第1220話  絶対に押すなよ!

 ミヤとヒナがワイバーンの巣…いや、対岸の自然に対して攻撃を加えた場所に戻って来た俺達は、その光景に唖然とした。

 ただその光景を眺めていた事、数分間。

「なるほど…こうなったか…」

 俺の口がやっと紡いだ言葉がこれだった。

「これは酷いな…」

 イネスの言葉に、俺は心の中で激しく同意した。

 俺達が見ている物…それは、崖が綺麗さっぱりと切り落とされた惨劇の現場である対岸の崖だ。

 俺達の立ち位置から斜め上方に向かって約30度弱で、綺麗さっぱりと対岸の崖は切り落とされていた。

 しかも恐ろしい事にその切り口は、まるでガラスの様につるつるでぴかぴかで、太陽の光を思いっきり反射している。

 それが見る限り、俺達の立ち位置を中心として、上流側から下流側まで1km程にもなるのだ。

「あのつるつるの場所に立てる自信がないな…」

 どこかのお笑い番組じゃないけれど、あの崖の天辺に座る事すら恐ろしい。

 誰かがちょっとでも押したら最後、絶対に川に落ちるまで泊まる事は不可能だろう。

 うん、もしもあそこに行く事になったとしても、「押すなよ、絶対に押すなよ!」なんてフリはしないと、ここで誓おう!

「鍛錬に使えるかも…」

 イネスが馬鹿な事を言ってるけど、何の鍛錬に使う気なんだよ? 

 あのつるつる坂を逆らって上る鍛錬? んなアホな事してどうなる?

 流石にこの惨劇の張本人であるミヤとヒナも、ここまでの事になるとは思っていなかったのだろうか。

 俺が何か言ってやろうかと、後ろに居るはずの2人に顔を向けると、慌てて待機次元へと逃げ込み姿を消した。

「はぁ…どうすっかなぁ…これ…」

 もちょっと穏便にワイバーン討伐できるかと思ったんだけどなあ…って、討伐に穏便もクソもないか…。


「トール様ー!」「伯爵様ー!」

 俺が深いため息をついていると、上流からマチルダ達が、下流からはユズユズ夫婦達が姿を見せた。

「おお、全員無事だったか。良かった良かった」

 うん、俺…めっちゃ台詞棒読み…。

「伯爵様、あれは何だったのですか!?」「白い聖機人はどこ!?」「トール様、あんな攻撃聞いてませんけど!」「…怖かった」

 えっと、ちみたちおもちつきたまへ…じゃない、落ち着き給え!

「まずユズキよ、あれはミヤヒナの攻撃だ。ユズカ、そんなん来てねーよ!。マチルダ…うん、俺も知らなかったもん。ミレーラ、怖がらせちゃってごめんな」

 色々と面倒くさそうなので、一息に全員の質問に答えました。

「あの2人の攻撃?」「ちぇっ!」「トール様も知らなかったんですか?」「…あとでいっぱい慰めてください」

 答えても面倒くさかった!

「ユズキ君、その通り! ユズカ君、君も人妻なんだから舌打ちしない! ああ、その通りだ、マチルダ。何か色々と怖いんで…それは考えさせてくれ、ミレーラ…」 

 その後も、やんややんやと質問攻めにあったのだが、まあ何とか切り抜ける事が出来ました。

 我が家のメンバーが、ぎゃーぎゃー騒いでいる間、脳筋エルフさん達はあちこちに散らばったワイバーンを探しに行った。

 だが、すぐにマッチョ・エルフさん達は戻って来る事になる。

 何故なら、ワイバーンの死骸は、全て川の中に落ちてしまっていて、しかもそれらの殆どは、切り落とされた崖の下敷きとなってしまっていたからだ。

 まあ、うん…分かってたけどさ。


 ん? ちょっと待てよ?

 俺、確か蜂さん達に頼んで、人魚さん達にワイバーンの素材回収頼んだんじゃなかったか?

 え、もしかして人魚さん達…崖の下敷きに!? 

 こりゃ、えらいこっちゃ!

「お、おい! 誰か人魚さん達見なかったか? ってか、クイーン! 蜂達に人魚さんを探させろ! もしも崖の下敷きになってたら救助を…は無理だな…いや、とにかく探させるんだ!」

 俺同様にすっかり人魚さんの事を忘れていたクイーンが、慌てて蜂達を総動員して人魚さん探索に向かせた。

 どうか無事であってくれ…。

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