第1221話 お願いします
蜂達総動員で人魚さんを探して回ったが、彼女達の姿は欠片も見つからなかった。
まあそれも当然で、実は崖の崩壊が起きる直前に、全員がダッシュで海まで戻っていたからだそうだ。
崖の崩壊によって押し出された圧倒的なまでの水量が押し寄せたため、最後は流れに揉みくちゃにされたそうだが、それでも全員が無事に海まで逃げる事が出来たんだそうだ。
さすが、海の覇者たる人魚族だな。
とは言え、上流に向かって逃げたわけでもなく、流れに後押しされつつ逃げたんだから、水中を自由自在に高速で泳ぎ回る事が出来る人魚さん達なんだから、よくよく考えれば無事なのも納得できる。
川を必死で探索? 捜索? をした蜂達が、やっとのことで人魚さんを見つけたのはあの岬がある河口。
その海の中から、無数の頭だけが出てたらしいと、クイーンが身振り手振りで、その時の蜂達の恐怖を語ってくれた。
それも人魚さん達の殆どが長い髪をべったりと顔に張り付けた状態だったそうだ。
うん、確かに俺もびびるよ…そんな光景を目の当たりにしたら。
船幽霊か海坊主の群れかと思っちゃうよな。
あ、海坊主と言っても、どっかの身の丈2mを超えるスキンヘッドのグラサン筋肉の喫茶店のマスターじゃないからな?
海に棲んでいるとか言われる妖怪の事だから、くれぐれも間違えないように。
兎に角、蜂達が恐怖心を押し殺し、その頭の1つの元へと飛んで行くと、髪をかき上げて手を振ってくれたそうで、そこでやっと人魚さんだと安心できたとか。
それで事情を詳しく聞き、クイーンへと人魚さん達の無事を伝え、そして俺へと報告があがってきたって事だ。
うん、本当に無事でよかった。
もしも誰か大怪我をしてたり亡くなっていたりしたら…対価にどれ程の若い男の生贄を要求されるか…ぶるぶる…。
さて、これで取りあえずは、このワイバーン討伐作戦に参加してくれた全員の武士は確認出来た。
まあ、壮大な自然破壊の跡は残ったわけなんだが、あれ…どうしよう。
「伯爵様、ちょっと確認したい事があるんですけど」
俺とユズユズ夫婦、イネスは変身を解き、ウルスラグナからはマチルダとミレーラも降機して、全員で対岸の惨状を見つめていると、ユズキが不意に話しかけて来た。
「どうしたん?」
何を確認したいんだろう?
「いえ、あの対岸の崖? だったところは岩でしたけど、その上には森がありましたよね?」
その言葉に、俺は視線を斜めに切り落とされた崖では無く、そのさらに上へと向けるた。
確かにユズキの言う様に、崖の上には樹が生い茂っている。
とすれば、落ちた崖の天辺にも樹が生えていたという事は想像に難くない。
「確かにあっただろうなぁ…」
そう答えるのが精いっぱい。でも、何でそんな事聞くんだ?
「んでは、もう一つ。あのつるんつるんの切断面ですけど…樹が生えると思います?」
「…無理なんじゃね? あんな所に種とか樹の実とか引っかかるような所ないし、そうなると森どころか草も無理な気が…」
都会の舗装の隙間から花が咲いたとか樹が生えたとかってニュースも前世でたまに見た事あるけど、それって風とかで流れた土が堆積したりできる場所があったからこそ起きた偶然であって、あんな土埃すら溜まりそうにない場所には生えないだろう?
もしも生えたら、それこそ奇跡なんじゃないだろうか?
「ですよねぇ…あの状態ですから。では、あの状態では無ければどうでしょう?」
ユズキのこの言葉に、全員が首を捻った。
彼の嫁であるユズカでさえ、「何言ってんの?」と言ってるぐらいだ。
「いえね、あのつるつるぴかぴかの急斜面が、凸凹になれば…また何十年か掛けたら自然が復活するんじゃないかと」
「まあ、言わんとしている事は分からんでもないが…」
でも、どうやって?
「ふっふっふ…実は、今回ワイバーン討伐のために万全準備して来た品々が、実はほとんど手つかずなのですよ。持って帰るのも重たいので、もういっその事ここで全部ぱ~っと使っちゃいませんか? って提案です」
「あっ! なーいす、柚希!」
ん? この万年新婚ラブラブ夫婦だけに通じる暗号か何かなのか?
「おお、なるほど!」「…的は?」「それこそ、ユズキの言う様に、あの崖でいいのでは?」
イネスもミレーラもマチルダも、ユズキの言いたい事がわかったの?
「ですよねぇ! せっかく作って来た武装の数々なんですし、丁度火器の威力も確認したいと思ってたんです!」
…まさか、あの筋肉エルフさん達が持ってきたアレを撃つつもりか?
「イエス! さすがは私の旦那様! 派手にぶっ放したかった私の気持ち、分かってるわね~!」
「そりゃぁ、柚夏の事なら何でもわかるさぁ」
「柚希…」「柚夏…」
あ~君達、そう言う事は2人っきりの時にして貰えませんでしょうか。
割とマジでお願いします。
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