり、密度差は800倍もある。

 つまり、動く物体が水中を進むのは、非常に困難な事だと言える。 

 ネットで探せば実験動画がいくつも出てくるとは思うのだが、一般的な拳銃の9mm弾をプールに撃ち込んでも、ほんの1m程進めば失速してしまうらしい。


 あらためて俺の邸の地下施設を思い出してみた。

 ものすごい勢いで地下のレーンを滑走するロボットが、湖の底の発射口から水中へと飛び出す…アホな設定…。

 何らかの手段で水が地下施設に流れ込まないような対策が取れていたと仮定しても、突進してくるロボットが向かうのは発射口の先にある水という大質量の壁。

 人だって60mの高さから水に飛び込めば(飛び込み方にもよるが)、水面の固さはコンクリート並みとなって大怪我を…下手したら死ぬとか聞いた。

 そこにまともに頭から突っ込む…俺にはロボットが大破して操縦者が死亡する未来しか見えない。 


 そんな地下施設にロボットを?

「自分で創っておいて言うのも何だが、実用性皆無だぞ。正気か?」

 そう聞き返さずにはいられなかった。

「ん? 当然、本気じゃ。ああ、お主が危惧しておる事は、充分承知の上じゃ」

 え~っと…本当に分かってるの?

「射出口の事を危惧しておるのじゃろう?」

「そう、その通り! って、それ分かってて使うつもりなのか?」

「無論じゃ。そのためにも、一度見せて欲しいと、こうしてやって来たのじゃ」

 ほむ…、ちゃんと分かってて言ってるのか。

 何か対策でもあるのかな? マッ〇バロンの発進のように、チューブでロボットを囲んで注水したりして、潜水艦の水中発射の魚雷菅みたいな事でもするつもりなのか?

 俺がそんな事を考えていたのが、何故かボーディに伝わったらしく、

「多分、お主が考えておるような方法では無いぞ?」

 バッサリと俺の考えは斬り捨てられた。

「どうでもええから、とにかくさっさと見せるのじゃ!」

 少しばかり苛ついた顔で、少し興奮気味に俺を怒鳴りつけるボーディ。

 もしかして、カルシウム足りてないんじゃね? 


 

 俺の家の地下にあるシェルターへは、屋敷の前にある噴水に隠された階段を通らなくてはならない。

 だが、秘密基地へと続く通路は、実は別の所に創ってあるのだ。

 それは裏庭の目立たない隅っこにある、一番この邸の中で日当たりが悪い場所にあり、そこは何故だが年中緑の芝が生えている場所。

 まあ、長い間誰も気づかなかったんだけど、これは2m四方の人工芝です。

 大体、こんなファンタジー世界だと言っても、こんなにきっちり四角形に生えてる芝生なんて有るわけないんだから、一度観た事がある人なら違和感バリバリなはず。

 んで、そんな芝生のすぐ横にあるこれまた枯れる事のない人工樹の枝の1本を軽く押し下げると、ゴゴゴゴゴゴゴ…と人工芝が生えた入り口の扉が持ち上がる。

 人工芝が生えた扉のから顔を見せるのは、地下へと続く階段。

 階段は照明に照らされ、それが地下深くへと続く階段だとすぐわかる。  

 その階段を滑らぬように慎重に降りると、小さな…とはいえ、6畳間ぐらいは有る空間へと出る。

 正面には、一見すると何の変哲もないただの壁に囲まれた小部屋だ。

 だがよく見ると、そこには小さな窪みが開いている。

 そこに俺は右手の人差し指を突っ込んだ。

 実は、これ…指紋認証装置だったりする。

 当時の俺って、無駄に凝ってたんだなぁ…なんて思い出にふけっていると、目の前の壁がゆっくりと左右に分かれて開いて行った。


 俺は皆へと振り返り、笑顔で両手を広げ、

「ようこそ、夢とロマンが詰まった秘密基地へ!」

 ちょっと格好つけて言ってみました。

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