第1209話  予想通りじゃな

「ふむ…お主、なかなかやるのぉ」

 

 パンゲア大陸に連れて来られ、更なる精密検査を受けたサラとリリアが、モフリーナの淹れてくれたお茶で少し緊張で乾いた口中を潤しながら、2人で地下室で考察した魂に関して話をしていた。


「では?」

 少々不安そうな顔でリリアがボーディへと問いかけると、

「うむ、ほぼ正解じゃ」

 ニヤリと笑いつつ、ボーディはその考察を肯定した。

 それを聞き、リリアもサラも緊張を緩めた。

「お主等の考えた通り、そもそも魂とは精神体とエネルギーの合わさった物であり、魂という名称の物は存在せんのじゃ。そもそもこの世界が誕生した時には、魂という名称は無かったのじゃよ。我等、解放魂魄解放庁がその名称を広めたのじゃ」

 どこか遠い目をしたボーディがそう語った。

「やはり…。つまり、魂と精神体は、実は切り離せないという事で合ってると言う事ですね?」

 確かめる様にリリアが問いかけると、

「ああ、その考えは正しい。というか、繰り返しになるが、そもそも魂とはエネルギーと精神体の合わさった物の名称なのじゃから、切り離したら魂では無くなるがのぉ」

 ボーディは即座に答えを返した。 


「んじゃ、魂魄ってのは、どういう意味なんすか?」

 ここまでの話を聞いていたサラが、ついでとばかりに問いかける。

「おお、お主…なかなか良い質問をするのぉ!」

「ふふん! サラちゃんはやる時はやる子なんです!」

 誰もそんな事は言ってない。

「間抜けでアホな奴じゃと思っとったが…」

 ボーディのその評価は多分正しい。

「誰が間抜けでアホかーーー!」

 サラが幾ら怒鳴った所で、誰も恐れはしないが。


「魂魄…これは魂と魄が合わさった言葉じゃ。『魂』とは精神体を差し、『魄』とは肉体を指す言葉なのじゃ。他には霊魂と呼ばれる事もある、生命体の根源を司る物じゃと考えられており、そうあちこちの世界では伝わっておるはずじゃ」

 サラがまだギャーギャー騒いでいるが、完全にそれを無視してボーディが語り始めた。

「もっとも、本当は『魄』は肉体では無くエネルギーを指しておるから、その考えは間違っておるとも言えるがの」

「…私が考えていた魂魄の概念とはかなり違います…」

 ボーディの説明を聞いていたリリアは、今まで持っていた常識との違いに驚いた。

「まあ、陰陽と表現する事もあるし、生命の構成要素が霊魂と精神体と肉体じゃとする宗教などもある。つまり、世界や宗教の数だけ魂魄の理解度や認識度や解釈は変わるものじゃから、そう驚くほどでも無いのじゃ」

「な、なるほど…」

 どこか納得した様な顔のリリア。

 話の切っ掛けを創り出したサラは、もう完璧に置いてきぼりだ。

「まあ、魂魄への間違った認識をお主等に植え付けたのは、明らかに輪廻転生管理局じゃの」

「……それは何故?」

 そうでは無いかと考えていたリリアではあるが、思わずといった感じで口から声が漏れた。

 だが、それはしっかりとボーディの耳に届いていた。

「一言でいえば、お主等の思考と行動を、管理局にとって都合良い方に誘導するためじゃな」

「「………」」

 そう断言されたリリアとサラは、言葉を発する事が出来なかった。


「まあ、じゃからお主等のボディなど、どうとでも出来るはずじゃ」

 ソファーにふんぞり返りながら、ボーディがそう言うと、

「…精密検査の結果…出た…」

 その背後に、ぬぅっと現れたモフレンダが、何やら細かい数値やら文字やらが羅列されているレポートの束をボーディに手渡す。

「び、びっくりした! モフレンダよ、気配を消して近づくでないわ!妾の心臓、止まっちゃうぞ!?」

「そんな事で止まらない…剛毛生えてるから…」

 心臓ドキドキで怒り心頭のボーディに対し、実に冷たいモフレンダの言葉。

「ご、剛毛って…生えとらんわ! 妾、こう見えて結構繊細なのじゃぞ!?」

「…五月蠅い…いいからさっさとソレ読む…」

 そう言いつつ、レポートの束をボーディに押し付けるモフレンダ。

「くっ…妾の主張は無視か…。というか、お主ちょっと性格変わっておらぬかや?」

 ブツブツ言いながらも、モフレンダの作成した検査結果のレポートを受け取るボーディ。

 暫しそれをパラパラめくりながら確認した後、ボーディは真面目な顔でサラとリリアに視線を戻して、

「うむ、やはり予想通りじゃな。お主等の体内には、確実に魂が存在しておる。エネルギーの問題が無い分けではないが、それでもお主等の新たなボディーは、間違いなく作成できるぞよ」

 はっきりと、そう断言した。

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