第1195話  妻達は欲求不満

 この前、嫁ーずに襲われた(んだと思う)夜から数えて、もう7日目。

 あれから、ずっと俺は1人で寝ている。

 おかげで、漸く体調も整って来た様な気がする。

 うん、気がしてるだけ。

 だって、全然覚醒する気がしないんだよ。

 何故だろうなぁ。

 こんな風にベッドで横になった時だけでなく、朝の鍛錬中もずっと考えちゃうのがいけないんだろうな。

 そういえば、前に覚醒しそうだって言われた時って、何も考えて無かったっけ?

 ん~っと…何か考えてた気がするんだけどなぁ…違ったかなぁ?


「皆さん、そろそろ限界が近いのでは?」

「そう言うメリルさんはどうなんですか?」

「マチルダさん、私とメリルさんは、妊娠してからというもの、そういう欲求がかなり減ったのですよ」

「え、ミルシェさん…本当ですか?」

「なるほど、では私達も妊娠すれば、この疼きもおさまると?」

 トールがベッドの上で悶々としていたちょうどその時、とある嫁ーずの部屋に集まった5人のトールの嫁達が、何やら非常に不穏な話をしていた。

「まあ、私とミルシェさんの事は、この際おいておきましょう。それよりも皆さんの事です」

 薄暗い部屋の中、毛足の長い絨毯の上にそれぞれが持ち込んだマットを置いて、その上にぺたりと座り込んだ5人。

 蝋燭の炎を囲む様に円陣を組んだ5人は、傍から見るとかなり怪しい集まりにしか見えない。

 メリルとミルシェだけは、お腹を冷やさぬように大きめマットだけでなく、ファンシーな色のブランケットも持参していた。

 とは言え、その程度でこの怪しい集会の様な状況はいささかも薄れない。

「ですね。このままだと、皆さんが爆発すると思います」

 メリルとミルシェが心配しているのは、早期覚醒を目指すトールが、3人の妻達を遠ざけた事。

 いや、普段はそんな事は無いし、喧嘩をしているわけでは無い。

 単に、夫婦の営みを遠ざけたという事だ。

 しかし、その弊害は結構大きい。

 トールには特に何かあるわけでは無い。

 むしろ、問題は3人の妻達の方にあった。

 簡潔に言おう。

 3人の妻達は欲求不満になりつつあるのだ。  


 メリルとミルシェの妊娠発覚後、妊活に非常に貪欲になった、ミレーラ、マチルダ、イネスの3人。

 元より、この世界では人族の妊娠はなかなか難しい。

 決して妊娠しないと言うわけでは無い。

 ただ、妊娠しにくいのだ。

 なので、子供は周囲が大事に大事に育てている。

 子は宝…それは集落や村、街や領、そして国であっても、その考えは変わらない。

 誰もが子供は大事に大事に慈しみ育てる…まあ、一部の不届き者を除き…だが。

 さてさて、そんな状況下で発覚した2人の妊娠。

 無論、ミレーラもマチルダもイネスも、トール同様に大いに喜んだ。

 だが、それ以上に、次こそは自分も…という気持ちも膨れ上がった。

 そして始まる、寝室への毎夜の突入&トールへの襲撃。

 トールはトールで、何とか侵入を妨げようと、あの手この手で阻止しようと手を尽くす。

 しかし、ここで天の助けが入った。

 嫁ーずが全員妊娠したら、ナディア、アーデ、アーム、アーフェンがお手付きを希望したのだ。

 妖精達であれば、気心も知れているだけでなく、絶対的にトールを裏切る事は無い。

 しかも4人は正妻では無く、愛人でも構わないという。

 子供が出来ても、人族では無いはず(ハーフ確定)なので継承権も不要との事。

 だったら、何も問題はない! と、嫁ーず会議にて、満場一致でOKを出した。

 その結果どうなったかと言うと…嫁ーずがトールの寝室に侵入する手助けをし始めたのだ。

 光学迷彩を使いこなす事が出来る妖精達が予め寝室に潜み、トールが寝静まった頃合いを見計らって、扉を開ける。

 そして雪崩れ込む嫁ーず&ナディア達4人。

 無論、ナディア達はまだ手は出さない。今は後学のための見学だけである。

 それも自身も光学迷彩で姿を消して、かぶりつきで見学だ。

 きっと、トールが聞いたら周知で身悶えするだろうほどに、間近でほぼ毎夜の如く見学だ。

 そう、ほぼ毎夜の如くである。

 つまり、どこかに出かけていたり、忙しく体力を使い果たした時以外は、ずっとトールと嫁ーずは、夫婦生活に励んでいたのだ。

 それが、ここ数日は、一切の寝室への侵入をトールに禁じられている。

 かなり強く禁止されており、妖精達と言えども侵入は許されていない。 

 毎夜の如くアレやソレをとことんヤッていた3人の欲求は溜まりまくっていても当然かもしれない。


「では、こうしたらどうでしょうか……」

 マチルダが辺りを気にしながら、小声で語り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る