第1289話  イイネ!

 扉の先には、無機質で冷たい印象を受ける、まるでコンクリート打ちっ放しの様なつるんとした壁と廊下が真っすぐに続く。

 天井の真ん中には、一定間隔で照明が設置されており、それが手前から奥へと順に点灯して廊下を照らす。

 全員を引き連れて俺がその廊下へと足を進めると、辺りを見回していたであろう同行者たちが、「うゎぁ!」とか「へぇ~」とか「おぉー!」とか、とにかく色んな声をあげた。

 そうそう、俺も初めてこの廊下を進んだ時、そんな感じで感嘆の声をあげたよなぁ…多分…昔すぎて忘れちゃったけど…。

 歩く事およそ数分で、またまた壁に突き当たる。

 その扉の真ん中には、勇ましい犬に似た動物の石像が飾られている。


「狛犬…」「シーサー?」

 ぼそりとユズキとユズカが呟いていた。

 いや、ユズカよ、シーサーでは断じてないから、狛犬だから!

 俺もこのデザインはどうかと思ったんだけど、当時はこれしか思い浮かばなかったんだよ。

 前世の子供の頃の俺の遊び場が、近所の神社だったってのも…多分に影響があるかも知れない。

 まぁ、そんな感じで、この世界のファンタジー感を崩す様なデザインとか嫌ってた今世の俺だからこうなったんだよね。

 今思えば、ガーゴイル的なのとか、ワイバーンを模したのとかでも良かった気がする…ちょっと後悔。


 そんな狛犬の両目が光り出す。

 俺がその狛犬の光る目を真っすぐに見つめると、静かに狛犬の石像が左右に別れてゆき、同時にその背後の壁もまた左右に分かれていった。

「うっわ! シーサー真っ二つ!」

 だからシーサーじゃないって言ってるだろ、ユズカ! あ、言って無いか。 

 このギミック、ちょっと格好良いと思うのは俺だけだろうか?

 あのシーサーの両目は、実は網膜識別機になっており、俺の網膜を鍵として認証しているのだ。

 100%のセキュリティーとは言わないが、それでも先の扉の指紋認証と合わせれば、かなり不審者の侵入は防げるんじゃないだろうか。

 誰がこんな何も無い格納庫に侵入するんだ? なんてツッコミは受け付けません。

 俺が好きで創った設備なんだから、これでいいのだ!


 さてさて、壁が左右にゆっくりと開くと、そこはこの地下通路の終着点である、この秘密基地の管制室となっております。

 いや、別に色んな計器類とかモニターとかが並んでいるわけでは無いです。

 ただ椅子とテーブルがいくつか並んだだけの空間です。

 あ、いや…格納されるロボの勇姿が良く見える様にと、壁の一面がガラスの様に透明になっていて、どっかの金持ちのガレージハウスっぽくはなってるけど、それだけです。

 俺に続いて部屋に入って来た皆は、「うゎぁ!」とか「へぇ~」とか「おぉー!」って…さっきもそれ聞いたよね。

 皆、他の感嘆詞知らないの? いや、別にいいんだけど・・・。



「ほう、思ったよりも充実しておるのぉ」

 部屋を見回し感嘆の声をあげる我が家のメンバーと違い、ダンジョンマスター達はガラス越しに見える格納庫を観察していた。

「ええ、これは私も少々驚きました…」

 ボーディとモフリーナが、眼下に広がる格納庫を見て、そう感想を述べた。

「確かに…これなら余裕で格納できる…イイネ!」

 モフレンダは1人でうんうんと頷きながら、何か納得した様だ…イイネくれた。

「じっそくで、やくにさんじゅうにめーたーまでかくのうができまちゅね!」

「その計測からの層ては早計。発進プロセスを考えると、全高25m程度までににすべき」 

 もふりんとカジマギーは、何やら計測して…いや、目測? 目測でそこまでわかるもんなの? 

 言ってる様に、確かに全高25~27mのロボットを想定してたけどさ…。

「じゃが、少々埃っぽくないかや?」「これってどこから降りるんでしょう?」「天井にコウモリが…」

 ダンジョンマスター達は格納庫を見て、あれやこれやと言ってる…けどさ、ここって一度も使って無いからね?

 だからボーディよ、埃っぽいのは仕方ないんだかからな? 掃除なんて広すぎて出来ないからな?

 あと、下に降りるには、あっちの扉を開けた先にあるエレベーター使ってください、モフリーナさん。

 って、コウモリ!? え、モフレンダ、どこどこどこに? あ、マジでコウモリが居る! どっから入り込んだんだ?


 ダンジョンマスター達がへばりつくガラス面に、少しだけ遅れて我が家のメンバーもへばりついた。

 それぞれが色々な感想を口にしておりましたが、それを細かく説明していると非常に長くなりますので割愛します。

 ただ、マチルダのこの質問には回答せねばなるまい。

「こんな巨大な空間って、一体どこの地下にあるのでしょうか…?」

「ん? ネス湖の地下深~くを全~部使ってますけど、何か?」 

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