第1210話  僕はやるぞー!

 パンゲア大陸で検査を終えたサラとリリアは、以前トール達が宿泊した、例のラウンジのある塔の中心にある部屋へと泊まった。

 色々とまだ疑問も残っており、ダンジョンマスター達へと質問をしたい所ではあったが、自分達に新たな肉体を与えてくれる彼女達に、あまりしつこくするのもどうかと考え、その日は大人しく部屋で休息する事にした。


 さて、その頃…当のダンジョンマスター達が何をしているかというと…。


「やはり、私の予想通りでしたね」

 どこかの悪の組織の研究室の様な薄暗い部屋に集り、検査結果を前にして話し合っていた。

「うむ、モフリーナの予想的中…と言いたい所ではあるが、まあこの結果の予想は難しく無かったのぉ」

 そう言って、テーブルの上にレポートの束を放置投げるボーディ。

「まあ、それはそうですけど」

 モフリーナはそう言うと、そっとレポートをテーブルに置いた。

「あ奴らの頭に埋め込まれておる、なんちゃら頭脳というのが、結局は管理局との通信回路…のぉ」

「そして、腹部に埋め込まれている何とかという電池が、精神体とエネルギーの器…ですか」

 先程までボーディとモフリーナが見ていた資料によると、サラとリリアには管理局との通信用のアンテナに類する物と、魂のエネルギーと精神体を納めるための器が埋め込まれているらしい。

 2人の呟きに反応したのは、存在感の薄いダンジョンマスターであるモフレンダ。

「超小型ポジトロン電子頭脳は、肉体の制御と管理局との通信用。エネルギーの転送もここで行われている。複合素粒子電池は、精神体と魂のエネルギーが納められている器。管理局からの転送で送られてくるエネルギーを通信器官で受け取り溜めておく。無論、経口摂取した栄養分もエネルギーに変換されて、ここに溜められる。また肉体の制御関連の指令や感覚器官からのフィードバックは、ここかと電子頭脳とで行われている。なかなか良く出来ている」

 今の今までその存在すら感じさせなかったモフレンダの長文での説明に、

「お、おう…」「え、ええ…」

 ボーディもモフリーナも、ちょと引き気味だ。

「普通の生命体とはかなり構造は違って興味深い。だけど、新しい肉体にこれらを移し替えるのは、そう難しくない」

 ドヤ顔のモフレンダの言葉に、苦笑いするしかないボーディとモフリーナ。

「まぁ、そこはモフレンダを信じておるよ、妾は」「ええ、それは私もです」

 2人が持ち上げたからかどうかはわかないが、モフレンダの鼻の穴が大きく膨らんだ。

「2つの器官の摘出自体は難しくないし、そこから魂のエネルギーと精神体を抜きだして移殖するのも簡単。だけど、2人に適合する肉体の製造に問題が有るかも」

「うむ、そこは慎重に精神体の適合検査をせねばなるまい」

 モフレンダによる問題点の指摘に関し、ボーディは無難な答えを返すにとどまる。

「そうですねぇ。まあ、彼女達は元々決まった肉体を持った事が無いようですので、適合特製の特定が難しいかもしれません」

 モフリーナも、ここは無難な発言となった。

「わかった。何タイプかボディを用意してみる」

 2人の答えに、モフレンダはそう言うと、また口閉じてレポートへと視線を落とした。


 さてさて、この星の真裏のパンゲア大陸で、ダンジョンマスター達が話し合っていた丁度その時、やや日が傾いたネス湖の畔のトールヴァルド邸の応接室では、ユズユズ夫妻が何やら真面目な顔で話し合っていた。

「ん~、やっぱり僕の考え通り、平仮名も片仮名も呪法では使えそうだね」

 真面目な顔で何やら神に書き込んでいたユズキが、ペンの尻で頭をかりかりと掻いていた。

「でもでもぉ~、それだと必要な文字数が増えない?」

 向かい合ったソファーに座ったユズカは、傍らに寝かしたユズノを優しく撫でながら、そう返した。

「確かにそうなんだよねぇ。今まで何にも考えないで漢字を並べていたけど、あれで上手く言ってた理由も知りたいなぁ」

「そうしたら、まずは今まで造ってた物を見直すぅ?」

「それが良いかなぁ。取りあえず、今一番人気の通信の呪法具からやってみようか」

「うんうん! 高級品でガラケーぐらいの大きさにはなったけど、結局あれって無線の糸電話でしょう? 今度はちゃんと電話っぽく出来ないかも研究しない?」

「スマホは無理でも、せめてそれぐらいにはしたいかな。マナーモードとか、メールやカメラ機能も欲しいし」

「そうそう! そうしたら、柚希と離れててもいっぱい話せるよね!」

「それだ! そうだ、カメラだよ! 一足飛びに写メとか無理なんだから、まずはカメラをつくろう!」

「あああああ! それ! 本当、それ! それなら簡単に開発できそう!」

「だろ、だろ!?」

「うん! 私、柚乃ちゃんの写真をいっぱい撮りたい!」

「よ~っし、僕はやるぞー!」

「頑張って、あ・な・た♡」

 いや、お前も頑張れよ…とは、ユズキは言わなかった。

 なんだか良く分からないうちに、新しい呪法具のアイディアと研究目標が、ラブラブ夫婦のラブラブ会話から生れた瞬間だった。


 この後、ユズキがカメラの開発に着手したいとトールに相談した所、即断即決でGOサインが出された。

 まあ…トールから、出来れば動画撮影を最終目標にと言われる事にはなったのだが、それはユズキも望むところ。

 愛する妻と娘の為、この日よりユズキは寝る間も惜しんで研究に勤しむのであった。

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