第1208話  ユリアちゃんとコルネちゃんは…

 さて、トールヴァルド邸の一室で、元日本人達による吉本〇喜劇の様なお馬鹿なやり取りをしていた頃、遠く離れた王都のアルテアン侯爵家では…・


「んっと…こうしてこうして…おねえさま、そのちゃいろのえのぐをおねがいします!」

「はいはい、これね。それでユリアちゃん、一体何をしているの?」

「えへへ~。おえかきです!」

 ここは王都にあるアルテアン侯爵家の広大な邸の一画にある、妙にひっそりとした頑強なレンガ造りの二階建ての建物の中。

 出入り口には分厚い鉄製の扉が付いており、さらに幾重にも鍵が掛けられ、とどめにアルテアンの血族しか解錠できないドワーフさん特製の超特殊な鍵までついていた。

 そんな特殊な倉庫の中に収められているのは…先のアホ皇帝率いる帝国との戦の最中に、トールヴァルドが創り出した少年の夢と男のロマンと謎テクノロジーを詰め込みまくった最強戦力であるウルスラグナだ。

 そして、アルテアン家の長女であるコルネリアと、次女であるユリアーネが何をしているのかというと…先に本人も口にした様に、お絵描きである。


 兄であるトールヴァルドの邸に滞在していた時は、着替えも食事も全部自分でやってたからか、色々と少しは成長した様に感じていたのだが、王都に戻ってからは何だかユリアーネの精神は少々幼児化してしまったかに見える。

 この王都邸には数多くの使用人が居る為、何時もはユリアーネが1人で出来る事であっても、すぐに誰かが手助けにとんで来る。

 それが彼等彼女等の仕事ではあるのだが、それ以上に全員が可愛いユリアーネが好きすぎて放っとけないというのもあるのだが、それゆえユリアーネが幼児退行した様な…。



 王都アルテアン侯爵邸の裏の頑強な倉庫の中に、物言わず静かに佇む2体にのウルスラグナ。

 戦の後、この最強ロマン武器をいたく気に入ったウルリーカが、駄々を捏ねてトールから譲ってもらい、ここ王都に持ち帰ったのだが、如何せんその巨体は目立つ。

 王都の、それもい王城からそう離れていないアルテアン侯爵王都邸は、王城へと続く道に一部面している。

 商人や、勲民や貴民、はては貴族などの殆どがこの道を通って登城する。

 そうなれば、必然的にこのロボットを目にする者も出るだろう。

 ガ〇ダムほどの大きさは無くとも、2階ほどもある全高は、やはり目立つ物だ。

 邸の裏手に座らせておいたところで、隣家の上階からは丸見えになってしまう。

 寝かせておくのも同じ理由で駄目だ。

 かと言って、こんな巨大な物を邸の中に入れておくのであれば、精々ロビーかパーティなどを開催するためのホール程度。

 それこそ来客があった時にバレバレである。

 いや、先の戦に参加した者達の口から、あの最強戦力の話はすでに王都中に広まっているので、見られるぐらいは問題ない。

 だが、それが女神ネス様のお膝下であるトールの邸にあるならば…だ。

 まさかウルリーカが駄々を捏ねて譲り受けたなど誰かに知られようものなら、一体どんな良く無い噂が立つ事か。

 ちなみに、先の戦で狂乱の侯爵夫人という異名がウルリーカに付いており、それがこっそりと王都中に広まっている事は内緒。

 なので、あの戦の後に急遽トールヴァルドが土と火の精霊さんを総動員し、ドワーフの技術の粋を持って、ウルスラグナをおさめる倉庫を、侯爵家王都邸の裏に建てたというわけだ。


 んで、本日はなにやらペンキ(ユリアちゃん曰く絵具)と筆を持って、可愛いエプロンをしたユリアちゃんが、コルネちゃんと供にこの倉庫へやって来たのだが…。

「これは…くまさん?」

 ウルスラグナの脛の辺りに一生懸命にお絵描きしているユリアちゃんに、コルネちゃんが訊ねた。

「うん、そうだよ! こっちは、おねえちゃんのくまさん!」

「まぁ、ありがとう」

 コルネちゃんは、自分専用車であるくまさん号に付いている、くまさんエンブレムとそっくりな絵を描いてくれているユリアちゃんの頭を、にっこりと笑いながら撫でた。

「んんん? ちょっとまって…こっちはって事は…もしかして」

 だが、ちょこっと気になる事をユリアちゃんは言ってた気がする、っとコルネちゃんは考え込む。

「うん、そうだよ! あっちはきつねさん!

 そう言ってユリアちゃんが指さすのは、静かに佇むもう1機のウルスラグナ。

 たらり…っと、コルネちゃんの額に汗が流れる。

「えっと…あっちにも描くの?」

「うん! これでおねえさまとおそろい!」


 いや、それはそうだろけど、あっちのウルスラグナは、長い柄の先に分厚く巨大な刃の付いた槍…兄であるトールヴァルド曰く青龍偃月刀を持っている機体だ。

 それは2人の母であるウルリーカのお気に入りのはず。

 そんな物に落書き…いや、お絵描きなどしよう物なら…。

 何故、今の今まで気付かなかったのだろう。

 この超巨大なバスターソードを持つ機体に先に落書…お絵描きしてくれてて本当に良かった。

 こっちは2人の父であるヴァルナル侯爵の機体であり、きっと父であれば可愛いユリアーネのお絵描きぐらいは笑って許してくれる。

 だが、母の機体はまずい! 非常にまずい!

 普段は温厚な母だが、機嫌を損ねると、たとえ相手が国王だろうが悪魔であろが平気で拳を振り上げる様な人だ!  

 これは全力で止めなければ!


「ゆ、ユリアちゃん? あっちはお絵描きはなしにしましょう。こっちの足にくまさんを描いて、反対の足にきつねさんを描いてほしいなぁ…お姉ちゃんとしては…」

「え~?」

 ユリアちゃん、かなりご不満なご様子。

「いえ、あっちは…ほら、今度また何か描きたい物が出来た時にしない? それにお姉ちゃんは、こっちにユリアちゃんとお揃いのマークを描いて欲しいなあ~って。そっちの方が可愛くて好きだなぁ~って…」

 コルネちゃん、必死である。

「む~~。おねえさまがそういうんだったら、ゆりあがまんしてあげる!」

 ユリアちゃんの言葉に、ほっと胸をなでおろすコルネちゃん。

「う、うん、さすがユリアちゃんだね~! 我慢する事も大事だからね~」

 そういって、ユリアちゃんの頭をかいぐりかいぐり撫でまわすコルネちゃん。

「うきゃ~」

 嬉しそうに、撫でるコルネの手に頭を押し付けるユリアちゃん。


 お父さまなら、きっと可愛いユリアちゃんの落書きぐらいで怒らないだろう…いや、むしろ喜ぶはずだ。

 だが、あのお母さまだったらどうだろう…もしかしたら怒り出すかも…でも可愛い可愛いユリアちゃんのする事だ、いきなり怒鳴り付けたりは…いやだが…しかし…。

 コルネちゃんを撫で撫でしつつ、思考の回廊に迷い込んでしまった様だ。

 

 一見すると、ただの仲良し姉妹にしか見えないのだが、姉の頑張りで王国の危機(大げさ)は去ったのであった。

 だが、この時…ユリアちゃん頭の中では、あっちのには何を描こうかなぁ…と、すでに新たな計画が練られ始めていた事など、コルネちゃんには察知する事など不可能であった。

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