第1196話  いっち、にっ!

 トールの嫁ーずが、何やら不穏な会合を開いていたその頃、トールはベッドの上で目を閉じて考えていた。

 それは、前世での最後の時から始まり、この先の未来の事までを。

 何だかちょこっといや~な予感がしたのだが、まあナディア達も居ないし、俺が気にしすぎているだけかな?


 前世でのトールは、大河芳樹として生まれ、結婚もしたし子供も出来た…が、結局は離婚して、最後は仕事中に車に押し潰されて死んだ(その瞬間の記憶はない。局長やサラから状況を聞いた)。

 そして、あの輪廻転生の輪の中で管理局長に拾い上げられた時の事。

 次に意識を取り戻したのは、この世界での母となるウルリーカの子宮の中。

 生まれてからは、お手伝いさんの娘で1歳年上のミルシェと共に過ごし、気が付いたらモンスターのスタンピードから村を護るために、ガチャ玉で創り出した装備やブレンダーと共に立ち向かった事。

 何故か、魔素を感じようとしてたら、精霊さんに進化させてしまっていたらしいけど、それは余談かもしれない。

 ダンジョンマスターのモフリーナと知り合い、ダンジョン発展のためにエネルギーを与えた時の事。

 少し離れた山間に巣食うワイバーンの群れを討伐した時の事は、鮮明に覚えている。

 あの時、某ロボットアニメの思念波で動かす武器の様な者が欲しくて、クイーンとファクトリーを創りだした。

 父さんから領地を分けてもらって湖を造った。

 湖畔に屋敷を建てたり、トンネルを開通させたり、南方の森を探索してエルフにドワーフに人魚さんとも出会った。

 某ロボット刑事のマザーをイメージして創り上げた女神が、実は湖の浄化装置だなんて、誰も知らない事だったりする。

 隣国との戦の為、女神ネスをでっち上げ、ついでに太陽神も勝手に創ったりもした。

 その後、メリルやイネス、あとはサラも村にやって来て、俺の邸は賑やかになった。

 街を発展させるために、温泉を掘ってそれを中心とした一台観光リゾートを造り上げた。

 気付くとミレーラにマチルダもやって来て、いつの間にやら、婚約者が5人に増えた。

 恐怖の大王とも戦ったけど、あれは気持ち悪いキノコの親分だった。

 それから、それから…………。

 そんな事を懐かしく感じながら思い出していると、段々と意識が深い闇の中に落ちていった。 


 ちなみにその夜は、誰も俺の睡眠を邪魔した者は居なかった事だけは、しっかりと記しておく。

 何だかいや~な予感がしたんだが…気のせいだった様だ。

 フラグじゃ無くて良かったよ。


 翌朝、今日は珍しくネス湖から朝靄がゆらゆらと立ち昇っていた。

 目覚めたばかりの俺は、胸いっぱいに朝の静謐な空気を吸い込む。

 少しだけ胸の中の熱が冷めたかな? ちょっとだけ気温も下がって来たようだ。

 この星には明確な四季は無いのだが、それでも多少の気温の変化はある。

 今は、もうすぐ冬が来るかなぁ…って感じ。

 とは言っても、冬でもそう寒くはない。

 薄手でも長袖を1枚着ているだけで過ごせる程度の気温なので、生まれてこの方、アルテアンの地で厚着なんてした事無い。

 いつぞやの盆地での恐怖の大王との戦いの時は、流石にこの地よりも標高が高かったため、結構気温も少し低めだったので上着を着たりもしたけどね。

 まあ、モフレンダが最初にこの星に送り込まれた時の様な、くっそ高い山の上とかだったら、万年雪とかで滅茶苦茶に寒いんだろうけど。

 

 う~ん! 思いっきり背伸びをしたら気持ちいい!

 そう言えば、小学校の頃って、夏休みはこんな風に朝早くに近所の公園に集まって、ラジオ体操してたよなぁ。

 朝の鍛錬の前に、準備体操がわりにちょこっと懐かしいあの歌でも口遊みながら身体を動かそうかなぁ。 

 いっち、にっ、いっち、にっ!


 こうして裏庭で日課の朝の鍛錬をしている俺を、邸の窓から嫁ーずが無言で見つめている事に、俺は全く気付かなかった。

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