第1207話 何か変だ
「ところで伯爵様、ひとつ疑問があるのですが」
この2人に呪法具の開発を任せて良いものかと、俺が頭を悩ませている最中、ユズキが俺に声を掛けた。
「疑問?」
「ええ…疑問です」
この夫婦、実は意外なことに鋭い所がある。
ユズカは直感で動くところもあるのだが、その直感が正しい事も結構多いのだ。
本人曰く、女の勘とかいっていたが…俺的には野生の勘だと思う。
対してユズキは、かなりの頭脳派なので、理屈っぽい部分もあるのだが、論理は破綻していない。
つまり、ユズキが疑問があると言えば、間違いなく何かの問題があると考えていいはずだ。
「言ってみんさい」
そしてこのおrは、実は頭はちょっと悪い方だと思ってる。
なので素直にユズキとかマチルダとか、頭のいい人の意見は受け入れるようにしているのだ。
「ええとですね、通信の呪法具ってあるじゃないですか。あれの仕組みって、1個の魔石に呪法の文字を記入した物を半分にして使用してますよね?」
そう、これこそが通信の呪法具の最大の秘密なのだ。
わが量が誇るドワーフ親方衆の研究により、魔石のおもしろい特徴が判明した。
それは、1個の魔石は半分にしたとしても、互いに引き合う性質がある…という事。
これを利用して完成したのが、通信の呪法具。
1個の魔石を半分にする都合上、どうしても1対の法具でしか会話が出来ないという欠点はあるものの、今までの手紙とかと違い格段に情報伝達の精度が高く早くなったのだ。
「ああ、そうだな。それで?」
「刻む呪法って…漢字じゃないですか」
そう、この呪法っていうガチャ玉で創り出した新しい法理は、俺とユズユズだけが知っている漢字がベースになっているのだ。
「まあ、そうだな。確か…音声送信と音声受信だっけ?」
「ええ、あとは着信呼出とかの細かい部分もありますが、それは今はいいです」
ふむ…そこに何か問題でもあるんだろうか?
小型化にも成功しているんで、高級品はガラケーぐらいの大きさには進化しているのだ。
「これって漢字だけしか刻めないんですかねぇ?」
「ん?」
「いえ、平仮名とか片仮名は使えないのかなぁ…っと。ベースは漢字ではなく、実際のところは日本語なんじゃないんですか?」
「えっと、どゆこと?」
日本も漢字も同じなのでは? んんんん?
「いえ…だって漢字だけで文章を作るとなれば、本当は漢文にしなければ駄目ですよね?」
「あっ!」
「ただ漢字を元日本人が理解できるように並べて意味が通じるんでしたら、それって日本語なのでは?」
「言われてみると、確かにおかしいな…」
音声受信だと、接收音频って書かなきゃだめだけど、それだと俺達元日本人にはチンプンカンプンだ。
音声送信だと、こっちもやっぱり发送音频になる。
何でお前は中国語を知ってるんだ…って? そりゃ、昔ちょこっと中国語を勉強したからさ。
詰まり、ユズキが疑問に思ってる事ってのは、日本式の漢字の熟語だけで文章を作っているけど、そこに平仮名とか片仮名とかが入ったらダメなのか…って事だよな。
こりゃ確かに盲点だった!
「なるほど、その疑問はもっともだ。これは研究の余地があるかもな」
「まあ、漢字一文字で表せる意味が平仮名とか片仮名一文字よりも情報量が多いのは確かですけど…同じ漢字でも微妙な意味とかニュアンスの違いがあるんで、それってどうなるのかなぁ…ってのもあるんですけどね」
おう、更なる疑問点!
呪って漢字だけでも、『まじない』とも『のろい』でもある。
送り仮名が違うだけで、かなり意味が違ってくるな。
いや…遠い昔、陰陽術とかが身近だった事、実はのろいと言っていたのだが、それが長い時を経てまじないになったって説もあるんだけど…真相は知らん!
だが、確かに現代日本人からしたら、これって完全に意味が別物に感じるよな。
つまり…現代日本語式の漢字の羅列で呪法が成り立っているという事なのかな?
確かにこりゃ、何か変だ。
「なるほど…これは研究の余地ありだな。んじゃ、それを含めユズキに命ずる。新たな呪法具を研究せよ。そして、ついでに呪法のルールに関しても研究するように!」
「了解です!」
ところで、こんな真面目な会話の間中、とっても静かだったユズカ。
ユズノちゃんを抱っこしながら、すぴーすぴーと鼻ちょうちん膨らませながら、親子そろって居眠りしてやがった…こんちくしょう!
俺とユズキがこんだけ熱く語り合っているというのに、本当にこいつは自由だな!
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